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俺、今日魔王辞めます  作者: ちくわ
1章 魔王は冒険者になってしまった!?
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2話 森の中で


「こんなものか」


片手に大きな袋を持った魔王は大きな扉を開けて、果てなき廊下を歩いていた。

時々立ち止まりまた進む。

これは毎分おきに道が変わるからだ。

外から来た者を少しでも足止めをするために。

そんなことも必要ないのかもしれないが。

ここは魔王の城。

もちろん城に入る前にはランク50以上の怪物(モンスター)がうろついている。

廊下の窓は、外からは確認されない魔法を(ほどこ)している。


「出発の準備が出来ました。魔王様」


「うむ」


廊下をちょうど曲がったところで玄関に着く。

そこには数人の人影が。


「魔王様、お怪我をなさらないように気をつけて下さい」


「…」


「魔王様、いってらっしゃいませ」


今日この時をもって魔王はこの城を出る。

決して楽ではない道のりだ。

だが、だからこそーーーー


「ーーー次に会うときは真の魔王となって戻って来ようぞ」


「はっ」


魔王は迷いなどない足取りで城を後にした。



城を出てすぐ。

問題に差し掛かる。


「どうしたことか」


そう。これはあれだ。

道に迷った。


まだ城を出てから15分しか経過してない。

まず最初に魔王に訪れたのは<森を脱出せよ>なのだ。

初歩的なミス。

今から帰ってもいいが魔王としてカッコ悪い所を見せたくない。


「…」


まずこの森、城の廊下と同じく数分ごとに森全体の位置が変わる。

城から出たことがなかった魔王からすれば攻略不可能だ。

森から出られない魔王、囚われの魔王とはこのことか。


「…は!そういえば」


魔王が初めて森を出た時、グランディスから受けた言葉を思い出す。

「前方2キロメートル先に多数の生命体を確認しました。」と。

そうなれば早い。

魔法で確認すればいいこと。

冒険者になったら魔法は控えたかったが、恥をかくよりはマシだ。


「千里眼」


通常、人間が使う千里眼は最高でも1キロが限界。

だが、魔王ほどになるとその10倍は軽く越える。


「!」


木に隠れて何かを行う人間の姿を確認した。

女だ。


「何をしているんだ…まあいい。転移」


視界が切れ、また緑が見える。

様子を(うかが)うために木の上に転移したが、女は見えない。


おかしいな、ここで会ってるはずなんだけど。


辺りを見回すがやはりいない。

そんな不可解な現象が魔王を襲う。

何かがおかしい。

ふと、目に入ったのは崖だった。

身投げの崖。

本でも載っていた有名な自殺スポットだ。


「ふむ、これは厄介だな」


いつもなら見逃すどころか気にもしないだろうが、今は冒険者。

人のために善行を行わなければならない。

だが、ここは身投げの崖。

死を覚悟した人間を助けるのは果たして善行なのか。


「よし、ここは冒険者らしく人助けと行こうか」


木を降りて下を覗く。

崖の下は、いく種もの怪物(モンスター)が大量に行き来する場所。

いわばここは怪物(モンスター)の食事場所なのだ。

浮遊しながら崖の下に着く。

そこにはいくつもの(わら)が敷き詰められていた。

その高さはちょうど魔王と同じぐらいの2メートルだ。


「なんだ、これでは落ちても骨折程度じゃないか」


いくら打ち所がわるくても骨折程度しか負わない。

これは一体誰がやったことなのだろうか。


「グウウウウ」


森の方向から巨体をもつ怪物モンスターが現れる。

耳が長く、犬のような顔立ち。

そして二足方向。

間違いなく怪物モンスターランク32のトロールのようだが、なにかの種類が混ざっているようだ。


「混合種のトロールか、なるほど」


通常のトロールはゴブリンよりも知性は高い。

だが、藁を敷いて生きたままの人間を喰うなどの真似はしないはず。

あの犬の頭が気になる。


「まあいい気になることはあるが俺は今は魔王ではない」


「グルウウ」


「冒険者なのだよ」


襲いかかってくる巨体はまさに獣だった。

が、それは魔王の前では子犬当然なのだ。


獄炎ヘルフレイム


手のひらから出たその獄炎は意図も簡単にトロールを灰にするほどだった。


「さて、女の安否確認だ」


藁の方に行くと、そこには横たわる女が。

美しい。

そんな言葉が頭を通り抜けていった。

髪は黒く、輪郭も整っている。


「これが人間。これが女。なんという美しさだ」


これで人間を見たのは2度目となるが、こんなに美しい人間ははじめてだった。

そっと女の頬に触れると、微かに緩まる瞼。

そして、自然と視線は胸の方に…


「いかん!。なにをしているんだ私は。魔王だぞ、いやちがうか」


身を引いて女から離れる。

取りあえず生きていることが確認できたためのいったん退避だ。


「…」


ここからなにをすればいいのかわからない。

女を助けたがここからどうすればいいんだ。

自然と女に目線がいく。

目は無いが。


辺りは森。

人は…いない。

女と二人きり。

いけるか?


「やめろおおおおおおおおおおぉ」


心の中のもう一人の自分が耳元でそうささやく。

それは脳の中で何度も繰り返される。

女と二人女と二人女と二人女と二人女と二人女と二人

女と二人女と二人女と二人女と二人女と二人女と二人。


「ああああああああ」


ドンドンと地面に何度も頭を突く。

 

我に戻るんだ魔王。

お前はその程度の男じゃない。


そんな、魔王の独り言はそれから2時間続いた。

















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