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第六話「移動中の情報check 1」

 ライヤが壇上交番を去り、しばらく走った時のこと。

 相変わらず気温は低く、また、これからもっと寒くなるであろう。

 口から白い息をだしながら、ライヤは走りっ通しだ。ハッキリ言って結構キツイ。


 しかし、だ。


「諦めたらそこで試合終了ですよ……?」


 どこかの恩師が発言した名言である。ライヤはこの言葉を知っているが、どこで知ったのかは記憶に無い。記憶を失う前に知ったと思われるが、こうして強く記憶に焼き付いている言葉は少ない。覚えていたとしても未来へと直接繋がるものは無いであろう。


『……どうだ、調子は?』


「はぁ…はぁ……飛べねぇのが残念でしかねぇな。なんとかなんないのか………」


『そうか……一応解決策はある。だが、あまり気持ちがいいものではない』


 コウジの交番がどうなったかも知らず、通話は繋げたままで、ライヤとケンは他愛もないやり取りをしていた。

 ライヤは走りながら話しているが、流石に未来の電話だ。耳に本体を当てていたりしなくても、脳内に直接電波を送ってくれる。


 さっきプレートで時間をちらっと見たが、現在午後の三時すぎくらいであろうか。

 ケンいわくリミットは午後の七時頃らしい。それ以降は実夏がゲーム三昧で、聞く耳を持たないらしい。だが、2Pをやるといったら大喜びすると聞いた。あれでも実夏はかなりのゲーマーで、地区大会での優勝経験があるらしい。ケンも実夏のテクニックに救われたことがあると言っていた。


 残り時間は四時間である。


「時間が間に合わなかったってことはないのか?」


『ある』


「詳細、言ってみな?」


『……はぁ………………』


「……ごめん、気持ちはガチ分かる」


 飯ガチ勢の中でも特にガチ勢のライヤは、その心情を深く、深く察したようだ。ケンにとっても、それは地獄の日だったことだろう。2月14日にチョコが来なかったり、誕生日を誰も祝ってくれなかったり、多分そういう気持ちに近い、とライヤは思う。

 確かに、そうだ。

 どこからかそんな声が聞こえた気がしたが、それはすぐに記憶の底へと沈んでいった。


『そういえば、お前。さっきの後藤刑事の見た目を教えてくれ。次に会った時に礼を言いたい』


「あー、そういえば、だな。えっと……あれ、どんなんだっけ……」


 記憶が追い付かないのも当然だろう。

 召喚されて二時間もたたない内に、人にぶつかられ、同じ未来人に出会い、おつかいに行かされ、警察の世話になり、住む家が決まった。


 普通ならあり得ないだろう。ライヤの場合は運が良かったということだ。

 普通、こんな状況に陥ったら多くの人が絶望するに決まっている。しかし、ライヤは召喚されてそれほど経たない内に進路を掴み、生命線を確保することができた。それは、物凄くラッキー、といっても過言ではないだろう。


「ああ、思い出した。まず、髪が黒い」


『日本人なら当たり前だろう』


「次に、警察の服着てる」


『わかっている…』


「次に…………とっても気さくでいい人だ」


『わかっていると、言っているだろう……!?」


 ライヤはどこまでもケンをからかいにかかる。当然だ。あっちから仕掛けてきたのだから、やり返さないとライヤとしては気がすまない。


「やられたらやり返す。倍返しだ!って言うだろ?」


『もういい。後で聞くぞ…』


「へへっ、今回は俺の勝ち」


 記念すべき初の勝利を終えたところで、ライヤの目にあるものが映った。

 そろそろ頃合いか、と思っていたが、意外と早めに着いた。


「………見つけた。あれがスーパーだな?」


 そう言って、プレートのカメラを向ける。といっても、カメラらしき部分は見当たらない。しかしこれでいいようだ。無意識に、説明書を使用者に記憶させるというとんでも性能に、ライヤは本当に感動しそうになった。ケンにも後で聞いてみるとしよう。


『……そうだ。大きいだろう? 俺も初めて見たときは腰を抜かした』


 ケンには、映した景色がカメラ越しに見えていることが分かる。


「へぇ、お前が腰を抜かすと……これでか?」


『お、おちょくるんじゃない!』


 そして、安定のおちょくり。ライヤもコツを掴み初め、ケンの扱いにも慣れきってしまいそうだ。ケンは報われるのだろうか。


「さて、入るか………うっ、頭、が、いてぇ………」


『よし、メモしておこう………お前はスーパーを前にして頭痛を引き起こした………と』


「うるせぇ!もう治ったって」


 恒例のやり取りを終えた。恒例、とはいっても、初めて会って二時間もたっていない。

 それほどマッチし、ガッチリ噛み合っている。単純にすごいことである。


 しかし、先ほどの頭痛は、なにかが違う。

 気にしては負け、そう思いライヤは中に入る。

 自動ドアに若干ビビったことは置いておくとしよう。

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