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やっぱり俺は幼馴染みが好きだ

 振り向くと、やはり俺の予想通りの相手が立っていた。


「リョウ……。なんでここに?」


「漫画の新刊を買いに来ただけだよ。それとも何?僕はここにきちゃいけなかったの?」


「いや、そういうわけじゃないけど……」


 リョウの切れ長の瞳から放たれるのは、軽蔑を含んだ冷たい視線。俺は思わず目線をそらす。ああ、なんて場面を見られてしまったんだ!リョウに幼馴染みエンド宣言をしたのは、今からわずか2日前。舌の根が乾かないうちに、幼馴染みではない女の子と二人きり……。どう見ても、立派なクズ野郎です。本当にありがとうございました。


「ねえゆう、その子は誰? 」


「え、ええと、俺のクラスメイトのエレナだ」


「へえ、この子が。はじめまして、僕は友人のリョウです」


「……よろしく」


 リョウはにこりとお得意のイケメンスマイルを浮かべた。普通の女の子ならぽっと頰を赤く染める場面だが、エレナの表情は冷たく凍りついたままだ。流石だな、このイケメンに対しても氷の妖精を貫けるとは……。


「さっそくだけどエレナさん、ひとつお願いがあるんだけど。僕、ゆうに話したいことがあるんだ。少しの時間だけゆうを貸してくれないかな」


「別にいいけど」


「ありがとう。それじゃあ、ゆう行こうか」


「……ごめん、すぐに戻るから」


 俺はエレナをその場に残し、リョウの後を追いかける。その間俺は全く生きた心地がしなかった。きっと断頭台に向かう死刑囚もこんな気持ちだろう。


「ここで話そう」


 リョウはフロアを出た場所にある階段の踊り場で足を止めた。エレナがいた場所からはだいたい直線距離で15メートル程離れている。見通しもいい場所なので、盗み聞きされる心配もないだろう。


「それで、どういうことなのかな。なんでゆうは好きでもない女の子とデートをしているの?」


 リョウは笑顔で尋ねる。声のトーンも優しい。側からはなんてこともない雑談をしているように見えるだろう。しかし長年の親友である俺には分かる。目が全然笑っていない上に、言葉は妙に刺々しい。リョウは怒るとき、感情をむき出にしたり声を荒げることは決してない。冷静に淡々と相手を攻めるんだ。


 ーーそう、今みたいに。


 俺のノミのような心臓は破裂寸前だったが、冷静を装うことにした。


「デ、デートじゃない。エレナがヒーロー漫画を見たいって言うから、教えてあげてただけだよ」


「僕はデートしているようにしか見えなかったけど。あんなにデレデレニヤニヤして、鼻の下はいつもの3倍は長いよ。それにお互い名前で呼び合っちゃって。ずいぶん仲が良くなったんだね」


 よく見てんなコイツ。その洞察眼がモテる秘訣なのか?


「とにかく誤解だ!本当にただショッピングに付き合っていただけだって! 」


「それじゃあ、エレナさんにきちんと自分の気持ちを伝えられたの?」


 一瞬呼吸が止まった。その話題は今一番触れられたくないのに!


「……そ、そう、これから言おうと思っていたんだよ。なかなかタイミングが難しくてさ、ははは……」


「嘘だ!」


 リョウが急に声を荒げたため、周囲にいた客がチラチラとこちらを見てくる。しかし、リョウは気にせず続ける。


「ゆうはこのままエレナさんと付き合うつもりでいただろ。このクソチョロ童貞が! 可愛い子にちょっと優しくされた位で好きになるなよ! ラノベヒロインも真っ青のチョロさだよ!」


「そ、そんなわけないだろ。何を根拠に 」


「瞬きの回数が多い、それにずいぶん早口だ。ゆうは昔から嘘をつくのが下手だからすぐ分かる」


 昔からリョウは俺の嘘を見抜くのは上手かった。それが後ろ黒いことならなおさらだ。俺はもはや何も言い訳する気にはならなかった。


「……ごめん」


「なんで僕に謝るんだよ」


 リョウはふうと大きなため息を吐いた。それからまるで小さい子供を諭すみたいに、優しく話し始めた。


「僕はね、別に責めているわけじゃないんだ。だって誰と付き合おうとそれはゆうの自由なんだから。それに告白を断るのことが、とても勇気がいるのも分かる」


「ああ」


「でもね、僕はひとつ聞きたい。ゆうはエレナさんのことが一番好きなの? 」


「えっ?」


「一番好きじゃないなら、それは妥協だよ。付き合えそうだから、付き合う。それって、相手にとって失礼じゃない? ゆうは後々後悔するだろうし、きっと彼女とは上手くいかないよ」


 ぐうの音も出ない正論。俺は自分のことばかり考えていた。傷付きたくないから、楽をしたいから。俺って本当に最低だ。


「でも、まだ間に合うよ。もう一度、落ち着いて考えてみて。ゆうが一番好きな女の子は誰なの?」


 深呼吸を一し、目を閉じる。熱していた脳味噌がクールダウン。俺は段々と冷静になっていきーーそして暗闇の中ぼんやり浮かんできたのは、みなみの眩しい笑顔だった。

 俺はゆっくりとまぶたを開く。


「やっぱり俺は幼馴染みが好きだ!」


「それでこそゆうだよ」


「エレナにはきっぱりと断る。それがケジメだよな」


「うん」


「ありがとう、リョウ。お前がいたから俺は間違えなかった。もう少しで俺はぽっと出の美少女キャラを選ぶような最低糞野郎主人公になるところだったよ」


「大袈裟だなぁ。僕はゆうの親友なんだから、これくらいは当たり前だよ」


 リョウは微笑む。しかしそのイケメンスマイルは、いつもと違ってなんだか少し悲しげに見えた。


「リョウ……?」


「もうこんな時間か。おばあちゃんが心配するから僕は帰るね。それじゃあゆう、頑張ってね」


「ああ、またな」


 リョウはそのまま階段を駆け下りていってしまった。なんだ今のは……?


「ちょっと優太!いつまで私を待たせる気なのよ」


「ヒェッ! エレナ」


 いつの間にか、俺の背後にエレナが立っていた。心の準備ができていなかった俺は、大きく狼狽してしまう。


「何びっくりしているのよ、失礼しちゃう。そういえばアンタの友達の姿が見えないわね。もう帰ったの?」


「あ、ああ。待たせてゴメンな」


「そう。ね、それよりコレ見てよ。つい、こんなに買っちゃったわ。優太のオススメだから読むのが楽しみだわ」


 エレナは大きなビニール袋を両手で抱え、ニコニコと微笑んでいる。そんな無邪気な姿を見て、俺の心はきりりと痛んだ。こんなに俺のことを慕ってくれてるのにーー。

  でも、もはや俺には迷いはなかった。今度こそ、エレナに自分の気持ちを伝えてみせる!


「なあエレナ、この後いいか?大切な話があるんだーー」


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