幼馴染が幸せになることは当然である
一番可愛い女の子の属性は何ですか?
そう聞かれたら、皆はなんと答えるだろうか。
メイド、猫耳、妹、ツンデレ、ツインテール……。この世には様々な属性が存在し、まるで空に輝く数多の星々のように我々男性陣を魅了し続けている。ひとつに絞ることなんてできない!そう答える浮気性な人も少なくないだろう。 だけど、俺は違う。一瞬も迷うことなく『幼馴染み』と答えることができる。
俺は幼馴染みが好きだ。
好きなアニメキャラクターは皆一様に幼馴染みだ。ギャルゲーでは300人以上の幼馴染みと添い遂げたし、お小遣いの全ては幼馴染みキャラのグッズに消えていく始末。
それくらい俺は幼馴染みが大好きだ。
幼馴染みのどこがいいの? と聞かれたら説明に3時間程度有するが、あえて一言で言うなら『特別感』だろう。幼馴染みという属性を成立させるのはなかなか難しい。まず幼少期、それも遅くても小学低学年くらいまでに出会わなくてはいけない。この段階で大部分の人間が振るい落とされるだろう。
そして第二に、長い期間を共に過ごさなくてはならない。一緒に遊ぶのはもちろん同じ学校に通い、家が近所であるなら完璧だ。体験や秘密を共有し、堅固な信頼関係を築けたその時、ようやく『幼馴染み』が完成するのだ。
どうだ、幼馴染は『特別』だろう。そんな幼馴染と過ごす日々はもちろん特別なわけだ。
想像してみてくれ。幼馴染みが起こしに来てくれるさわやかな朝を。幼馴染みと共に登校するあの道を。クラスメイトに夫婦とからかわれるけど、実はまんざらでもなさそうな幼馴染みの表情を。考えるだけで自然と頰が緩んでくるだろう? ここまで来ればどんな鈍い人間も幼馴染の魅力に気付くに違いない。
だから、そんな『特別』な幼馴染みが幸せになることは至極当然である。ここで言う幸せとは、幼馴染み同士が付き合うことだ。別名『幼馴染みエンド』とも言う。きっとそれは、この世に存在する最上位の幸せだ。だから俺はラブコメで、幼馴染み振られる展開が大嫌いである。特に主人公がぽっと出てのヒロインに掻っ攫われるのは許せない。幼馴染との絆はそんな弱いものではないはずなのに!
そんな糞の山のような作品を見たら、俺は一体どうなると思う?
ーー当然、激おこプンプン丸である。
「んあああああああぁぁぁ! 糞があああぁぁ! なんで幼馴染みエンドじゃねーーんだよおおおぉぉ! 幼馴染みを選ばない主人公は死ねええええぇぇ!」
俺は奇声を発し、手にしていたライトノベルを全力で床に叩きつけた。例えこれがほんの2時間前購入したばかりのピカピカの新品だろうが、決して容赦はしない。本当にナニコレ、作者頭狂ってるの? 八つ裂きにしたライトノベルを送りつけてやろうか、あぁ?
