第十話「第一回集起文具店かくれんぼ大会」
なんだろう。この、とてつもない安心感は。
何かが胸の奥で燃えたぎるくらいに、絶大な安心感が感じられる。そんな雰囲気を、雫は出していた。
雫は作っていた城を慎重に維持させると、もう一度こちらを向いて言った。
「あの…なにでおこまりだったのでしょうか?」
「あ、ああ。探してる商品が見つからないんだ」
「でしたら、なまえをおしえてください。たぶんわかるとおもうとおもいますので」
「川中来矢。よろしく!」
「…!あ、えっと……あ…あの……あなたのおなまえじゃなくてしょうひんのなまえ…」
「…………!あ、ああごめん。まずパワーストーンと、クロスボールペンと………………」
「……ふふっ」
ライヤは勘違いを紛らわすために、そそくさと商品の説明を始めた。なんでも、一番情報が欲しいのはその商品の場所だ。
あれだけ探し回って、ライヤが見つけ出すことが出来なかった品物の数々。一体どこにあるのかは、すごく気になる。
「ふんふん…どれも、ざいこはあるはずです。というか、たなにならべてあるものばかりなんですが…………ばしょはわかりますか?」
「多分あってたと思うんだけどなぁ……」
「では、わたしはこれで……」
「あ、いや。居てくれると助かるかな。俺、ここ初めてだし」
「…………!は、はい。まずはかみどめゴムですね。ファッションコーナーにいってみましょう、らいやさん」
「__!ああ、雫!ありがとう!」
「……はい!」
それにしても、まるで百貨店かのような品揃えの集起文具店だが、はたしてどのようにして管理をしているのか。
流石に雫とあのおばあちゃんだけでやっている訳ではないだろう。他にも従業員がいるのか、と思ったが、さっきから見る限りそのような人はいなかった。
「ふんふふんふーん♪」
そこは風先マジックである。
なんとかやっているのだろう…そう考えながら、雫に連れられて、ライヤは目的地であるファッションコーナーへと向かった。
そして、座敷から歩いて三十秒の地点にあるコーナーに到達する。
何度も言うが、本当に広い。この謎の広さといい、従業員といい、なんとも不思議な店だ。
なのに品揃えは随一と来たものだ。そんな謎さえ吹き飛ばしてしまいそうに、順調に経営は成り立っているっぽい。雫の頑張りも、その中に含まれるだろうか。
「あ、あれ?たしかにあさ、かくにんしたのに…」
「やっぱりここか。な?ないだろ?雫」
「らいやさん、おかしいです。これはきっとだれかのサクリャクにちがいありません!ええ、きっとそうです」
「え、え?まぁ、そうなるか」
なにもそんなにキリッと言わなくてもいいろうに。
しかし、本当に賢い子だと、ライヤは思う。とても身長に似合わない発想力と発言力だ。きっと天才なのではないだろうか。テストではいつも百点、体育も優秀、人間的にも秀才。敬語も扱えるのだ。
もしも未来、ライヤが子供を授かるとしたら、こんな子がいいな、と思う。そもそも、そのころはどこで何をしているのか分からないのだが。
「……なにをじろじろみているんですか!?わ、わたしは、はんにんじゃありません!わ、わからないならからだでもなんでもしらべてみてくださいよ!らいやさん、らいやさん!」
「いや流石に遠慮するよ!?俺が不審者だからねそれは!?」
ロリコンレッテルをめきめきにへし折って調子を戻し、またもライヤは考察に走る事にしたようだ。
雫の考えが正しければ、誰かがライヤの邪魔をしているということになる。しかし、一体誰が、どうやって、何のために…………。
このままでは、時間が______。
「ん~…………」
「…あっ!あの、らいやさん。わたし、もしかしたらてがかりをもってるかもしれません」
「まじで!?教えてくれ、時間がないんだ!」
その言葉を聞いたとたん、ライヤが噛みついた。一刻も早く終わらせねばならない。こうしている間にも時間は刻々と過ぎていくのだ。手がかりならなんでも万々歳だ。
「うーん……やっぱりやめとこっかな?」
「え、えぇ!?」
「あーうん…………うん!わたしとあそんでくれたらおしえてやっても、いいぞ~!らいやさん!」
