4話 大都市ユーザール 2
「文字がわからないだって?」
そんな拍子抜けの発言に信じられないと片腕を顔につく。
文字は書ける。
だが、それは500年以上も前の話なのだから。
それでも本当のことは言えなくて、
「すまない、外から来たのでな」
「知ってらそんなもん。だが言葉は外でも共通語のはずなんだけどな」
「…」
そうだったの!?
とっさに着いた嘘でさらに立場を無くす。
うまくこの先を抜ける方法を探さなくては。
何か、
言い訳を…
「実は私は親が早くして無くなってね…だから言葉もわからないんだ」
「今話しているじゃないか」
「…」
終わった…
ここまで不審に思われたらもうだめだ。
でもここで諦めるのは元魔王としてこの難関を越えなくては。
魔王は座っていた椅子から立ち上がり、カウンターに手をつく。
「ワタシコトバワカリマセンヨ!」
「誤魔化した!?」
「ナンノコトヤラワタシワカラナイヨ!」
「もういいから座んな!こっちが恥ずかしいから!」
大声を聞き付けた冒険者たちがこちらに意識が集中するところを悟った鎧の男は慌てて魔王を止める。
「もうわかったから、ね?わしが書くから」
「それは良かった」
「戻ってる…」
今さら突っ込むことの意味が無くなったため、いいかけた言葉を飲み込む。
そして紙を自分とは反対にして鎧の男はペンを握った。
「名前は?」
「魔王だ」
「歳は?」
「500」
「…」
言い返しては来なかった。
すらすらと書いていった文字は自分には子供が書く絵にしかみえない。
だが、確かに文字であることは伝わってくる。
書いていたペンを置いてカウンターの奥に入っていった鎧の男はガチャガチャと音をたてて持って来たのは
魔王には粗末過ぎる装備品だった。
「これは?」
「冒険者に持たされる所持品だ」
そんな便利なもんがあるのか。
500年前は装備品は自分が作る方式だったはずだったが、500年経った今、冒険者達はそんな苦労など知りもしなかっただろう。
「あ、これも」
投げられた指輪は粗末に皮でできた物だった。
指輪と認識するのに時間がかかったが。
「それは冒険者の階級を表す指輪だ。はめればそのはめた主の実力がわかる」
「そんな便利なものがあったのか」
指輪を受けとりいざはめーーーーー
はしなかった。
指輪は指の先の部分で止まっており、そこから動かさない。
良く考えれば指輪付けたらバレるくね?
さっき自分が魔王と名乗ったことはただの冗談としか受け取ってないだろう。
だが、はめればどうなるか…。
一発でバレることは間違いないだろう。
「どうした?」
「ここではめないといけないのか?」
「べつにそうじゃねえが」
「ならはめないぞ私は」
「そうかい」
一瞬鎧の男は呆れた顔をするが、すぐに笑顔に変わると、手を振ってくる。
「おっと次の客が来ちまった。説明はもういいだろじゃあな」
「ああ、助かった」
「それと…」
席を立とうとしたとき、引き求められる。
そして、
「これも持っていきな」
粗末に包まれた小さな袋を渡された。
中には金貨が10枚ほど。
「これは…」
「おじさんのサービスだよ」
小さくお辞儀をして席を立つ。
小さな廊下を抜けて、また人だかりに入っていく。
「人間って以外にいいかもな」
その声はその場の誰にも聞こえはしなかった。






