インガスンガソン
インガスンガソン。彼はいつも叫ぶ。私は知っている。この言葉が最高の愛だってことを。今も彼は私を愛しているが、様々な難問のために一緒にはいられない。そんな彼から二ヶ月ぶりにメールが来た。奇妙な文章だが、彼らしい。「要するに私たちは何者も愛すべき獣なのです。あなたが、今も数多くの試練に向き合っているのは理解しています。もう終わりから始まりまですべて見てしまいました。これから起こるのは運命に抗う私の挑戦なのです」おそらく彼は死ぬ。けれど、何のために彼が死なねばならないのか?私は徹夜で考えだが、霧は晴れない。遠くで彼が見ている。感じたのは日曜日のデパート。柔らかい視線が絡みついて私をなでた。いいかもね。こういうのも、と笑う。彼も笑ったろう。そんなデートは続いていく。インガスンガソン。彼の声が聞こえる。追いたくなって、彼の顔が見たくてたまらなくなる。でも、彼は死地に挑む戦士なので、もう私のことを考えていないだろう。イヤリングが揺れて落ちた。老人に踏まれて、粉々に砕け散る。酒くさい。私は酔っている。もう、こんななら、いっそ!!愛人のユタカを呼んで、キスをする。熱い熱い日になった。ただ、深い部分で、彼の残り香が冷めない。翌朝彼が死んだと知る。メッセンジャーのタハラが黒い紙を持ってきたのだ。痛い。彼のヒゲの痛みが思い出される。マスクをとると双子の彼とそっくりだ。ああ!!もう半身は消えた。タハラは言う。「彼はこれからもあんたのもんだ。結局何も変わらないのさ」もう彼の視線はない。そして1年が過ぎた。私はハッキリとわかる。もう彼は夢でしか会えない。彼の手紙をメッセンジャーのタハラが持ってきた。「人に好かれたかったんだ。理由を君が知りたがると思って、この手紙を遺した。冒頭の言葉がすべてだが、少し説明しよう。この問題は私と君だけの問題ではなく、今後多くの同胞たちが経験する問題なのだから。人に好かれるため私は生きた。それが君のためにもなると信じたかった。そして、破滅に突き進むとわかっていても、私は自分を止められなかった。悲しい夜明けとともに決してニワトリは鳴かないと知ってしまったのだ。人の望むことをするなんて、私にとって苦痛だ。けど、私は私を消す代償として、人の笑顔を手に入れた。それは、尊い。が、私に真の笑顔はない。君はもうわかるだろうね?つまり、この問題が私たちの間でもっとも致命的だったのだから。君がいわば隠された黄金だったように。私は宝を守る番人だった。番人は誰にでも愛想よくしてはいけないのに。きみという果実はすでに狙われていた。私は存在の爆発しかないと思ったが、なんともならないとも悟った。好きなんだ。でも、きみは誰にも好かれてはいけない。そのことは、ずっと変わらない。これからもずっと見守っている。そして、愛している。私は消えるが、君は守られた。禁断の道は閉ざされたのだ。インガスンガソン!!」彼はやはり旅立った。さようなら。何かをしようとして、何もできなかった人。