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俺が好きなのは幼馴染だろ!

 映画館から徒歩3分、高層ビルが立ち並ぶ一角で俺たちは足を止めた。そのビルは夕日を受けキラキラと怪しく輝いている。


「なんだかすごい店ね……」


  山田さんがそう小さく呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。まぁ、そう思うのも仕方ないか……。


 9階建てのビルの上壁には、アニメキャラが描かれた大きな看板。ツインテールの魔法少女が、ブルーレイ第1巻発売!の謳い文句と共に眩しい程の営業スマイルを振りまく。一方の地上でも、アニメキャラがペイントされたキッチングカーが鎮座。アニメとのコラボフードを求め、客が大行列を作っている。イケメンキャラが売りの作品のせいか客層はほぼ女性で、鞄に押しキャラのラバストやアクキーをジャラジャラと付けている。

 このカオスな場を盛り上げるのは、いかにも電波な歌詞のアニソンだ。店内で流している大音量のBGMが、外まで漏れ聞こえてくる。


  ーーそう、ここはアニメ専門ショップである。


  ひらたく説明すると、アニメや漫画やゲームの関連グッズを取り扱う店だ。つまりオタクにとっての聖域、いや天国と言っても過言ではないだろう。


「アンタって、普段からこの店に通ってるの?」


 山田さんの顔から笑顔が消えた。ついノリでここまで連れて来てしまったが、冷静に考えると一般ピープルにはキツ過ぎる光景だよな。きっとこの店、いや俺自身のことをキモいと思っているに違いない!


 ここは誤魔化さないと……。


「いやいやいや、以前一回来たことがあるだけだよ。映画館から近いからちょうどいいなぁ、と思ったんだけど、まさかこんなオタクくさい店だったなんて!いや〜すっかり忘れてたなぁ。人の記憶ってあてにならないよな。あははは……」


「久しぶりってわりには、ずいぶんスムーズに来られたわね。全然道にも迷ってなかったし」


 はい、完全にバレています。山田さん、お願いだからそんな目で見ないで! コレ絶対キモいと思われているよ。嫌われるのはイヤだなぁ。




 ……いや、むしろ嫌われた方がいいんじゃね?


 すっかり忘れていたが、俺は山田さんの告白を断らなくちゃいけないだ。向こうから嫌いになってくれればその手間は省けるし、山田さんは傷付かない。ギャルゲーでもワザと好感度を下げる選択肢を選んだりするもんな。


 よし、もっとキモオタアピールしよう。


「実はそうなんだ。週一で通っているくらい常連でさ」


「……そう」


「先週もこれを買いにわざわざ来たんだぜ」


 俺は通学鞄から一枚のCDを取り出した。アニメ絵のジャケットに、山田さんは眉をひそめる。ふふ、ドン引きしているな。ここはもう一押しだ。


「これは『俺の学園ハーレムがこんなに残念なはずがない』という作品のヒロイン『陽子』のキャラクターソングなんだ」


「……それいつも持ち歩いているの?」


「ああ、もちろん。これは布教用だからな」


「布教用?」


「好きなものは他の人にも知って欲しいじゃないか。だからいつでも誰かに貸せるようにしているんだ。ちなみに布教用の他に、観賞用と保存用を持っているぞ」


「お、同じCDを3枚も買ったの?」


「だってすごいいい曲なんだぜ。着メロにも設定したし。よかったら山田さんも聞いてみないか?このCD貸すからさ」


 山田さんに無理矢理CDを押し付ける。ククク、これは相当キモいぞ。さあ山田さん、俺を貶め!冷たい目で見ろ!口汚く罵れ!


