第七話「追加オーダー頂きましたぁ!」
「おいちょケン! 自動ドアなんて聞いてねぇけど!?」
『しるか。しかし俺はお前の弱味を握れてラッキーだった。メモったから、心配せずとも忘れない』
ライヤはいざ店内に入ろうというとき、ドアに取っ手が無いことにようやく気づいた。しかしもう遅い。
『うひゃぁ!? ……だってな………………くくっ』
「神様どうかこいつに天罰を下して下さい」
なんというか、合戦、といったほうが分かりやすいであろうか。
弱味を握っては握られ、握っては握られて。
「み、見られたぁ…………だってよ………………ぷっ」
『神よどうかあいつに憤怒の鉄槌を降り下ろしてくれ』
溜め込んだ弱味たちをどこでどう使うのかは二人共に全くわからない。ただ、やらなくちゃいけない感が半端ないのだ。
これがライバル?なのか。分かるのなら誰かに教えてほしいものだ。
「うわ、めっちゃごちゃごちゃしてるな。本当に奥まで見えない」
『俺が指示をするから、お前はただ従っていればいい』
「唐突なリーダー宣言きたぞ!?」
これはまた大事件だ。今度同じようなことやってやろう……そう心に誓い、ライヤはスーパーの店内を見渡した。
しかしライヤは、とんでもないことに気がついてしまう。
「にしても、不思議とビックリとか、違和感があるとか、そーゆうわけでも………」
あっ…………
何故だ。何故なんだ。
「何で、不思議じゃないんだ?」
『どうした?』
「なんか、変だ。俺は何でかこれに違和感をかんじねぇ。ドイツもスイスもフランスも、見覚えがある気がして………」
『そうなのか?俺は最初は何もかもが違和感でしかなかったんだが。まさかお前、未来からは来てないな?過去からとか』
「まさか、な」
ここで同じ未来人としての矛盾が生まれる。
個人差、だろうか。
とりあえず、事が終われば詳しく話を聞こう。
そうライヤは思い、ケンの声を待つ。
『早速だが、指示を出す。正面突き当たり右の野菜コーナーへ向かってほしい。買うものは玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス………後、カボチャも』
「わかった………」
ライヤは了解し、真っ直ぐに野菜コーナーへと足を運ぶ。
何故かこの時代の常識がわかるライヤは走らずに人混みを避けつつ、難なく野菜コーナーへたどり着いた。
見た感じでは、今日はまあまあ高めといったところだろうか。
「着いた!おっし、まずはあれから………」
──。~────。
また、何かを感じた。
…………視線を感じる。
真剣な表情で振り向くと、そこには薄い紫の髪を片辺りまで伸ばした、ジト目気味の少女がこちらを見つめている。手にはちょうどレタスをとろうというところだ。
『……………』
分かる。あいつは未来人だ。
何故、分かったのだろう。ライヤにも分からない謎の強調は、ケンと初めて会った時はなかった物だ。
「お前、未来人だな?」
「あれ?もしかして君が来矢?さっきお巡りさんに聞いたばっかりなのに~。もう、会っちゃったね」
そして、可愛げに笑った。
彼女からは、何だかよく分からないオーラが飛んでくる気がした。ふにゃっとしてそうだが、案外ガッシリともしていそうな、変な空気。
先ほどからの調子の悪さも、あるいは………
『……お前の名前は何だ? いつからここに来た? 何を知っている?』
「まあまあ、落ち着いて。せっかちさんは得しないよ?」
沈黙を守っていたケンも、ここぞとばかりに反応する。ライヤの調子が崩れ始めた辺りから、感じを察したらしい。
少女は口を開く。
「私は花菜。綴花菜。そのハンプレの声の人も、同じ未来人として、よろしく~」
プレートを知っているということは、彼女もこれを持っている可能性が高い。
ただ、略し方はそれであってるのかは不満ではある。
「よ、よろしく。ところで、綴、もう会っちゃったって何のことだ?」
相変わらず空気はふわふわしている。店の中には普通に別の人がいるし、普通にガヤガヤと賑わっている。
そんな場所でライヤがした質問に、意外すぎる返事が帰って来た。
「……私から君たちに敵対宣言」
「え!?」
まさかのここにきて敵対宣言。やばい、まずい。そう思った。
しかし、カナはでもでもと言って手を横に振った後、
「私は心に余裕があるから~ちょっとだけ待ってあげる。だから、私の言うとおりにしたら悪いようにはしないよ」
『ほとんど何もわからないんだが』
「あちゃー! ごめんなさい! ところで、君の名前は?」
『佐藤爽剣だ』
「ソウケンくん?」
『……!その名で呼ぶな……! 佐藤か、ケンと呼べ』
場をわきまえないケンとカナのやり取りをライヤは呆然と眺める。ケンは声だけ、しかも自分の持っているハンプレから聞こえるだけなのに。
何故かそこに二人がいるように見える。本当に不思議だ。
しかし、ケンはなぜかかたくなにソウケンと呼ばれることを拒む。確かにキラキラネームであることは分かるのだが、ケンの場合は程度が違う。本当に嫌らしい。
なにかあったのか、と聞いたなら、
「覚えてないが、何か嫌だ」か、
「聞くな」のどちらかになるだろう。
傷口に塩を塗るようなことは、流石のライヤもしたくはない。あくまでいじり合いであって、傷付け合いではないのだ。それをわきまえなければ、ライヤとして、ケンとして、お互いにやっていけないだろう。
「ちなみにここに来たのは一週間前。でも生きれてる! 凄いと思わない?」
そこにかけては、多分ライヤには敵わないと思われる。
なにせ、召喚されてわずか一時間と数十分で住む家が決まり、仲間が出来たのだ。
おそらく、この世界からケンと実夏をとれば、この現代での生活はとんだ悲惨物語になっていたことだろう。
「言うとおりって、なんだ? 早く言ってくれ。俺は忙しいんだよ」
「ま~たせっかちさん。今言うから聞いといて」
そう言ってむすーっと頬を膨らませると、全く……的な呆れ顔をする。顔はかなり整っていて、もうこの顔だけでも生きていけるのではないか、とライヤは思う。でも、これだけは分かる。
「綴のその顔、めちゃくちゃレアっぽいな」
「な、ななぁ~!? そんなことないよ! もう! 話、始めちゃう」
そこで深い深呼吸を、カナは済ませた。
さっきと同じゆるい顔に戻り、落ち着いたようだ。その顔は一体どうなってんだ。
あ、いや。ケンがいるから今度聞いておこう。
「……改めて、ね。私は君たちに敵対する。私がする要求は………」
騒がしいスーパーの中で、この場所だけが静止する。時間が止まり、ここにいる未来人は息を飲み干した。もう、体の水分が渇き始めている。
そして今、要求の扉が開け放たれる____。
「私が指定した物を、買ってくること」
「は、ぁ!?」
『────へ?』
それはとても、とても簡単で、容易くて、楽で__。
「──大変な仕事増やしてくれるんじゃねぇーーーーーーーー!!」
「ふふふっ」
残り時間は三時間半。時間は押している上に、さらに臨時の仕事が加わってしまった。
頑張れライヤ。やり遂げた時には旨い飯が待っている。
なんとか言い聞かせて、その叫びは、スーパー中に響きわたり、沢山の客と店員に聞かれるまでに音量が落とされた。……はずだ。
「ままーしごとのひといるー」
「しっ!もう変な人は見ちゃだめよ」
はずだ。
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