6話 城の部屋での出来事
「がはっ」
最初に味わったのは新鮮な空気ではなく、体をめぐる痛みだった。
青年は倒れ、口から血を吐く。
「くそ…この体で上位魔法を使うのは…まだ早かったか」
やっと治まった血を手で拭いながら目の前を見ると、そこは大きな部屋の中だった。
綺麗にされた家具は整頓され、外から浴びた太陽の光で輝いている。
窓の外を見ると自分が地上から高い位置に建てられた建物にいることがわかった。
おそらくここはあのおおきな城の中だ。
転移は場所をうまく頭の中でイメージしなければ1キロ以内の場所に自動的に飛ばされる。
これは魔術書に記された説明の一つにあった。
「…ドアが開かない」
ドアを開けようとするが鍵がかかっている。
おかしい。
この式のドアは内側からしか鍵がかからないはず。
窓から反対側にはクローゼットが一つあった。
「怪しい」
持ってきた大きな袋を開いて一つの剣を取り出す。
魔剣。
魔力を宿した剣のことだ。
魔剣には複数の種類があるがこの武器は特別だ。
能力 力半減
この剣を持った者の力、魔力を半減する能力。
普通からしてこの武器は誰も求めることはない。
だが、魔法を使うとバレる可能性がある魔王はそれを魔王の城から持ってきたのだ。
剣の鞘を抜き、クローゼットに近づく。
そして、クローゼットを勢いよく開けてーーーー
「ーーーー誰だ!」
「…ひっ」
勢いよく開けたクローゼットの中には頭の部分を押さえて抵抗しようとした女が一人。
「止めて…ころ…殺さないで!」
「…っお前は!」
女は涙目でこちらを見ている。
年齢は今の自分に近いだろう。
それよりも気になるのは崖から飛び降りたあの女に瓜二つのことだ。
黒い髪に青い瞳。
あのときに出会った女とおんなじで、
「あのときに飛び降りた女か」
「なんのことか分かりませんが殺さないで」
呆れて剣をしまう魔王。
だが、魔王は女をこことは違う家に返したはずだった。
この女が違うとすれば姉妹かなにかか。
「立てるか」
「…触らないで!」
伸ばした手を叩かれ、腕に痛みを感じる。
初めて受けた人からの痛みは何故か慣れたような感じがした。
叩かれた腕をじっと見る青年に女は服の中から細く光る刃物を取り出して襲いかかった。
「おっと」
だが、あっさり避けられてバランスを崩し転倒。
もう一度襲い掛かって…
「小重力」
襲い掛かろうとしたが刃物が急に重くなってまたもバランスを崩す。
そんな不自然な現象に女は青年を睨み付ける。
その瞬間。
「ここだ!こじ開けろ!」
ドアから大きな振動を感じてそちらに目線を送る。
壁ごと粉砕されたドアは反対側まで飛ばされ、窓を突き破り外へと投げ出された。
部屋に入ってきたのは複数の騎士だった。
「いたぞ女王だ!」
複数の騎士たちは剣を抜いて女に斬りかかろうとするが、その前にいた青年によって足が止まる。
先頭の騎士が剣を青年に向けるとおたけびをあげながら斬りかかるが、腹部に強烈な蹴りを食らい、そのまま意識を失った。
「貴様、女王の補佐か!」
「えっと…違いますけど」
「あなた死神の仲間じゃ無かったの?」
「死神…」
どこかで聞いたことのある単語だ。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
目の前の騎士をどうやって対処するか。
「ならば貴様は何者だ!」
「貴様は何者だ。なんて言われてもな…えっとーーー」
魔剣の鞘を抜いていない状態は魔剣の能力は発動しない。
手を騎士たちに向けると、手のひらから電気が走る。
「ーーー魔王だ」
手のひらから放たれた電撃は鎧に包まれた人間をも簡単に焼き尽くす威力だが、
死なない程度に手加減はしてあった。
一人、二人と倒れていく様を嘲笑いながら見送る青年を後ろにいた女はいつの間
にか本物の魔王と錯覚してしまっていた。