幼馴染みじゃなくてもいいんじゃないか?
それから俺たちは4階の少年漫画のフロアにやって来た。さて、エレナにオススメヒーロー漫画を教えよう。さっきの映画のお礼なんだから仕方ない。それに日本の漫画、つまりはクールジャパンを広めることは国民の義務でもある。
もちろん、これが終わったら告白を断るつもりだから!
そう自分に言い訳しながら、本棚だらけの広大なフロアを2人並んで歩く。物珍しそうに辺りをキョロキョロ見回しているエレナは最高に可愛いぜ。じゃなかった、エレナより漫画だ。えーと、あの漫画はたしかこの辺に……。おっ、あった。
本棚から一冊の漫画を出し、エレナに見せる。
「ほら、これが俺のオススメのヒーロー漫画だ。どんな敵もキック一発で倒すヒーローなんだけど、その強さ故に思い悩むんだ」
「『ワンキックマン』?へえ、絵が綺麗ね。ストーリーも面白そう」
エレナは興味深そうに漫画の表紙を眺めている。どうやら俺の見立ては正解だったようだな。この『ワンキックマン』は線が多い緻密な絵柄に、派手なデザインのキャクターだ。アメコミ好きのエレナには受け入れやすいだろう、という俺の思惑はドンピシャだったわけだ。
「よし、全巻買うわ」
「ええっ、10冊以上あるぞ。お金は大丈夫なのか? さっき映画館でパンフレットも買っていただろ」
「大丈夫!いざという時のために貯金はしてあるの。こういう時に使わないでいつ使うのよ」
エレナはウィンクすると、本棚から残りの漫画本を取り出し始めた。彼女のまさかの行動に俺は言葉を失う。気に入ってくれればいいと思ったが、大人買いまでするとは予想外だ。ヒーローの何がそこまでエレナを突き動かすのだろう。
「なあ、なんでエレナはそんなにヒーローが好きなんだ?」
「一言で言うと、格好いいところかしら」
「ああ、敵を無双するところなんか見ていてスカっとするよな」
「確かに、強いところもいいところね。でも私はそれよりもヒーローの『信条』に惹かれるわね」
「信条?」
「どんな時でも自分の正義を信じて、悪に立ち向かうところよ。私もヒーローのように正しくありたいと思うけど、なかなか難しくて。それに比べて……」
エレナはそこで言葉を切ると、俺の顔じっと見つめる。彼女の青い瞳はとても綺麗で、ずっと見ていると吸い込まれそうだ。
「ん? どうした」
「な、なんでもないわ。そんなことより、他にもオススメがあるんでしょ? 教えてよ」
「ああ、じゃあ『俺の英雄教室』なんてどうだ? これは主人公が最初は無力だったんだけど、あるヒーローとの出会いですごい能力を手に入れるってストーリーなんだ」
「面白そう! ねえ、主人公が会ったヒーローってやっぱりすごく強いの?」
「ああ、もちろん。作品内で一番強いヒーローなんだ。でも以外な弱点があって……」
それから俺達はヒーロー漫画について熱く語り合った。エレナの食い付きは想像以上で、時折質問を混じえながらニコニコ笑顔で俺の話を聞いてくれている。
ああ、なんて楽しいんだろう! 今の俺はかなりのリア充だ。
考えてみれば、女の子と一緒にアニメショップに来ることは俺の長年の夢だった。まさかこんなに早く夢が叶うとはな。本当はみなみを連れて来たかったんだが、「アニメとか子供が見るものじゃん。ゆうちゃんてばまだまだお子様だねぇ、ぷぷぷ」と馬鹿にして取りつく島がなかった。みなみはオタク趣味を嫌うことはなかったが、理解を示すこともないタイプの人間だ。
そう考えると俺との相性は、みなみよりもエレナの方が良さそうだ。それにそもそもの話、みなみは俺のことが好きなんだろうか?告白しても断わられる可能があるぞ。
でもエレナは違う。だってこんなに分かりやすいくらい俺のこと好きなんだぞ。今ならなんの葛藤も苦労もなく、可愛い彼女が手に入る。
ーー幼馴染みじゃなくてもいいんじゃないか?
エレナの無邪気な横顔を見ていると、ふとそんな黒い考えが浮かぶ。
それはまるで半紙に垂らした一滴の墨汁のように、俺の心にじわりじわりと広がり侵食していきーー。
その時だ。
「ゆう、何しているんだよ」
ハスキーなイケメンボイスが、俺を現実へ引き戻したのは。




