第十二話 another「こっそりと物色中」
「らいやさん、ちゃんとさがしてくれてるかな~?」
雫は、相変わらず、自身を見つけてもらえるかの心配をしていた。右も左も、頭の中は、ライヤ、ライヤ、ライヤ。
良い意味で狂わされたのか、悪い意味で成長したのか、わかったものではない。
そして、雫は、さっき影が走る様子が見えた隙間の、反対側の隙間から、少しだけ顔を出した。
額はほぼ全部、顔は目が見える程度隙間から出された雫の顔は、ドキドキと緊張に押し潰されてしまいそうだ。
「…あっ!らいやさんだ…!まんがのとこにいる!…!」
雫は大きい声を出している事に気づき、すぐ口に手を当てた。ライヤは……気づいていないようだ。雫はホッと一安心した。バレてはこのかくれんぼを始めた意味がない。せっかく楽しんでいるのだから、自らその楽しみを潰したくはなかった。
「まんがこーなー…………たしかに、わたしもしゅみれーしょんではかくれてましたけど……そんなにわたし、うぶじゃないですからね」
誰も見ていない、見ていないはずのこの狭い隙間で、雫はどどんと胸をはって見せた。そして満面のどや顔。
きまった……!そう思い、雫はもう一度隙間から顔を出した。ライヤを観察したいのだ。ただ待っているだけは、つまらない。雫の遊戯に対する情熱は、本物であった。
今度は、額が見え、目が見え、ちょっぴり鼻が見えるくらい顔を出した。これ以上だと、見つかってしまう。そう思っていても、もう少し出したい気持ちは変わらない。
「あ、たれまくのまえにいる……そうだよね、そこしかないよね」
しかし、雫がいるのはあそこではなく、ここだ。ライヤも、なかなかいい勘している。このままだと、そのうち見つかるだろう。嬉しくもあるが、ライヤはその後どうするのだろうか。
どこかに行くのだろうか。また、遊んでくれるだろうか。もちろん、後者を選んで欲しいに越したことは無い。
「__!」
だが、心なしか、雫の目にはライヤは焦っているように見えたのだ。その、漫画の垂れ幕をめくる時、ライヤは焦っていた。険しい表情も、していたかもしれない。
____もしかして、いそいでさがしてる?
____わたしは、いらないの?
______らいやさんには、どう、みえてるの?
そんなの、ライヤにしかわからない。
だけど、ますます心配になる。
心が追い付く暇もない、体の震え。おびただしい、恐怖。
救って欲しい。雫はそれを、ひたすらライヤに求めた。
早く見つけて。この震えを止めて。見つけて、止めて。
__もう、あんなの、いや!!
……光だ。さっき見た、光だ。
それは、ライヤのいる方から飛んできた。店内が、交錯する光の筋によって埋め尽くされた。
ライヤがどうしているのかも、何もわからなかった。でも、これだれは言える。
「…………らいやさんが、たすけて、くれ、る____」
____あ、ほかのおきゃくさん、まぶしかったり、しないかな。
そして、雫は一瞬、時が止まったかのように思った。何かが、置き去りにされた…?そんな気がする。
気のせいかもしれない。しかし、
「……さあ、どんと、きてください、らいやさん!」
そう心からライヤに呼び掛けた事によって、その「置き去り」にされた何かは、記憶のどこかへ消えた。
消えて、良かったような、悪かったような気がするが、かくれんぼはまだ続いている。この、いくつかの思考が混じり合いながら。