8話 死神との決着
魔王は現状を把握しながら敵の様子を見ていた。
おそらく敵が死神ということは間違いない。
それとあの鎌、魔法で強度が増している。
「サアドチラダ?」
「じゃあこんなんはどうかなーーーー」
魔王は大きく一歩を踏んで、風の如く敵の前に現れる。
そして剣を振り上げて、
「ーーーーお前が死ぬってのは!」
死神は持っていた鎌でガードの体制に入ったが、魔王は振り上げた剣を離して手を前につき出す。
そして、手のひらから氷の吹雪が敵に目掛けて放たれた。
死神は凍った鎌を一瞬で解凍して、攻撃に入ったのと魔王が剣を掴んだのは同時だった。
「闇の爪」
「壁!!」
いくつもの黒く澄んだ破片が飛んで来たが魔王の目の前には自分の身長の2倍近くある壁が創造されて、破片は粉々に砕け散る。
「オマエ…マホウツカイダッタノカ?」
「さぁな!」
創造した壁を敵の方に飛ばすが、それは鎌でアッサリと二つに割られてしまう。
だが、その割れた壁の裏からの爆発には反応出来なかった。
爆撃で飛ばされた死神はゆらりと立ち上がり、反対側を向いた右腕を眺めた。
「ウデガオレテシマッタカ…」
死神は反対側になった右腕を掴んで強制的に元の方向に戻す。
その光景はまさに人を超越したなにかであった。
「キバクシキノマホウカ、メズラシイモノモッテルナ」
「あ?珍しい?おれはあんたの方がよっぽど珍しいよ」
少し喧嘩を売りに行った魔王の言動だが、死神はそれをスルーしていた。
予想によると死神は痛感阻害の魔法を身体中に付けてるな。
まあ痛感阻害は攻撃されたことにも気がつかないから案外ラッキーかも。
「そろそろ終わりにしてやるよ」
剣を鞘に納めて両手を広げる。
すると両方の手のひらから青白い光が輝く。
「閃光の刃」
放たれたその光は敵をおおいつくし消滅させる魔法。
そうなるはずだった。
だが、
「なんだと…」
目の前にいるはずの無い人物がそこには立っていた。
その人物の羽織っているローブには破れた跡も無ければ汚れすらなかった。
どうして、どうやってあの攻撃を防いだんだ…。
そもそも人間に俺の本気の魔法を受け止める力があるというのか。
魔王は額から流れる一滴の汗を拭いながら敵を睨み付ける。
「さっき言った言葉は無しになったな。まぁこっからが本番ってことで…」
「ワタシハ…ガッカリダ」
ゆっくりと放たれたその言葉はこちらを嘲笑うかのような口調で進められた。
底知れない力、魔力、そして恐怖。
それが魔王に一気に押し寄せて来る。
その仮面から覗かせる目には、殺戮の二文字だけが刻まれているようだった。
剣の鞘を抜いて再び戦闘体勢に入ろうとした瞬間だった。
死神はゆっくりと鎌を揺らしながら一歩、また一歩と近いて来る。
なにかがヤバい。
直感的にそう思い、一歩下がった瞬間。
その一瞬で遠くにあったあの仮面が目の前に迫っていた。
「オワリダ」
鎌が下から繰り出され、防ぐことも避けることも無に返した。
体は真っ二つに両断され、回りに血が吹き飛ぶ。
青年だったその肉の塊は容赦なく地面に叩き潰され、骨まで粉々に粉砕される。
「なんだこれは…」
駆けつけた衛兵達は目の前の光景に考えることすら間もならなかった。
バラバラの死体、血の海、帰り血を浴びた人。
体の底から込み上げて来るものを必死に押さえながら剣を構える衛兵達。
だが、その勝敗は誰が見ても分かりきった答えだった。
振り上げられた鎌は剣ごと衛兵の体を二つに切断。
血が吹き飛ぶ。
そして、もう一人。
血が吹き飛ぶ。
もう一人。
血が吹き飛ぶ。
そして、
そして、
…
…
辺りは血と肉と折れた剣で埋め尽くされていた。
死神は目の前にある女王の寝室まで迫っていた。
「…ココカ」
ドアノブをひねり、中へ入るとそこには女王と男二人だけだった。
男が剣を構えて、こちらに突進してくるが、赤子の手をひねるように首から上を意図も簡単に切断した。
女王は腰を抜かして座り込むが、死神は容赦はしない。
女王の腹部に向かって突き立てられた凶器は鮮血を纏い降り下げられた。
「コレデナニモカモ…終わったか」
血に染まった仮面を取って、女王の亡骸を嘲笑する。
しゃがみ込み、女王の口元に顔を近づけて口付けを交わす。
「美しいぞカリン」
「いやーほんと気味が悪いなお前は」
声が聞こえ、慌てて振り向く。
するとそこにはいるはずも無い青年の姿があった。
「なん…だと…貴様は!」
「殺したはずか?なら答えはノーだ」
驚く死神は鎌で青年を切り裂くが、攻撃は外れる。
否。
攻撃は当たっていた。
半透明の青年はそんな死神を笑いながら両手を広げる。
「まだ気がつかないのか?ここはお前の都合のいいように造られた架空の世界だ」
そして、青年は「そして」と言葉を続けた。
「お前がさっきまで見ていたのは現実じゃない。俺の魔法だ」
パチンと指を鳴らした瞬間、世界が揺らぐ。
目眩と吐き気を抑えながらゆっくりと目を開くと青空が広がっていた。
体を起こそうとするが、力が入らない。
そして、気がつく。
自分にはもう動かせる四肢が無い事を。
薄れる視界に衛兵達が写りこんで、消える。
その衛兵は間違いなく自分が殺した衛兵だった。