俺は幼馴染ひと筋だろ
俺の予想に反して映画は面白かった。フルCGの迫力あるアクション、複雑な人間関係、ヒーローの正義への葛藤……。最初は変態仮面(笑)と馬鹿にしていたのに、今はブラックタイガーマンを心から応援している俺がいる。
「もお、タッくん。映画に集中してよぉ」
「だってカオタンが気になって映画なんて見れないよ」
「ばか。好き」
「俺もだよ……」
ヒーローよ、真の悪は俺の隣だ。早くこのバカップル共を退治してくれ。しかし俺のSOSが届くはずはなく、スクリーンのヒーローは無残にもボコボコにされていた。くそっ、正義って何なんだよ!
ん?
突然、俺の右手が柔らかくて温かいモノに包まれた。この感触は、人間の手?右隣に座っているのは山田さんだよな。いきなり手を握ってくるなんて、なんて大胆なんだ!俺はドキドキしながら、山田さんの方を向いた。
そこには真面目な表情でスクリーンに釘付けになっている山田さんの姿が!
あ、あれ?こういう時って赤面してたり、可愛らしく上目遣いで見つめきたりするんじゃないのか。俺のことなんてアウトオブ眼中なんですけど。しかもよく見ると、青い瞳は涙で潤んでいる。え、なんで?
その理由はすぐに分かった。山田さんはスクリーンの向こう側で戦っているヒーローに、ガチで感情移入しているのだ。彼女の手は小刻みにカタカタと揺れているし、か細い声で「頑張れ、頑張れ」と繰り返し呟いている。
これがあのクールで毒舌な『氷の妖精』なのか? なんだが心臓がドキドキしてきた。ヒーローの活躍なんかより、よっぽど見ごたえがあるじゃないか。
それにしても山田さんの集中力はたいしたものだ。俺がこんなにジロジロ見ているのに、全く気が付かないなんて。きっとこの映画が大好きなんだろうな。意外な一面が見れてなんだか得した気分だ。その時、俺の手を山田さんがぎゅうと強く握りしめた。スクリーンでは、ヒーローの必殺技が炸裂。物語はいよいよクライマックスだ。さて、俺もそろそろヒーローの応援に戻るとするか……。
スクリーンにENDの三文字が映し出され、暗黒に包まれた劇場に再び光が戻ってきた。それを合図に観客達は座席を立ち上がる。気持ちいい程のハッピーエンドだったので、みんな満面な笑顔だ。隣のバカップルも面白かったねーとか言いながら去っていった。嘘つけ、お前ら映画ガン無視だったじゃねーか。さ来週あたりに別れろ。
そんな和やかな雰囲気の中、なぜか大号泣している人物が1人。
「グスッ、グス……」
「大丈夫か?」
「も、もうだ、大丈夫……」
泣き顔を見られたくないのか、山田さんは恥ずかしそうに俯く。確かに感動的な内容だったが、泣くほどでもなかったような。
「グスッ、いい映画だったから、感動してつい泣いちゃった。見苦しいところを見せてゴメン」
「いや、俺は気にしてないから。その、そろそろ手を離してくれないかな……?」
「……は?……わわっ!」
上映中から握り続けていた俺の右手から、山田さんはようやく手を離した。山田さんの顔が真っ赤に染まる。
「ゴ、ゴメン!その映画で感極まって、つい。よ、邪な気持ちがあったわけじゃないからね。ほ、ほらそろそろ出るわよ。これ以上居座ったら迷惑だから」
「あっ、待ってくれよ」
山田さんは素早く立ち上がると、まるで俺から逃げるようにさっさと先へ行ってしまった。もしかして山田さんの奴、照れているのか?可愛いところもあるじゃないか。ああ、それにしてしても山田さんの手、小さくてスベスベして温かったなぁ。もう少し握っていたかったかも……。
……ハッ、俺は何を考えてるんだ!俺は幼馴染ひと筋だろ。クールになるんだ、優太。俺は深呼吸をする。ふう、もう大丈夫。今度こそ、自分の気持ちを伝えるぞ。
俺は山田さんの後を追いかけた。
次回から1日1回投稿を目標に頑張ります




