8、Missionは完了か?(side月夜)
トントン、とドアをノックすると、部屋の主が「はーい」と返事するのが聞こえた。
「月夜。入るよ」
名前を言ってドアを開けると、ベッドの上で転がって本を読んでいたニコがこちらを向いた。
「どうしたの、月」
「うん、ちょっと聞きたいことがあって」
月夜が遼一の家を訪ねてから、ちょうど一週間が経った。
今日は久しぶりに、遼一が月夜たちの家に夕飯を食べに来たのだ。
「聞きたいこと?」
「うん。遼兄と付き合い始めたの?」
「へ?はっ?え?いやいやいや!」
「あれ?違った?」
「ち、違う違う違う!そんな嬉しいことが現実になったら、真っ先に月に言うよ!」
それもそうか。
この姉は全く人に隠し事ができない。
と言うより、隠す気が全くないのだ。
「でも、一歩くらい近づけたんじゃないの?」
「・・・そうかなぁ・・・?」
本人は気付いていないかもしれないが、ニコを見る遼一の目が、今までとは明らかに違う。
なんというか、以前に比べて、甘さが増している。
そんな遼一は、1時間ほど前に謙介とともに外に飲みに行った。これも珍しいことだ。
「あ、でも・・・」
何かを思い出したのか、ニコが体を起こす。
「何?」
「月なら意味が分かるのかな?」
月夜はいつものように、床の上に敷かれたラグに胡坐をかく。
「聞いてみなくちゃ分からないけど」
「ううんと。遼ちゃん、いつも私の告白に、『大人になったら考えてやる』って言ってたじゃない」
「そうだね」
「で、この間の日曜日に、その、えと、き、キスされて」
「え」
「あ、いやえっと、正確にはキスしたらやり返されたというかなんというか・・・えっと、とにかくそれでね、恥ずかしくて顔見れなくなっちゃった私に、『子供でよかった』って言ったの」
思い出したら恥ずかしかったのか、枕を抱えて話しだした姉を直接見ないようにする。
聞いている方が拷問ではないだろうか。
「それで最後に」
「まだあるの?」
「これが一番分かんないの。『お前を大人にするのは、俺の役目』って言われた」
これを聞いて叫ばなかった自分を褒めてほしい。
何故この言葉の意味を理解できない。
何故その裏の気持ちに気付かないのだ。
無表情になった月夜を不安に感じたのか、ニコが「月?どうしたの?」と聞いてくるが、とりあえず無視する。
今、口を開けたら、余計なことを言ってしまいそうだ。
本人が気付くのが一番。
気付かないのならば、気付かない言い方をした本人に責任を取ってもらおう。
「・・・それ、誰かに聞いてみた?」
例えば、綾子さんとか葵さんとか、と脳内で補足する。
ニコは、月夜が綾子とつながっていることを知らないはずだ。
「聞いたよー。綾ちゃんと葵に。そしたら、頭叩かれて『自分で考えなさい!』って怒られた」
「ああ・・・だろうね・・・」
まったく同じことをしたいと思ったが、話題を変えることで自分の気を紛らわす。
「遼兄が父さんを飲みに誘うなんて珍しいね」
「うん。何かね、いろいろ片付けてくるって言ってた」
「片付けてくる?」
それで、娘大好きな父親と飲みに行ったのか?外堀から埋めるつもりなのか?
いや、中はもうとっくに埋まってるんだけど。だってニコは生まれてからずっと遼一が好きなのだから。
遼一の気持ちには全然気が付いていないようだけれど。
「・・・はーーーーーー」
話題を変えたつもりで墓穴を掘ってしまい、盛大なため息が出る。
「え、ちょっと月、どうしたの?」
「・・・なんでもない・・・」
ため息もつきたくなるというものだ。
片や、自分の長年の片思いが実っていることにも気が付いていない姉。
片や、自分の想いに気が付いたら怒涛の如く動き出した親戚のおじ・・・お兄さん。
何なんだ。今までののったりくったりした時間は何だったんだ。
「ニコー!お風呂入っちゃってー!」
「あ、はーい」
母に返事をすると、ニコはベッドからぴょんと飛び降り、風呂の準備を始める。
「ニコ」
「ん?」
「とりあえず、よかったね」
想いが、通じたようで。
それを正確に理解したわけではないだろうに、ニコは「ん?ありがと」と言って、風呂に向かった。
リビングに戻ってきて、ソファに腰を下ろすと、キッチンから出てきた母が、月夜の横に座った。
「ねえ月くん」
「何?」
「今度遼一さんが来るときには、お赤飯炊いた方がいいかしら?」
「なっ!ん、で、赤飯?」
ニコと話してきたばかりで、先程の内容と勝手に結びつけてしまう。
平静を装ったつもりだが、全然装えなかった。
「えーだって、遼一さんとニコ、やっと付き合い始めたんでしょ?やっぱりお祝いしてあげたいじゃない?」
