第四話「未来の産物リスペクト」
「腹……へった」
意気込みはよかったライヤだったが、ケンと別れてすぐに空腹に襲われる。
未来人とはいえ人間であり、生き物なのだから当然腹もすく。
もうお昼時だろうか。未来では何を食べていたのだろうか。
「あ、そういえば……」
何かを思い出し、カバンを漁る。そこから出てきたのは……パンだ。ちらっとさっき見たものとは違う物もあったような気がしたが、今はパン、ご飯のことしか考えることが出来ない。
人の食欲をそそる色は赤というが、狙い済ましたかのように袋は赤色だった。
袋には「クランチーズハム~高級仕立て~」と書いてあった。名前からして高そうだ。ますますライヤのカバンに入っていた訳が分からない。
手に取ると、そのパンは何故か熱い。袋から取り出した瞬間湯気がたったほどだ。ひんやりとした気候なのもあるし、袋の中でそれほど熱さを保っていられるわけがないのだが。
そして香る、芳醇であり、香ばしい香り。パン特有の生地が焼けた匂いに伴い、色とりどりなトッピングが見るだけで食す者の忍耐を削る。
もう、我慢できるわけがない。
ライヤはそのめちゃめちゃ旨そうな未来パンに思い切りかぶりついた。パリッと音がなり、
「旨い!最高だ!!流石未来食だな!「今」のパン知らないけど」
パンにはチェダー、クリームの二種のチーズと生ハムがのっており、オレンジ色のソースの様なものがかかっている。味はピザに近く、ジューシー。
「二種のチーズと生ハム。クランソースをかけてある上に、焼き方もグレートスチーム手法。完璧だ……。食べれて良かった……!!!」
しかも時を止めていたように、食感もパリパリモチモチであった。とても袋に入っていた市販品(?)とは思えなかった。
ライヤにとっては至高の出来である。
「……にしても、俺のモノに対する価値観が全然未来から来た人っぽくねぇよな」
これはライヤも先ほどから気にしていることであった。どんなモノを見ても、使っても、食べても、反応が現代人っぽいことは事実だ。記憶喪失の結果なのだろうか。
少し考える。
しばらくして、あまり考えても吉な結論は出ないと判断し、ライヤは腹もふくれたところで立ち上がる。
結局サクジーニ方法を使わなかった事を思い出すが、別にそれほど問題ではない。今度やってみるとしよう。
「うっし、いくか」
感情を込めると、体が浮く。相変わらず気持ちがよい。
「最初の店はあっちか……──!」
ライヤは全く助走もつけずに一気に自転車並、そしてそれ以上の速度に到達し、そこそこ離れている店へむかった。
たしかスーパー、だったか。
商品センターじゃないのか………あ、またでた。ライヤはたまに来る、全く役に立たない未来の知識を思い出す。
やはり自分は未来人である、という説が今は一番有力か。
そう考えつつも、ライヤはその「スーパー」目指して一直線に飛んでいった。
しかし、やはり寒い。さっきは秋かと考えたが、これは多分冬だ。風が冷たい。これでも寒いのは得意と無意識に自覚していたライヤでもなかなか寒かったらしく、若干速度を緩めて目的地へと向かった。
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十分ほど飛んだだろうか。
周りはまだ活気ある町、といったところだが、スーパーにはもうしばらくだ。こんなに離れないとスーパーに行けないということは、発展途中の町なのだろうか。見てきた限りでは、学校もあったし、病院も、消防署もあった。
なのにスーパーは遠い。早く発展しやがれ、この町の母が泣くぞ……そう考えながら、ライヤは目的地目指して一直線だ。寒いからすでに自転車以下までスピードは落としているが。
「……? なんか、カバンが震える」
それはバイブレーションのような震えだ。断続的に震えるそれは、カバンの中から聞こえてくる。
不思議に思い、またカバンを漁る。そこから出てきたのは…
「なんだこれ? 薄いな。透明だし。どこで震えてんだ?」
それはライヤが言う通り、薄く、透明で小さな「板」だ。端の方には金属的なモールドが施されているが、それより気になるのはなぜそれが震えているのかだ。
普通に考えれば、その「板」が所持者であるライヤに、その存在を知らせるためだと考えられる。他の可能性は…今はない。
ライヤは迷いなく、その「板」の真ん中に表情されている受話マークを押した。
『だーかーらー、今かけてるっていってるよー?ケンちゃんは辛抱弱いんだからね』
『いや、でも……もしかして、どこかで落としたとか…もう少しかんがえてからかけてみても…』
「あの…」
『あ、ケンちゃん! 出た! 出たよ!! ほら、私の言った通りでしょ? はい、約束としてミルクティーおごりね!』
『な、なにぃ!? くそ、してやられた! あいつ、後で覚えてろ…………』
「覚えてろもくそもねぇよ。どうしたんだ?」
