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第八話「移動中の情報check 2」

 非常に簡単であり、なおかつ厳しい仕事の追加を任されてしまったのは二十分ほど前の事だ。


 あの後カナは買ってほしい物と店の場所、そして一万円札を一枚渡し、何処かへ行ってしまった。

 ちなみに、おそらくライヤが持っていた硬貨は、おそらくこの時代と同じものだ。お金のデザインなどころころ変わるだろうに、そこはラッキーだった。しかし、見た感じかなりひもじい懐であったのは確かだ。


 ライヤたちが戻るくらいにはカナもスーパーの入り口辺りにいる、ということだが、なかなかカナのことだから安心など出来ない。


 しかも、カナに今すぐに行ってほしい、と言われてしまったので、スーパーでの野菜の買い物はすっぽかし、一目散にカナの追加オーダーを遂行する事になったのだ。

 流石に何をしでかすか分からない未来人なので、カナの注文を優先することになった始末だ。

 まぁ、本人は言うとおりにすれば何もしない、とのことなのでそれほど心配する必要はないだろう。



「寒い………涼しいって比じゃねぇ…………今って何月だ……?」


 例の店へと走っている途中、突然通話中のケンに話題を向ける。

 今となってはライヤもとりあえずは受け入れたらしいが、この世界、この時代の基礎的な知識をライヤは覚えていた。二時間ほど前、ほとんど何も覚えていない、と考えた自分が、ライヤは馬鹿馬鹿しかった。


『今か? 今月は十一月の三十、明日から十二月だな。確かに最近は冷え込みが速い。気持ちは分かる。分かりすぎる』


「せめてもうちょい前に召喚してほしかった………! あー寒っ!」


『我慢しろ。それと、それをしのぐ寝床が決まったことを実夏に感謝したほうがいい』


 ライヤが着ている服は、長袖長ズボンでこそあるが、隙間から差し込む冷たい風には耐え難いようであった。

 未来でもこういう事は解決されていないのか。そう考える間にも、襲う寒さはライヤの気を根こそぎ持っていこうとする。


 ライヤは気をまぎらわせるため、ケンに問いを発する。


「え、実夏の許可だったのか?」


『そうだ、俺は中立の立場だったが、実夏に押し通された』


「やっぱ実夏には弱いんだなー」


『どうとでも言え。後で精神的な恐怖を植え付けてやる』


 スピーディーに会話が進む。寒さと焦りが相まって、さっきよりも速めに走っていることが原因かもしれない。


『はーい! 実夏のお通りでーす! 実ってますかっ!』


「あれ、実夏じゃん。家の事、ありがとう。ジツリョク、カンストできたか?」


『また勝手に………』


『ケンちゃんは気にしないの!カンストはしたよ、何回も。維持が難しいってだけ。持って一ヶ月くらいかな』


『……ちなみにその維持、出来てるのは全国で五百人くらいしかいないって話だ』


「結構凄いな!?」


 突然通話に出たのは実夏だ。ゲームの話を話題にしても、その元気は衰えない。


 そして、「実ってますか」のバリエーションもかなり豊富と見受けられた。ライヤが初めて聞いたのが通常、今言ったのが「元気ですか」バージョンとでも言おうか。

「実ってますか」のバージョンが複数あることを考えていると、今後どんなものが出てくるのか楽しみではある。あまりハイテンションにされるとうるさいが。


 それにしても、ケンと実夏はどういう関係なのか。実夏はケンのことをよく知っているようだった。

 今まで、同じ未来人である、というところだけを重視しすぎて、いつ召喚されたのかについては、ライヤは気にしていなかった。

 ケンの言動を聞くに、彼はかなり現代に詳しい。ケンはいつ召喚されたのだろうか。


「なあ、ケンはいつこの時代に来たんだ?」


『一年くらい前だ』『一年くらい前かなー』


「一年かよ!? おれが三時間前なのに!?」


 ライヤは今日で一番驚いたかもしれない。

 それは普通に、住む家が決まったことが実夏の許可であったという事を上回る事案であった。

 三時間前、と言ったところでケンと実夏が驚嘆の声を静かに漏らしたのが聞こえた。


『……!? 三時間前だと!? 俺と初めて会った辺りじゃないか! どういうことだ!?』


『……私って、凄い!』


「どういうもなにも、それだけだよ!? 召喚されて一時間もたたないくらいで実夏に衝突されて、お前が出て来て、この状態だ! なんか文句ある!?」


 これにはケンも驚きを隠せなかったらしい。

 ライヤもわかっていたが、ケンと実夏は、どうやらライヤを探していたらしい。


 しかし、それを考えると、実夏が召喚されたばかりのライヤを、ぶつかる、という行為のみで見つけ出したことになる。

 すげぇ………………ほぼ運任せだが。

 もしかすると、今までもこうやってライヤを探していたのか。考えていると、突然ある言葉を思い出した。


(「とうとう死人を出したのか」)


「あっ…………」


『どうした?』


「あ、ああ。ま、詳しい話は後で聞くさ」


 そう言ってライヤは唐突に話を締める。察したらしい。


 ケンは少し不自然に思ったが、その理由はすぐに分かった。

 否、別の意味で捉えたのだ。


『あぁ、もしかして着いたのか?』


「……お、おう。今着いた。今走ってる理由になってた店に………着いたんだよ」


『……よし。こっちから指示するから、従え』


「上から目線は変わんねぇのな!?」


『ライちゃん頑張れー!ファイト!』


 そしてライヤは上を見上げる。ちょうど絶妙なタイミングで店に到着したのだ。意外と遠かったが、一体どうしてこうもライヤたちのミッションの邪魔が入るのか。和解した甲磁の場合ですら、最初は足止めでしかなかったのだ。

 看板に目をやると、そこには、


『「集起文具店(しゅうきぶんぐてん)」』


 文房具屋の看板が、そこにはあった。

 店の周りには昔懐かしいガチャガチャや筐体ゲームが置いてあった。どうやら駄菓子屋も兼業しているらしく、沢山の駄菓子が店先に並べられている。

 そして、コピー機、郵便ポストなどが連なる入り口にはどこか哀愁感が漂う。そんな店を見て、ライヤは言った____。





「なんでこんなところなんだよぉぉぉぉーーー!?」


『しるか。時間がない。早くしろ』

『おいしいぼー食べたい……』



 苦労してたどり着いた目的地が、緊張感など一切見当たらない文具店だった。もっと、こう!あれだよ、あれ!なんか違うぞ!


 しかし、その店の外観を気にしている暇はライヤは今、持っていない。

 しかも、息苦しいとか、頭が痛いとか、そんな感じがまたライヤを襲う。なんかデジャブだぞ、おい。


「……嫌な、いや~な予感がする」


『弱音ならきかない。しっかりやってこい』


『頑張ってくれないと、私も料理作れないからね』


「………ああ」


 大丈夫だろうか………そう心の中で呟きつつ、ライヤは一歩を踏み出す。


 ──残り、三時間。時は迫る。


 そう、夜ご飯の、ボーダーラインに。

 少しずつ。少しずつ。近づいていく。

 それは、料理が運ばれない悲惨なものとなるか、幸福な満腹感に満たされるものかは、まだ、誰にも分からない。

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