第一話「ここはどこ私は未来人」
歪む口、呆然とした目。
「ああああああぁぁぁ!?」
そして訪れるしばしの沈黙。もうすぐ赤信号が終わるだろうか。
彼は何がなんだかわからなかった。
そのはずだ。気付いたら「ここ」にいたのだ。
「は?……え? ここ……は……どこだ? ここどこ――!?」
彼はでっかい交差点のど真ん中にいた。気が付いてからは時間が止まったようになにも感じていなかったが、ようやく理解したようだ。納得せざるを得ない。
「召喚されたのか……訳わかんねぇ……!なんも覚えてない……いや、名前はわかるな。川中来矢。ライヤだ」
なぜこうなったのか知れたものではないが、とりあえずどこかに座って考えて、他になにか覚えてないか探って……
「あぶねぇーーー!!」誰かがさけん………だ?
ん?
こちらにトラックが突っ込んでくる。
しかしライヤはあわてない。
けたたましいクラクション。周りの人々は、一瞬にして思う。
──もう、助からない。
トラックがライヤの鼻先まで迫って…………いなかった。
彼は空をとんでいた。まるで鳥のように、天使のように。
「どうやら、俺は空も飛べちまうらしい」
ライヤは地面に着地すると、宇宙人でも見るかのような視線をかわすためにコンビニの裏に転がり込んだ。
そんな視線すらライヤには関心がないくらい心に余裕がなかった。ここはどこなんだろうか。俺はどこからきたんだろうか。なんでここにいるんだろうか。なんで何も覚えてないんだろうか。
「俺は何者なんだ…………」
ライヤは軽い涙をぬぐいながら状況を整理する。
「ええっと、とりあえず俺は気付いたらここにいて、名前と空飛べることしか覚えてなくて…………」
この状況を確認するだけでだいぶライヤは落ち着いたらしい。
持ち物と服装を確認すると、自分が未来?から来たことがわかった。服はさっき見た一般人とは並々ならぬ差があった。あきらかにこっちのが高性能だ。
持っていたカバンらしきものを探ると、お菓子っぽい物とお金、パンが入っていた。通貨は同じなのだろうか。
「そして一番の重要な手がかりが、これ」
そう言って紙の切れ端を取り出す。
「まず食べ物と寝る場所を探せ……っておいコラァ!何でだよそこはもうちょいヒントくれよ!」
ライヤもおこである。
仕方なく、ライヤは指示に従うことにした。
というか、文字は普通に読めるんだな…………。
まだなにか入っているかもしれないが、ライヤには心の余裕が毛頭ないので、そのことはそっちのけである。
「とりあえずパンあるからサクジーニ方法つかって、寝る場所…………ここでいいか。とりあえずだし」
サクジーニ方法。ライヤも何か分からなかったが、感覚でわかる。食料節約方法らしい。
むずかしいこったな…………。
ライヤは街を散策してみることにした。何かわかるかもしれない。
それにしてもとても涼しい。秋、なのだろうか。もしかしたら冬かもしれない。
周りの建物を見ると、背が高いビルが連なっている。ガチガチの大都市、とまではいかないが、普通に活気ある町である。空気は悪いというほどではないが、少し息苦しい。しかたがないことだが。
「…………よし、いくか」
その時だ。
ゴン!誰かにぶつかった。いや、ぶつかられたの方が正しいかもしれない。額が痛い。
「いった!」
「いててててて…………あ! すいません……! お怪我はないですか?」
目の前にいたのは15くらいの女、否、女子だ。
「あ……おう、俺は大丈夫」
「あ!もしかしてさっき空飛んでた人ですか!?すごかったですよさっきの!私も飛びたいですよ、ほんと!」
「あ、ああ、まあそんなとこだ。ところで、君は?」
やっと調子が戻ってきた。なんだか調子が狂う。
ていうか何このテンプレ展開。俺とあの子がぶつかって……ぶつかられた。そこだけテンプレと違う。
しかし、そんな考えをおしとばす謎の感じが、ライヤを取り囲んだ。
「あ、すいません。えっとー、私は…………」
「光実夏。16です。ところであなた、実ってますか?私は実ってます!!」
ポーズを決める。正直いってカッコ悪い。
ライヤのはりつめていた緊張が一瞬解けた。
「は、はは」
ライヤは気を失った。少し彼は疲れたらしい。泣いて、驚いて、怒って………実った。
召喚されて1時間もたってないのに。
なんか…………大変そうだな。