やはり、ライヤの予想通りだった。その「板」は通話機器だったようだ。とりあえずめっちゃ高性能なので、未来の産物と考えてよさそうだ。
『あ、うん。ライちゃんも今使ってる「ハンドプレート」持ってるってケンちゃんが言ってたから、試しにねー。ちょっと、ケンちゃんが話したいんだって! でもでも、私もライちゃんとお話したいから、ケンちゃんは後でね! ところで、実ってますか?私は実ってます!』
『なにぃ!? は、話が違うぞ、実夏! ……ったく』
そんな会話はさておき、またプレートがバイブする。しかし、今度は断続的ではなく、一回震えておしまいだ。
なにかと思えば、なんとそのハンドプレートがテレビ通話に切り替わったのだ。さっき小島よ○お顔で逃げた実夏がプレートの中にいた。
「すげーよな、これ! 便利過ぎんだろ」
『でしょー!? 私、驚いちゃった。今日、突然仲間に会ったって、ケンちゃんが言ってたんだもん! まさかぶつかった人が未来人さんだったんだねー』
「……ああ、確かに。俺も驚いた。だってここに来て一時間たたねぇ内に人にぶつかられたんだもんな……あ、そうだ」
ライヤは実夏と話している間に、何かを思い出したようだ。
最初会ったときから意味が分からなかった事と、謝罪しなければいけないことだ。
「気になってたんだけど、その「実ってる」ってどうゆうこと?」
『あーそれね! 簡単。楽しいとか、充実してるとか…そうゆー意味! だって私の座右の銘は「実ってるかよ人生」だからね!」
「お、おう」
オリジナル臭はんぱない座右の銘。ちなみにライヤはこの一件でまともな座右の銘をつけようと誓ったようだ。
「それで、な……さっきは突然倒れたりしてごめん。怖かったろ?」
『全然大丈夫です! 私も焦るときはあるよ? なにしてたか覚えてないけど!」
「あ、ああ、そうか。それなら良かった」
二度の応対で、二回とも返事に戸惑うとは、流石のライヤも思いもしなかったらしい。
『……もういいか? 俺も話したい事がある』
『あ、うん。大丈夫だよ! よし、インクイカやろ! ジツリョクカンストしてやるんだから!』
そんな会話が聞こえた気がして、ライヤは一旦深呼吸。実夏との対話で、かなり体力を削った。実夏は力を奪い取る能力でももっているのだろうか。そうでないはずだが、妙に安心出来ない。
そして、テレビ通話が終了した。実夏の声も聞こえなくなった。
『……気を取り直して、話をしよう』
「鼻☆塩☆塩、なんちゃって」
『う、うるさい! 調子に乗るな! あとで覚えてろ、ほんと』
「わかったわかった。で、話って?」
同じ未来人であるケンの話だ。冗談はこれっきり、しっかり聞いて知識を蓄えねばならない…
『ああ。……お前は実夏が好きか?』
「……いや、普通だけど。……え、何で聞いた!?」
拍子抜けしたライヤの返事は、どことなく呆れの感情が混じる不思議なものだ。しかし以前ケンは真剣だ。
ライヤは、ケンが実夏を好きなことを察してはいたが、まさか本当だとは。世の中、色々あるものだ。
『そうか、なら良かった………そろそろスーパーに着くんじゃないのか?』
「あ、ああ…………そうだな。もう、見えてくる頃かも…」
──。────。
そう言ってとたんに、ライヤは、何かを感じ取った。
何か、嫌、というか。面倒というか。そんなものだ。突然黙ったライヤの心情を、ケンもなんとなく感じたらしい。
今は空中。
上空15メートルほどの高さにいるが、下を見ると。
町が、うるさい。何やら騒がしい。
なにやら、こちらを見て騒いだり、液晶端末をかざす人や、マイクを持ってカメラを前に喋っている人もいる。どれにしろかなりの人が集まっていた。
ライヤは怖くなったので、移動する事をやめ、高度15メートルの位置を保ったまま空中に静止した。
しばらくすると、一人の男がこちらに向けて呼び掛けてくる。警察、だろうか。拳銃を構えている。
「今すぐに、そこから降りてこい! さもなければ撃つ!」
「!?」『な、なに!?』
ライヤとケンは焦った。死ぬほど緊張した。身体中の血管がちぎれてしまうほど、脈動が高まった。しかし、今、この場にいるライヤの方が少し緊張感で勝った。
従うこととしよう。死ぬのはごめんだ。手をあげ、ゆっくりと降りた。
しかしライヤには必ず、絶対にやりとげなければならない仕事がある。それは、今のどんなことよりも、どんな大事なことよりも大事なことだ。
「おつかい、早く終わらせねぇとな」
『頼むぞ、実夏と、俺と…お前のために』
誰にも聞こえないように、ポソリと呟き、音を出した。二人はどれほどこのミッションが大事で、重要なものか理解していた。それは、またこのあとすぐ詳細が語られる事となる。
こうしてライヤのおつかいprojectは波乱の始まりを告げた。
見返してて気付きましたけど、警察官が言ってた「打つぞ」は一応、一種のジョークです。向けてた拳銃にも、弾は入ってるいません。というかおもちゃです。
そりゃ突然そんなことしちゃいけませんからね笑