第十一話 another「かくれが入店」
第十一話を読んでない方は、ぜひそちらからお読み下さい。
雫は、ライヤが壁を向いた後にきっちりとその場を逃げ出した。
それはそれは嬉しそうな表情で。
「雫がかくれるのは……あそこしかないね!」
そう言って、一つの「隠れ家」に飛び込んだ。その隠れ家は、暗く狭い場所で、とても子供以外は入ることができない大きさの空間だ。雫には、ここしか見えていなかった。
「ふとんうりばもよかったけど……ここのほうがドキドキするからねー!」
そう言って、雫はポケットに手をいれた。
そこから出てきたのは……積み木だ。ここらでは積み上げるスペースすらないが、雫のお気に入りなので持ってきた次第だ。ライヤにはバレてはいないだろう。
なにせ、ライヤの裏をつく場所なのだ。わざわざ考えて選んだのだから、雫はかなり自信があった。
「でも、みつけてくれなかったときのばつゲーム、どうしよっかな」
そう考えようとした時、外から物音がした。
おそらく、ライヤが動き出したのだ。そして、その人影はどんどん布団コーナーへ向かっていく。
「ここにかくれてよかった~!」
心の中で自画自賛しながら、雫はライヤを思い浮かべた。
その顔は、初対面の自分にも丁寧に、かつ可愛がってくれた相手のものだ。
今ではすっかり、愛惜しい。
早く、見つけて欲しい。早く、可愛がって欲しい。
早く、甘えたい。早く、おねだりしたい。
でも、雫はそう思う反面、そうであって欲しくないという気持ちも、心の底にはあった。
「……おわって、ほしくないな」
まだまだライヤと、遊びたいのだ。
出来るならばこのままずっと、ずっとライヤと遊びたい。おばあちゃんも混ぜれば完璧だ。
寂しい自分に寄り添ってくれたのは、今のところはおばあちゃんと、ライヤだけだ。
ライヤは、今まで誰もずっと深くは見ていてくれなかった雫を、しっかりと見据えてくれた。
だから、嬉しかったのだ。
ただ、それだけなのに、雫は、すでにライヤにはまってしまってしることに、気づいているのか、そうでないのかも分からない状況にいた。
「…………でも……いまだけでも、せーいっぱい」
楽しむことにしたい。
きっとライヤは、この一件が終わるとすぐに行ってしまうだろう。
ライヤは今までとは違った。だが、それが逆に心配なのだ。ここまでいいことをしておいて、ドッキリ、なんて言われてみよう。雫は喜んで家出でもなんでもするだろう。
この一件で、終わりにしたくない。
ずっと、ずっと遊んでいたい。そんな雫の思いは、続くことになるのか、そうでないのか。ライヤにも、雫自身にも、今はわからなかった。
「……ひゃ、まぶし」
一瞬、前の隙間から強い光が差し込んだ。
強烈な光は、余すことなくスペースの中を照らしていく。
まずい、このままでは中の、自分の様子が外から分かってしまう。
なんとかしよう、と思ったが、その瞬間、光は消えた。
「なんだったんだろ。ま、まさか、らしいさんのサクリャク…!?」
違うと思うが、一体何だったのだろうか。
雫はそれについても、ライヤについても、思いについても考えながら、ここでずっと待つことにするようだ。
ポケットの中の積み木の一ブロックを、ぎゅっと、握りしめながら。