両手を合わせてにこにこと微笑む母。
やはり、遼一の変化に気が付いていたらしい。
「母さんも、分かったの?」
「もちろんよ!だって遼一さんが、ずいぶん熱い視線を送ってたから!」
ああいうの、見てるほうが照れちゃうわよねーと母は1人で盛り上がっている。
肝心の本人が気づいていないというのに・・・。
「お父さんと飲みに行ったのだって、お付き合いの許可取るためでしょ。もういっそ、結婚の許可も取っちゃえばいいのに!」
「母さんは、反対しないの?」
「あら、月くんは反対?」
すぐに聞き返され、言葉に詰まる。
「別に、反対はしないけど・・・。年の差があるし。親としては、反対なのかなって」
「いいえー?だって、好きな人と一緒になるのが一番じゃない?23歳差くらい、世界を見ればいくらでもいるわよ。それに、遼一さんなら、安心してニコを任せられるしね」
お赤飯よりも洋風の方がいいかしらと先走って考える母に、釘を刺しておく。
「とりあえず、本人が言うまではそっとしておいてあげた方がいいと思うよ」
「まあそうよね。もしかしたら、今頃お父さんと遼一さんで殴り合いのけんかしてるかもしれないしね!ふふっ」
どこまでも楽しそうに話す母は偉大だと思う。
月夜は短くため息をつく。
「月くんにもお兄ちゃんができるわねー!よかったわねー!」
ずいぶんと気の早い話だが、しかしこれで、月夜の長年の願掛けも意味があったということだろうか。
月夜がまだ幼稚園に入ったか入る前だったか。
いつものようにニコが遼一に「すきです」と言っているのを家族でほほえましく見ていた。
「はっはっは、遼一、よかったなー嫁さんが決まって」
「とか言って謙介兄、本当に嫁にもらったら殺す気でしょう」
「当たり前じゃないか!うちの可愛いニコを、お前になんかやるか!」
「あらー、ニコが遼一さんと結婚したら、遼一さんは月くんのお兄ちゃんになるのねー」
「りょうちゃんが、ぼくのおにいちゃん?」
「ちょっと姉さん、子供に何教えてるんですか!」
「だって事実じゃないー!よかったわねー、遼一お兄ちゃんよ、月」
「りょう、ち、にい・・・」
「あー可愛い!ほら遼一さん!可愛いでしょ!うちの月くん!」
「いや可愛いですけれど!」
「ずるい!りょうちゃん、つきのことかわいいっていった!」
「お前はお前で、弟にやきもち焼くな!」
「月ー!ニコー!父さんのことも呼んでー!」
幼心に、このまま呼び続けていれば現実になるのではないかと思って、結局現在まで呼び続けていたのだが。
そう遠くない未来に、本当になるのか。
(・・・そううまくは転がらないかな)
現実は厳しい。
そうそう考えている通りにはいかないだろう。
しかし、23歳と言う年の差をはねのけて、人生をかけた恋を成就させかけている姉ならば、そんな未来も夢ではないのかもしれない。
(ま、ニコは周りの人に恵まれてるから、何とかしちゃうかもね)
「ただいま・・・」
「ただいま戻りました・・・」
「あら、お父さんだわ!遼一さんも?おかえりなさーい!何のお話してきたのー?」
スキップでもしそうな勢いで母が玄関に向かう。
遼一が一緒に戻ってきたということは、今度こそはっきりニコに伝えるつもりなのだろうか。
「あ、ちょっと、月くん、何か冷やすもの!2つお願い!」
「はーい。・・・やっぱりやり合ったのかな・・・?」
今夜はもう一波乱あるのだろうか。
それもいいか、幸い明日は休みである。
どんな嵐もいつかは過ぎ去り、太陽はまたさんさんと光り輝くのだから。
(だからきっと、うまくいく)
保冷剤とタオルを2つずつ用意して、月夜は玄関に向かったのだった。
くっついたような、くっついてないような、そんな感じですが、一応これで完結としたいと思います。
いい夫婦の日に完結!
夫婦じゃないけどね!(笑)
ニコちゃんはがむしゃらですがちょっとおバカですね。
遼ちゃんはもっとおバカですね。もっと早くに動きなさいよあんた!
でもそんな2人が作者は愛しいのです。
綾子や葵の裏設定があまり出せなかったのが残念です。
綾子は年の離れた兄がいます。
葵は弟と妹が4人います。長女です。
・・・今ここに書いてもダメですね・・・(汗)
月夜くんにも幸せになってほしいです。
実は一番ニコを思っているかもしれない。
優しい子ですね・・・ホロリ。
次回はまた異世界ものに挑戦しようか、現実世界(完全に年齢制限なし)にしようか考え中です。
またお会いできたらうれしいです。
最後になりましたが、評価、ブックマークをしていただき、ありがとうございました。