「ゆう、落ち着きなよ。みんな見てるよ」
ハスキーなイケメンボイスでハッと我に返った。
夕暮れ時のハンバーガーショップの店内はほぼ満席。セーラー服の女子高生、スーツ姿の疲れた顔したオッサン、子供連れのお母様方……色々な人種がいるが皆一様にこちらをチラチラと見ている。もちろん俺がイケメンで注目されているからという理由ではない。自慢じゃないがこの俺、結城優太は『どこにでもいる普通の高校生』代表のような男である。中肉中背のフツメンーーつまり皆は俺の容姿ではなく奇行にドン引きしているわけだ。やめて、そんな可哀想な人を見る目で見ないで! 恥ずかしさのあまり顔を伏せる。
「全く、ゆうはいつも懲りないねぇ」
真向かいに座っている少年が、俺をバカにしたようにクスクス笑う。切れ長な瞳に高い鼻、規則正しく並んだ白い歯。右目の泣き黒子がトレードマークの爽やかイケメン。
コイツは親友の涼風涼、別々の学校だが放課後こんな感じでよく遊ぶ。俺が学ランなのに対して、私服の学校のリョウは白いニットにジーパンという服装だ(ジュノンボーイかよ、というくらい似合っていて少しムカついているのは内緒だ)。ちなみにリョウの言葉の端々に出てくる『ゆう』というのは俺のあだ名である。
「これで4連敗目?ゆうの発狂っぷりにもすっかり慣れちゃったよ」
「違う、もう5連敗目だ」
俺は肩をすくめて見せた。本当に最近のラブコメ作品は、幼馴染がよく負ける。当て馬になるのは当たり前、ラスボスにされたあげく爆死したなんていう最悪のパターンもあったけ。ああ、思い出しただけでイライラする!
「くそ、『俺ハー』は絶対幼馴染エンドだと思っていたのにな」
「いや、前の巻から敗戦濃厚だったよ。ゆうは一体何を見ていたの? 」
親友の辛辣な言葉を無視し、俺は床に落としたラノベを拾い上げた。『俺ハー』こと『俺の美少女ハーレムがこんなに残念なはずはない』の最終巻。アニメ化もされた大人気作品、俺もほんの2時間前まで大ファンだったのに。表紙の金髪ツインテールの美少女が俺に媚びたように笑いかけてくるが、黒いもやもやとした感情しか湧いてこない。コイツのせいで俺の愛する陽子は!
再び床に叩きつけたくなる衝動に襲われるが、なんとか耐える。駄目だ、この方法では何も解決しない。幼馴染の明るい未来のために俺ができることはないのか? 俺は腕を組み思案をはじめた。なぜ幼馴染が負けるのか、幼馴染のどこが駄目なのか。だがいくら考えてもなにも思い浮かばない。だって幼馴染には欠点など存在しないのだから。いや、そもそも幼馴染が悪い、という考え自体が間違っているでは?正にコペルニクス的転回。その瞬間、俺の中で何かがはじけた。そうか、本当に悪いのは……。
「主人公だ! 主人公がクソ野郎なんだけじゃないか」
「は? なんだよ急に」
スマホに視線を落としていたリョウが驚いたように顔を上げた。
「だって、幼馴染みは悪いところが一切ないんだぞ。むしろ主人公サイドに問題あるだろう。今まであんなに仲良くしていたのに、ぽっと出ての女になびくなんて! 糞野郎以外の何物でもないだろ」
「うーん。そうかなぁ。僕は幼馴染みにも悪いところがあると思う」
コイツ、今なんて言った? きっと俺はすごい顔をしていたんだろう、リョウは少したじろぎながらも先を続ける。
「だってさ、幼馴染みってズルいじゃないか」
「どこがだよ! 幼馴染みほど清廉潔白な存在は他にないぞ」
「いや、僕はやっぱりズルいと思う。他のヒロインが必死で主人公にアピールする中、自分だけは幼馴染みという立場を現状維持だなんて実に保守的でズルいじゃないか」
「うっ!」
「主人公だって健康な男子なんだから、他の魅力的なヒロインになびいたって仕方ない。僕は主人公を責める気にはならないね」
リョウはそこで言葉を切ると、フライドポテトを口に放り込んだ。もぐもぐと咀嚼する親友を見ながら、俺は内心滅茶苦茶焦っていた。
ヤベェ、何も言い返せねぇ。
幼馴染み故になかなか一歩踏み出せない、それは間違いなく幼馴染みの敗因第1位。そのせいで、何人の幼馴染みが苦渋を舐めたことだろう。改善しない限り、幼馴染みに明日はないということなのか?