「あ、雫が子供だってことすっかりわすれてた…………!」
またも、か。
もう勘弁してほしい。一体、どれだけ世界はライヤの邪魔をすれば気がすむのか。雫はただ遊んでほしい、という一心でライヤを見つめた。
遊んでやるか、自分でどうにかするか____。
いや、もう、決めた。もうライヤは迷わない。
「あそんで!あそんでくださいー!らいやさん!」
「……うし、わかった!なんでも、任せとけ」
それを聞いた雫は、うわーい!と両手を天に、いや、店に掲げて大喜びだ。笑顔が、とても素敵だ。
ライヤの思いはたった一つ。
この子を、悲しませたくない。涙を見るくらいなら、笑顔に変えてやる。
未来にいけなくなってもいい、かもしれない。最悪でも、ライヤには仲間がいる。仲間は大事だ。かけがえのない存在だ。
しかも、さっきは積み木で遊ぶ邪魔をしてしまった。
ライヤとしては何かの形で償いがしたかったのだ。
ケンがいる。実夏がいる。甲磁がいる。
__そして、雫も、いる。
仲間がいれば、大丈夫。ただ、それだけだ。
「何して遊ぶ?」
「えへへ……わたし、らいやさんとあそべるならなんでもいいですよ?」
「…おれは、決してこんな子には屈しないぞぉ!…………そうだな、かくれんぼでもやるか?店、めっちゃ広いし」
「いいですね!かくれんぼはとくいです!ここでいっつもれんしゅーしてましたから!」
「すでにアウェイ!?いいさ、少し大人げないが勝つまでよ!」
流石にもっと小さいころからこの店にいただけはある。
しかし、だ。
そこで、そんな脅しで屈するわけにはいかない。ライヤも本気で立ち向かうつもりだ。
「きまりです。まずはわたしがかくれますので、らいやさんはみつけてくださいね。…………あの、ぜったいさがしだしてくださいよ?さびしい…です」
「言われなくとも見つけるよ!?てかさっきから思ってたけど、誘惑は十年早ええっつの!」
上目遣いでライヤの手を握った雫は、甘くとろけるような声で囁きかける。
そんな雫の無意識、なのかはわからないが、けっこう響く誘惑にライヤは戸惑いを見せた。実際、雫はかなりの美少女なのが問題なのだ。もう少し、もう少し可愛くなかったら……だったかもしれない。
しかし、雫は違う。本当に可愛く、優秀で素直な子なのだ。
誘惑癖があるのが欠点だが。
「やべぇ……俺、少しだけ響きやがった…………」
「なにかいいました?それより、かくれんぼです!らいやさんはいっぷんかぞえたらそーさくをはじめてくださいね。いちじかん……うんうん、にじかんわたしをみつけられなかったら……どうしましょう?やっぱり、ばつゲームかな」
「そんなにこっちには時間がねぇ……悪いが即効で見つけさせてもらう!」
そんなやり取りを初めに、第一回、集起文具店かくれんぼ大会が幕を開ける。参加者は二人しかいないが、多分それなりの時間がかかるだろう。
なにせ、相手は何年も同じ場所で生活してきた子供だ。
ある小学六年生が、通う学校の校内で逃げ回ってるから捕まえてくれ…とか、そんな感じだ。少なくともライヤにとっては。
「じゃあ、すたーと、です!」
いーち、にーい、さーん。
声が、響く。ライヤのものだ。いや、実は雫も言っていた。
本当の、本当に遊びが好きな子だ。
待ち時間と同じように、時は刻々と過ぎていくのだ。時間を止める手段があるなら早く使ってみたいが、そんなもの、この世にはない。
目を塞いで壁にもたれ掛かる前、一つだけ確認したことがあった。壁にかけてあったアンティークな家具を見て確認した事だ。
「今は四時四十五分。残りは二時間十五分…!」
夜ご飯は、無情にも待ってはくれない。
リミットの七時まで、もう三時間をいつの間にか切っていた。
これが終わった後はスーパーで超速お買い物。そのあと、もう一件……間に合うといいが。
とりあえず、あと六十秒のロスは確定だな。そう思いながら、時間の事と共に、雫とみんなを思い浮かべた。
「待ってろ、仲間!俺がみんなみんな、丸々解決してやる!」
決意は、新たに、改めて。
「__お買い物の、始まりだ!」