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第十三話「しっぽ確保、品物確認」

「んー、あとありそんなのは……どこだ?」


 ライヤはもうそろそろかくれんぼを終わらせたい、と思っていたところだ。しかしもちろん、一方的に終了させるつもりはない。

 ちゃんと雫を見つけて、そしてちゃんと謝って……そのあとは、言わなければいけないことができた。

 それを伝えるためにも、即効でこのかくれんぼに終わりを告げさせなければならない。


「……あと、さっきからあるこの変な感じなんだよ…」


 そう、それはさっき、布団をめくったときからある謎の症状だ。頭に変なモヤモヤが常にかかっているそれは、ライヤの思考の邪魔をする。イライラしないものではないが、どうも嫌いになりきれない、それはそれは変な感じだ。


 おそらく、疲れだろうか。しかし、この感じはさっき垂れ幕をこえた時にも再度高まっていた気がする。それは、いずれも雫を見つけようと物を探っていた時のことで…………。


「……っと、やっと思いついた。あっこだ」


 霧のかかった脳の迷宮を抜け、ようやくライヤは一つの結論に達した。すぐさま実行する。


「思い立ったが吉日とか、有言実行とか、よく言うしな!」


 有言実行は少し違ったかな、と思ったが、だいたい合っていればいいだろう。終わり良ければ全て良し、だ。あ、これもちょっと違うか……。


 またライヤは体を文字通り飛ばし、思いついた場所へと向かった。あそこじゃなかったら、もう雫を呼びながら店内を駆けずり回ることしか出来ないかもしれない。

 それくらい、重要な選択だった。



「終わりにしよう、雫。ここ……衣服コーナーで__!」


 たどり着いた衣服コーナーは、当然の如く沢山の服で溢れかえっていた。百貨店並みの品揃えは、本当に伊達ではない。さっきも思ったが、管理はどうしているのだろう。ライヤにとっては永遠の謎であった。


 少し廻ってみて、ライヤが目星を着けたのはスキー服が置いてある一角だ。例の如くそこには膨大な量のスキー服で埋め尽くされている。

 二重ハンガーで天井近くまで服がかけられてまでいるのに、おまけに上下に分かれているコーナー、帽子、小物と売り場が区別してあるので、またまた隠れるのにはうってつけだ。

 まさにスキー装備のジャングルである。


 高い家具や、沢山の小道があるコーナーは、ここで最後だ。

 けりを着ける時だぜ、雫。もう少しで見つけてやる。


 そしてライヤは、その売り場のある商品の前に腕を組みながら立った。……若干呆れ顔で。

 商品の名前は「~目玉商品!~ ガチで暖かいから来てみぃジャンバー」。いかにも…なんというか、あれな名前だが、気にしない。そのスキー服は、綿っぽいモコモコを大量に使用しており、重そうなフード、数えるのがめんどくさいポケット、だらしなく垂れた紐が印象的だ。


 それが、何重にも、縦にも横にも奥にも、びっしり詰めてある。一つ壁まるで一面が、それ。本当に壁のようにそびえ立つそれは、一種の城に見えなくもない。

 目玉商品なのはわかったから、早くその威圧感をどうにかしてくれ、という感じだが、デカイといったらここくらいだろうか。


「しっかし、どこから手つけるかな……」


 本当に一つの少し横長めの壁、一面なのだ。このあたりというのはわかるが、どの列で、どのくらい奥なのかは、わかるわけもない。


「……!」


 しかしライヤは解決の糸口を掴んだ。

 一つの列。右から五列目の場所が、僅かに前に出ていた。雫がこういう初歩的なミスを犯すとは考えにくいが、さっきも、その前も、どこかに必ず痕跡があった。

 布団の下に影、漫画の垂れ幕の前に積み木一つ。


 今度は、少しだけ膨らんだスキー服。そして、今度こそ、見つけて見せる……。



「……あ、いいこと思いついた!」


 と、その前にライヤは一案を思いついたらしい。これにはライヤもにっこり。しめしめ思いながらライヤはすぐさまそれを実行に移していく。


「ここまで散々苦労したんだ、最後くらい、こっちも楽しませてくれ……!」


 それは、このような作戦だ。

 まず、ライヤからすれば雫の場所は割れている。右から五列目、手前から四番目。だいたいこのあたりだろうとライヤは踏んでいる。

 ライヤは、雫のいる場所よりも二列ほど横の列に入り込んだ。そして、ぐんぐんと奥へと進む。木製の年季が入った壁に頭をぶつけると、悲鳴を押さえて、二列横へ。

 そう、その作戦の名は。


「雫ビックリドッキリ大作戦、だ!」


 雫に最大の配慮と、ライヤが雫から受ける怒りを最大限におさえつつ、ライヤ自身が楽しむための作戦が、これだ。

 これまでこのかくれんぼで、ライヤは沢山心身の苦痛を味わってきた。もう、報われてもいいはずだ。


 まずこの店に不本意ながら向かうことになり、時間も押している中店内を駆けずり回るが商品が見つからず、店番少女の手助けを受けるもよく分からず、その上かくれんぼに付き合わされた。