……いや、違う。むしろそれは萌えポイントじゃないか。思い悩む幼馴染みは最高に可愛いし、乗り越えた後のカタルシスはたまらない。まあ少し時間はかかるけど、幼馴染みエンドを迎えられると思えばそれは一種のスパイス。そうか、忍耐だ!主人公に忍耐が足りないけじゃないか。やった、俺はついに真理にたどり着いたぞ!
勝利を確信した俺は思わずこう叫ぶ。
「俺だったら何があっても幼馴染みを選ぶぞ!だからやっぱり主人公が全部悪いんだ」
リョウは驚いたように目を大きく見開くと、俺の顔をじーっと見つめる。あ、あれ?なんだこの反応は?
「『俺は』? おかしいな、僕達はラノベの話をしていたはずなのに『俺』なんて……」
次の瞬間にはリョウの顔がニヤニヤと嫌らしい笑みで歪む。あ、これは俺をからかう時にする顔だ。なんだか嫌な予感がしてきたぞ。
「そういえば、陽子って『みなみちゃん』に似ているよね」
「は、はあーっ? なんでアイツの名前が出てくるんだよ!」
『みなみ』
親友の口から飛び出した意外な名前に、俺は思わず声を荒げた。
「2人とも髪型は茶髪のショートヘアーで、世話焼きな性格も一緒じゃん」
「全然似てねーよ。陽子の方が百倍は可愛いに決まっているだろ」
「なにより『幼馴染み』という大きな共通点があるね」
「き、気のせいだろ」
ひどく遠回りでいて、だけど退路を断つような言い回し。コイツは一体何がいいたいんだ?わからないけど、何か嫌な感じ。嫌な汗が背中にじっとり滲む。
「今まで不思議に思っていたんだ。なんでゆうがそんなに幼馴染みキャラが好きなのか。でもやっと理由が分かったよ」
「は、はあ?」
「つまりーー」
リョウはそこで大きく息を吸い込むと、一息にこう言い切った。
「ゆうはみなみちゃんのことが好きなんだよ!」
その瞬間、雷に打たれたような衝撃が全身に走った。俺がアイツのことを好き……だと……?
ないないない!絶対それだけはないから!全くリョウは何を言っているんだ。軽く笑って突っ込んでやろう。
「そ、そんなこと、あ、あるわけないだろ」
なのに、出てきた言葉は噛みまくりの震えまくり。心臓は今にも破裂寸前なくらいドキドキしていた。体もカーっと熱くなる。あ、あれ?おかしいな。これじゃあ、まるで……。
そんな俺を見て、リョウはケラケラと笑い始めた。
「顔真っ赤じゃん!分かりやすいよね、ゆうは」
「違うって!俺は二次元に生きる男だから。三次元とかマジ糞だから。だからこの話はおしまいだ!」
「はぁ、ゆうは本当に素直じゃないね。早く行動しないと幼馴染みを逃しちゃうかもしれないよ。『俺ハー』みたいにね」
「だから違うって言ってるだろ!」
自分が発したとは思えないくらい大きく怒りで震えた声だった。しまった! そう思った時には全てが遅く、リョウの顔はまるで能面みたいな無表情になっていた。
「からかってごめん。もうこの話はしないよ」
「う、うん。わかってくれたらいいんだよ。俺も大声出して悪かったよ」
「……」
「そうだ。この前買ったゲームかクソゲーでさ……」
気まずい空気に耐え切れず、話題を無理矢理変える。幸いなことに、その後リョウが蒸し返すことはなかった。しかし、俺を見る視線が気になる。妙に優しいというか、まるで見守っているような。や、やめろ! そんな生暖かい目で俺を見るな。違うからな!俺は断じて『好きな女の子に対して素直になれない思春期のピュアボーイ』ではないぞ!
だって俺は幼馴染みのことなんて全然、これっぽっちも好きじゃないーー
ーーハズだよな?
私がこの作品で皆様に1番伝えたい事は、幼馴染は最高だぜ!ということです。大人になって欲しいなぁと思っても手に入らないですからね。やっぱり幼馴染は最高なのです




