第三話「試練 ‐ミッション‐」
「…………と、カッコつけて言ってみたはいいが、俺には早く帰るという実夏との約束がある。悪いが、場所を教えるからこっちに来てほしい」
「くそやろう!この、鬼畜が!」
そんな会話から、ライヤの「試練」は幕を開けようとしていた。
そう、ライヤと青年はまだこの先起こる大惨事に気付きもしない。
青年は薄々感づいているだろうか。しかし青年は実夏優先なので、気付いてはいないだろう。
「そこで、お前に頼みがある」
今、幕が開けられる────。
「お前には、おつかいをしてきてもらう」
「はぁ!?」
「すまない、急いでいるんだ。俺は早く家に帰らなくてはならない」
ライヤは突然の頼みにどう反応していいのか分からなかった。しかし、ある感情が沸き上がる。
「お前よくもかっけぇシーン台無しにしてくれたよな!あとそんくらい我慢しやがれ!」
「しらん。元はといえばお前がいたからだ」
「この!この!この!俺なんか三回くらい心の中でセリフ繰り返したんだよー!この気持ちがお前に分かるか!?」
「しらん。そんな気分は味わったことはない」
ライヤは悪あがきとばかりにくるくる腕を回して青年に突撃する。しかし華麗なセリフと立ち回りで回避されるのがオチであった。
「買うものと店を書いたメモ、そしてお金、帰るべき場所を示した住所だ」
「勝手な仕切りを……」
ライヤは何も手出しができない。青年は早口で用件を述べた。手も足もでないとはこの事だ。もうほとんどライヤは諦めかけていた。
「何か質問は?」
「あ、お前の名前。今さらだけどな。俺の名前はライヤ。川中来矢だ」
「……本当に今さらだったな。俺は佐藤爽剣。佐藤かケンと呼べ」
「ケン、だな。……あ、そーだ………仕方ねぇな。おつかい、いってやらぁ」
ライヤは意外と呆気なくおつかいに行くことを了解した。しかしライヤはある手法を思いついたようだ。
「よし、それじゃあ頼む………」
「と、俺への報酬は何にかるのかなぁ~?」
「!?」
ケンは中々に驚いた。こいつにもそれなりの頭はあったか……予測はしてはいたが、またたちが悪そうだ。
そう思い、渋々報酬を出すことをライヤに約束した。
「じゃ、よろしく~」
「……ああ、いってこい。また後でな」
ケンはしてやられたようだった。
ライヤの後ろ姿が遠ざかっていく。さて、報酬は、あれにするかな。
そう考えながら、早く帰らなければいけないことを思い出す。
「待ってろ実夏、今すぐ飛んでってイカ系陣取りゲーの2pやってやるからな」
そして、おもむろにポケットからリモコンの様なものを取り出す。
「それにしても、これを渡すことを忘れていたな」
スイッチを押すと、ケンの姿が消えた。正確には消えたのではなく、光学の迷彩効果によってみえなくなったのだ。
そして空へ飛び立つ。これが一番速いのだ。
少し、いや、かなり多大な問題もあるが、ケンはそれすらいとわない。
「もう二時か。実夏が待っているな」
そう言って、若干寂しげのある、すっきりとした秋晴れの空へ、飛び立っていった。