「……分かったわ。アンタがそんなに勧めるなら聞いてみる」


 しかし俺の予想に反して、山田さんは素直にCDを受け取った。


「あ、あれぇ?」


「なに、その不満そうな目は。アンタが貸してくれるっていったんでしょ」


「てっきりキモがられてるかと思ったよ」


「まあ正直少し引いたけど。でも……」


 山田さんは真っ直ぐ俺を見つめる。その青い瞳はどこまでも澄んでいて……。


「さっき優太は私の趣味を馬鹿にしなかった。だから私も優太の趣味を理解したいの」


 あああ!やっちまったぜ!さっきの映画館での何気ないやりとり、どうやら超重要イベントだったようだ。そうとは知らない俺は、山田さんの喜ぶようなことを言ってしまったわけで……。

 だってそんなの分かるわけないだろ!なんで三次元は選択肢が出てこないんだよ!マズイ、マズイ。これはマジでマズイ。ますます断りづらくなってしまった。


 ん?それよりも……。


「今俺のこと『優太』って……」


「あっ!」


  山田さんは真っ赤になって口を両手で覆い隠した。普段、山田さんは俺のことを『アンタ』とか『オマエ』としか呼ばない。でも今たしかに俺のことを『優太』と名前で呼んだ。俺は難聴ではないので間違いない。


「……ねぇ、優太って呼んでいい?」


 10秒ほどの沈黙の後、山田さんはそう俺に尋ねた。彼女の顔は沸騰したヤカンみたいに熱々で、今にも湯気がでてきそうだ。見ているこっちまで熱くなってくるぜ。


「う、うん。そう呼んでくれると嬉しいかも」


「じゃあ呼ぶわね。ゆ、優太……」


 その声色は、例えるならホットチョコレートみたいだった。いつもの山田さんの冷たい印象から考えられないくらい、甘ったるくて、暖かくて……。

 ダルダルに緩みそうになる頰をなんとか引き締める。


「な、何か用か?」


「呼んでみただけ。ふふ……」


 山田さんは恥ずかしそうに微笑む。ずっと見ていたら、本気で好きになっちゃいそうな反則級のスマイル。もう俺は限界だった。頰の筋肉は力なく緩み、だらしないニヤニヤ笑みを浮かべてしまう。


「ねぇ、優太も私のこと名前で呼んでよ」


「え、ええ、それは……」

 

 女の子を下の名前で呼ぶ、そんなことはみなみ以外で初めてだ。なんだか気恥ずかしいというか……。


「駄目なの?」


 うう、山田さんそんな寂しそうな顔しないでくれよ。よし、俺も男だ。覚悟を決めるぞ。


「わ、わかった。呼ぶよ。その……エレナ!」


「な、なに? 」


「その……呼んでみただけ……。はは」


「もう、優太のバカ」

 

 それから2人でケラケラ笑い合う。別にそんな面白い話をしたわけじゃないのに、なんだか妙に可笑しくて。心もポカポカと温かくなってきた。なんかこういうの、すごくいい。

 まさかここで『名前呼びイベント』が来るとは。なんだかエレナとの距離がグッと縮んだ気がする。

もっとエレナと仲良くなりたい、知りたい。そんな欲求ばかりがどんどん強くなっていく。

 ああ、今ならぽっと出のヒロインを選ぶ糞主人公の気持ちよく分かるぜ。こんな可愛い子を目の前にしたら誰でもクラっと来ちゃうよな……




 ……



  駄目だ駄目だ!俺が本当に好きなのは幼馴染みだろ!でもエレナにも段々と惹かれているのも事実。

 このままだと俺はーー。


「ほら、こんなところで突っ立っていたら迷惑でしょ。早く店に入るわよ」


 いきなりエレナが俺の手を掴んだ。


「ちょっ、山田さ……じゃなくてエレナ!」


「オススメを教えてくれるんでしょ?早く案内してよ」


 エレナに手を引かれ、店へ入る。何度も足を運んでいるはずなのに、店内はいつもと違ってキラキラ輝いて見えた。


 ああ、これは本格的にヤバくなってきたーー。

ゆうちゃんは流されやすい性格だからしょうがないよね

5/2 誤字の訂正、内容の追加を行いました

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