 とても楽しいが、きつい。それだけだった。


 __だったのだ。


 一つだけ良かったことがあった。

 ライヤは、それを守りたかった。



 そして、雫がいるであろう列の裏側に着く。

 後ろは壁で、前と左右は色とりどりのジャンパージャングルで埋め尽くされている。

 一応商品なので、唾なんかを付けないように慎重にライヤは前へ服を掻き分けていった。



 ……よし、ここらへんでいいだろう。

 あと二、三枚掻き分ければ雫のいるスペースへとたどり着く。

 ライヤは一歩右へずれると、雫がいると思われるブロックの、こちらから見て右斜め下の位置へと移動した。


 準備は万端だ。いくぞぉっ!うらっしゃぁ!


 ライヤは、そのスペースの後ろ側のジャンパーを横にずらし____。



「…………わぁっ!!!!」


「_!?ぎ、ぎにゃぁぁぁぁ!!!!」



 成功____?違う、違うぞ。





 ____雫じゃ、ない__。誰だ?



「__!」


 光…………だ。眩、しい……。

 …………!思い、出した。なんで、忘れてたんだ。

 足元……!あった。


 それは、また複数個転がっていて、ライヤは光が輝く空間の中、それを急いで全て拾い上げた。


 それと、やらなくちゃいけないことができた。

 __こいつを捕まえる。

 そうするには、この光を見てはいけない。そうやって、ことごとく忘れてきたのだ。

 ライヤが拾ってきたそれも、こいつを見るまで記憶から消えていたのだ。それを、さっきから繰り返していた。

 もう、終止符を打たねばなるまい。


 ライヤは急いで後退り、ジャンパージャングルに紛れ込んだ。

 そしてその光を見ないように全力で目を瞑り、そのままゆっくりそいつに近づく。


 そして、だんだんそいつに接近して……。


「捕まえ、た!」


「!ふゃぁぁぁ!!」


 ガブリ。


「だぁぁ!噛みやがったこいつ!痛ってぇぇぇ!!」


「__っ」


 何か言ったか、と思えば、そいつは突然光を発することをやめた。そしてそのままコーナーの外へ向かって全力疾走…………。


「って、逃がすかぁ!」


「…っ!」


 そいつの姿に関しては、逃げている後ろ姿だけなので詳しくはわからないが……えっと、豪華なゴスロリドレス……?

 よくわからないが、そんな感じだ。

 後ろ姿だけで正面からの見た目を想像するなら、かなりの美少女と思う。背丈は中学生くらいの背だが、どうもそれを感じさせない幼い子供が出すような空気。

 結論付けると、姿は後ろからだけじゃ想像しにくい。


「おい、待てって!お前には聞きたいことが……!」


「…………っ」


 そいつは頑張って走りながら、ライヤから必死で逃げていた。

 そしてライヤはそれを全力で追いかけた。聞きたいことが沢山あるのだ。

 今までライヤを騙していたことにつけて。あれを落としていったことについて。光について。記憶について。まだまだ色々。


 しかし、どこかライヤには違和感があった。

 あいつは、逃げているのではない。どこかへ、導いているように見える。足取りからして、逃げている感じではないのだ。

 根拠はない。だが、その足の行く先は闇雲ではない。一直線だと思うのだ。

 なにせ、遭遇しておいかけっこを始めてから、一度も後ろ側に走っていない。そして、それほど頻繁に曲がっている訳でもなかった。


「おーい、聞いてるかー!?」


「………………―――――」


「な……い、今なんて…………。……!」


 ライヤはあることに気づいた。

 そこは、あの場所。

 この、かくれんぼが始まった場所。


 あの、座敷だった。そこには相変わらずおばあちゃんが座っており、眠っていた。おい、店番はどうした。雫がいないんだろ。おばあちゃんがやらないでどうするのだろう。


「なぁ……なんでここに?」


「____こたつの中」


「__!」


 わかった。わかったから、もう、大丈夫だ。



「雫!でてこいよ!こたつの中なんて……暑苦しくてしかたねぇだろ!」


「____」


 そのこたつに、いる。


 なぁ、でてこいよ。お前は優しいな。遠回しはだめだぞ。


 雫。

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