プロローグ 封印が溶けた今
西暦2544年、謎の黒い城が突如として現れた。
その城からは絵本の中やゲームでしか見たことがないような生物。
怪物を操る魔王によって世界は混沌へと堕ちていった。
だが、そんな怪物を退治しようと立ち上がったのは一人の冒険者だった。
彼は怪物をなぎ倒し、その元凶である魔王を封印したのだ。
その後、冒険者は世界でこう呼ばれた。
ーーーーーーー勇者と。
*
「いい話だな」
そう言って何度も使い古した本を閉じる。
気が付けば辺りは真っ暗で人も居ない。
否。
随分と前から居ないのだ。
「もう…誰も残っていないのか…」
自然と溢れる言葉は一人には広すぎるこの部屋でとても大きく感じた。
ここに封印されてもう数百年が経つ。
解読出来ない訳ではない。
いつでも外には出られるのだ。
そうしないのはかつてここにいた前期魔王がそうしたからだ。
彼からはいくつものことを学んだ。
医学、術学、剣術、文字、言葉、そして魔法を。
ゆっくりと立ち上がり、魔方陣が刻まれた方へ行くと、もう消えかけていた。
「師匠が生きていた時の一番強力な封印魔法だったんだが、ここまでだったんだな」
ここにはもう随分と世話になった。
今こそこの城を出る時なのだろうか。
数百年も使われていないせいか、ドアノブが今にも外れかかっていた。
「今までお世話になりました師匠。そして…さようなら」
ドアを出て、初めての空気、森、色。
そんな当たり前な事さえ自分には与えられなかった権利。
だが、そんなものはあるはずもない。なぜなら自分はーーーーー
「ーーーー魔王だからだ」
体は既に2メートル越えの巨体に、完全に腐りきって骨になった顔。
何もかもが人間とはかけ離れていた。