無論それは『幼馴染み』のことである
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山田さんは劇場外のロビーで待っていた。よっぽどさっきのことが恥ずかしかったのか、少し顔を俯かせ俺と視線を合わせないようにしている。
「よかった。また先に行っちゃったかと思ったよ」
「パンフレットが欲しかったのよ」
山田さんはぶっきらぼうに答える。その手には劇場のロゴがはいったビニール袋が握られていた。ああ、あそこの売店で買ったのか。
「パンフレットまで買うなんて、よっぽどこの映画が好きなんだな」
「まあね。ねぇ、この映画どうだった?」
「スゲー楽しかった。誘ってくれてありがとうな」
「そう、やっぱりね。アンタならきっと気に入ると思ったのよ」
「えっ、どういう意味だ?」
「な、なんとなくそう思っただけよ。深い意味はないわ」
山田さんはそれっきり口を噤んでしまった。なんでこの話の流れで黙っちゃうんだ?こんな雰囲気じゃ、告白を断ることもできないし……。
とりあえず無難な話題を振って、様子を見るか。
「ア、アメコミの実写映画って初めて見たんだけど、予想外に面白かったよ。他の作品もちょっと見てみたいなぁ」
「本当?」
山田さんはようやく顔を上げた。久しぶりに見るその瞳は、今まで見たことない程キラキラと輝いていている。青い色も相まって、まるで宝石のサファイアみたいだ。
「じゃあ、今日の映画の前シリーズのブルーレイを今度貸すわ。ちょっと昔のヤツだから映像はショボいんだけど、ストーリーはすごくいいの。画面も少し暗いんだけど、それがすごく雰囲気に合っているのよ。あ、もちろん原作コミックも面白いのよ。日本の漫画と違って、著作権が出版社だから色々な人が書いてるんだけど、作者によって解釈が違うのよ。またそれが味わい深いというか。そうだ、原作の日本語訳版も持っているから一緒に貸すわね」
な、なんだいきなり?急に滅茶苦茶饒舌になったぞ。しかもあの山田さんが笑顔を浮かべるなんて。これはもしやーー。
「山田さんってアメコミファンなのか?」
「……うん。アメコミっていうか、ヒーローが好きなのよ。日本の特撮作品とかも好きでよく見ているわ」
フッ、やはり俺の予想通り山田さんはヒーローオタクのようだ。好きな作品やキャラクターをつい熱く語ってしまうのは、オタクあるあるだからな。
しかし山田さんはまた俯いてしまった。もしかして、また俺は変なことを言ってしまったか?
「あれ、急にどうしたんだよ」
「子供っぽい趣味だから、昔よく馬鹿にされたわ。だから誰にも言えなくて。アンタもこんな趣味の女の子なんて嫌いよね」
「いや、別に」
「えっ」
山田さんが驚いたように顔を上げた。
「実は俺にもあるんだ。ついつい夢中になって、早口で熱く語ってしまうくらい好きなものが」
無論それは『幼馴染み』のことである。『ヒーロー』と『幼馴染み』、ジャンルは大きく違うがおそらく互いの愛の大きさは変わらないだろう。
「だから山田さんの気持ちが分かるというか、親近感わいたというか……。あっ、ゴメン。それはちょっと買い被りすぎか。あはは」
「そんなことないわ。ありがとう」
不意打ちのように山田さんの笑顔。ああ、やっぱり最高に可愛い!脈拍が早くなる。これはマズイぞ。慌てて山田さんから顔を背ける。
「そ、それに俺もヒーロー物は好きなんだよ。ワンキックマンとか、俺の英雄教室とかさ。面白いよな」
「なにそれ?」
「まさか知らないのか?アニメ化もしてる超人気漫画だぞ」
「知らないわ。日本の漫画やアニメは私の専門外だから」
俺は驚きを通り越して絶句してしまった。山田さんが心配そうに見つめている。
「大丈夫?なんだかすごいショックを受けているようだけど」
「……ショックだよ。ヒーローオタクを名乗る山田さんがまさか知らないなんて」
「イヤ、別に名乗ってないし」
「すげー面白いんだよ!キャラクターも個性的で、アクションも派手で、それで、えーとストーリーもすごく心に来る、駄目だ!俺の貧弱な語彙力じゃ面白さが100分の1も表現できない! 糞が!」
「なんだかわからないけど、面白そうね。ちょっと見てみたいかも」
山田さんが興味を持ったみたいだぞ。これは布教のチャンス!俺のオタク魂がメラメラと燃え上がる。
「なあ、山田さん。この後時間あるか? 」
「大丈夫よ」
「それなら今度は俺に付き合ってくれないか?映画のお礼に、俺のオススメヒーロー漫画を教えるよ」
「それは楽しみだわ。それで、どこの本屋へ行くの?この辺りで1番近いのは駅前のジュンク堂かしら」
「いや、もっといい店があるんだ。そっちへ行こうぜ」
「そう、わかったわ。案内してよね」
ふふ、涼しい顔をしていられるのも今のうちだけだぞ。見せてやるよ、日本が誇るクールジャパンの実力をな……。
明日も1回更新予定です




