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第九話「助っ人少女さんじょう」

 その店の中は、外見と変わることなく、年代を感じさせる代物、といった感じだった。

 電気が切れているのか薄暗く、床も地面をそのまま使用しているフロアは、お世辞にも清潔とは言えない。

 しかしきちんと掃除はしているらしく、角の方には昔ながらのほうきが立て掛けてあった。


 そして店内に客は少なく、ほぼライヤの貸し切り状態だ。さっきからばたばたと走る音が聞こえるのは、子供が遊んでいるのだろうか。


 店先と違って店内は文房具専用のスペースとなっており、意外と広い店内には沢山のペンや小物、あと少しだけプラモデルやらなんやら置いてあった。


 そして奥の方にはおそらく経営者の家へと続く座敷がある。そこにちょこんと座っているのは小さな少女と、そのおばあちゃんらしき人物がいた。おそらく少女は小学校低学年くらいの歳だと思うが、おばあちゃんもその見た目はまだまだ衰えていないように見える。


 少女は積み木で遊んでおり、店番は完全におばあちゃんに依存している形になるが、それでいいのだろう。少女は神妙な顔つきで城のような物を作り、ぱっと満足した表情になる。

 そして何か周りを見渡すが、諦めたようにまた別の物を作り始める。城は残したままにしておくようだ。


 そしておばあちゃんはにこにこした表情でそれを見つめている。近くに置いてあるこたつに乗ったお茶とお菓子に手をつけ、ふわっとあくび。呼べば聞いてくれるだろうが、邪魔はしないほうがいいだろうか。こたつ暖かそう……。


「…よし、お買い物メモを見てみるか…………」


 そう言って、ライヤはポケットよりカナから貰ったメモを取り出す。お買い物メモ、という名前はカナが言っていたものだが、こんな店に向かわせておいて、一体何を買ってほしいというのか。


「流行りのボールペン、髪止めゴム、安眠枕、パワーストーン…………え、以上!?ていうかそんなのあるのここ!?」


『場所を聞いた時からなんとなく予想はしていたが……集起文具店だとはな。確かに品揃えは自慢できるぞ』


『私もたまに行くよ、そこ。おいしいぼーの数もここらでは一番多いし、レアなレトロゲーもあるしね!』


「もっと、あれ。銃とか、薬とか……そんなのだと思ってたのに。まあ、危なくないのに越したことはねぇか…」


 パワーストーンには一切触れず、二人ともスルーの方針だ。

 そんな店の情報を頭にメモりつつ、ライヤは足早に商品を探しに出るようだ。あくまでもついでなので、カナのおつかいはさっさと終わらせてしまおう。

 そう思い、ライヤは店を見て廻った。この先、とんだ一苦労をもたらされると知らずに。




「────ふふっ」


 *****************************


 ない。


「全部全然、見当たらねぇーーーー!!」


『うるさいから、早くインフル発症しろ。周りに迷惑だ』


 そうだ。一向にライヤが探し求める商品が見つからないのだ。パワーストーンや安眠枕はなくとも、流石に流行りのボールペンくらいあるだろうに。


「なんでペンコーナーがすっからかんなんだよ!普通補充しとくだろ!石コーナーはあったけどそれっぽいのないし!安眠枕はなくて普通の枕ないし!あー、もう!こんなところで足取られたくないのにぃぃぃぃぃ!まるで俺の買うものだけ店から消えてるみたいじゃんかぁぁぁ!他のめっちゃあるのにぃぃぃ!」


『いや、しかし……。確かにいつもあるはずなのに……。ここのおばあちゃんは几帳面でな。一定の数商品が売れたらすぐに補充すしてくれるんだが…………』


 ケンと実夏はなかなかここには詳しいらしい。一年前からいるのだから当たり前といえば当たり前なのだが、やけによく訪れているような印象を受ける。


「ケンって、なんかこの店に縁でもあんの?」


『……ない、ぞ!こっそり駄菓子買いに来てる訳とかじゃ、な、ないからな!』


「…ふふふ、はははっ!また、一つ!」


 ライヤが数えているのはケンの弱みの数だ。さっきも握ったが、いくつケンの弱みを握ることになるだろう。


 ちなみに、実夏は先程からゲームをする、と言って通話から離脱している。おそらくやっているのはイカ系陣取りゲームだろう。

 今頃、全国で五百人の壁に挑戦していると思うが、多分やってのけるだろう。

 なんだって、実夏なのだ。実夏だから、やりそう。

 根拠のない自信だが、今だけはむちゃむちゃ信頼できる、そんな自信であった。


 ……と、そういうことを考えている場合ではなかった。


「……ケン、そんなお前が案内しても見つからないなんて、どういうことかわかるか?」


『く、流しやがって…………しらん。パワーストーンですら見たことがあったんだ。探せ。でなくば、おばあちゃんに聞け』


「パワーストーンあんのかよ!?で、でもその手があったか!」


 ライヤはケンに関心した後、少し複雑な店内をぐいぐいと進んで行く。座敷とは反対の方向を探していたので、なかなか座敷が遠く感じる。心地よい音をたてながら地面を踏みしめ、なおかつ棚におかれている商品を倒さないように進んでいった。


 そして座敷に到着する。そこには相変わらず少女とおばあちゃんが座っており、そしてまた、少女は積み木で遊んでいた。


 よくよく見ると、相当普段は暇なのか、少女の周りには沢山のおもちゃが置いてあった。

 絵本に、着せ替え人形。そして卓球のラケットがある。実は、どれも棚に置いてあった商品である。気に入ったのだろうか。


 ライヤはおばあちゃんに声をかける。


「よし、さっそく…………あのーすいませ、ん………………」


 かけようと、思った。かけることを戸惑った理由はもちろんある。

 おばあちゃんが、ぐっすりと眠っていたのだ。

 座布団に座ったまま、少し前屈みになり、スースー寝息をたてている。とても、起こして嫌な思いはされたくない。


「…どうするよ、ケン」


『ならば、店番の子に聞けばいいんじゃないのか?』


「いや、それが………………」


 その子はまだ積み木で遊んでおり、何かを作成しているところであった。城はまだ残っていて、そろそろ木のブロックもつきようかというところだ。


 しかし、その顔は驚くほど真剣で一生懸命なもので、一切の迷いがない目をしていた。たまに辺りにを見回すのだが、何をしたいのかも分からない。

 しかし、さっきからたまにこっちを見ていた視線は、彼女のものだったのだろうか。


 これもまた、邪魔なんてしたくない。


 ここでライヤのお人好しが発動してしまい、このままでは目的の通過点を通過することなくゲームオーバーしてしまう。

 しかし、命令通りおつかいを遂行しなければ、カナが何をするか知ったものではない。


 これは、俗に言う………………。


「八方塞がり、ってやつか…………」


 一体どうしたものか。


 なんとか解決策はないのかとライヤとケンは頭を捻るが、なかなか名案が思い浮かばない。


『あ、実夏が呼んでる…後でまた繋ぐ。その時にはちゃんとスーパーへ走っている事を、期待している…』


「なんで他人事なの!?無茶無理難題押し付けんなよ!!この、鬼畜が!」


 肝心な時に限って頭は働かない。そしてケンも役に立たない。

 受験やテストと似たようなものだと思うが、これはいわゆる緊張とかそういうのが作用した結果らしい。だから精一杯そう念じてみるが、案の定、策が浮かぶわけでもなかった。


 どうしようか…………………。



「あの、なにかおこまりでしょうか…?」


「え…?」


「なにかわからないことがあったら、きいてください。できるかぎりおこたえしますから!」


 なんと、声をかけてきたのはあの子だ。

 シンプルで綺麗な服装に身を包んだ彼女は、仄かに微笑んでライヤを一途な目で見ていた。その手は積み木から離れ、その足は座敷の段差部分から揺れている。

 ライヤは、彼女の邪魔をさせてしまった事を非常に悔やんだ。


「ごめん、遊びの邪魔しちゃって……」


「ぜんぜん、だいじょうぶです。わたしこそ、きづいてあげられなくてすみません」


 そう言って、彼女は段差を飛び降りてそこに立った。

 身長は少女らしく低く、ライヤは観葉植物くらいの背丈の少女を見た。

 少女のその目は、まっすぐで純粋な、まさに子供の目に例えるのが相応しい──。


「じこしゅ…かんじゃった。じこしょうかいがおくれてごめんなさい。わたしは集起文具店のかんばんむすめ、らしいです。風先雫(かざさきしずく)ともうします。いご、おしみりおきを……で、あってるかな?」


「お見知りおき、な。雫!」


「……!は、はいっ」


 それはライヤにとって、頼もしすぎる助っ人、いや、救世主に他ならない存在の登場であった。


「……わたしでよければ、おちからぞえさせてください、ね」


 雫は、そう言ってライヤを見上げた。

 何時までも、何時までも、まっすぐな眼差しで、見つめていた。

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