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1、おねだりキス大作戦

今まで書いたことがなかった、恋愛押せ押せ系女子を書いてみました。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

「ねえ・・・キス、して?」


ソファの座面にうつ伏せしていた女は、顔を上げて、ソファの隣に座っている男に甘いおねだりをする。

女の潤む瞳に誘われるように、男は腕を伸ばす。

頬に触れそうになる手に、女は期待を込めて、そっと目を閉じた---。


「いぃっ・・・いひゃいいひゃいいひゃいれすー!!!」

「バカなこと言ってる暇あるならさっさとレポート仕上げろ。する気がないなら帰れ」

思いきりつまんだ頬から男が手を離すと、女---と言っても、やっと『少女』から脱したばかり---がきょとんとした顔で言った。

「え?キスする気は満々だよ?」

すぱーん!と小気味いい音がしたと同時に、女が後頭部を抱えてうずくまった。

「ひっどぉい!遼ちゃん!頭がバカになる!」

「それ以上バカにならないから気にするな」

「そんなことないもん!これでも勉強はできない方ではないもん!」

「・・・それが不思議でしょうがない・・・」

男は片手で頭を押さえ、盛大なため息をついたのだった。




「おっはよー!ねーねー、また玉砕だった!次の作戦を授けてください!」

大学に着いて講義室に入るなり、友人の指定席に突撃した小山内日光おさないにこは、昨日の結果報告をしに行った。

「またー?ニコ、あんたちゃんと言った通りやったんでしょうねー?」

「やりましたよあや先生!服装は萌え袖ざっくりセーター、目線は下から覗きこむように、ポーズは軽く握ったこぶしを頬にそっと当てて!」

ちなみに『萌え袖』とは、手の半分くらいまで袖で隠れた状態らしい。

つまり、指先だけが出ているわけだが、それを見て庇護欲がそそられる、というのは綾子の弁だ。

「それで失敗だったの?」

「ええもう、見事にバッサリと!」

「・・・さすがに、40代独身貴族は攻略が困難ねー」

腕組みしてムムム、と考えているのは草薙綾子くさなぎあやこ、ニコの大学の友人兼、恋愛指南役である。

綾子は美人だ。

ゆるふわでちょっと明るい色の柔らかい髪、左右対称の整った顔立ち、ぼんきゅっぼんのナイスバディ。

特にそのぽってりとした赤い唇は印象的で、女であってもニコはよく綾子に見惚れている。

その容姿ゆえに、恋愛経験もそれなりにあるらしく、出会ってすぐにニコが恋愛指南役になってくれないかと頼み込んだ時も、なんだかんだで受けてくれたのだ。

「おはよー。今回も失敗だったわけ?」

「あ、おはよあおい。今回もって言うなよー!」

声をかけてきたのは高橋葵たかはしあおい。綾子と同じく、ニコの大学の友人である。

容姿は綾子とは逆に、スレンダーだ。そのかわり、スポーツで鍛えているため、無駄な脂肪がなく、程よく引き締まった体はとてもかっこいい。

黒い髪をポニーテールに結んでおり、化粧っ気はない。

性格もさばさばしており、言いたいことをはっきり言う分、裏表なく付き合える。

綾子も葵も身長が170cm近くあり、なおかつ2人とも目立つ容姿のため、顔立ち十人並みで155cmのニコは一緒にいてもたまに埋もれている。気がする。

「事実でしょ。やっぱり遼ちゃんには、その年代らしいアプローチが必要なんじゃないの?」

綾子も葵も、遼一に直接会ったことはないのだが、ニコが「遼ちゃん遼ちゃん」と繰り返し言うため、2人も同じように呼んでいる。

「ううん、私もさすがに40代は相手にしたことがないな・・・」

「綾ちゃんでもないの!?」

「ニコは私をどう見てるのよ」

ピンとおでこを弾かれる。

綾子のでこピンは結構痛い。昨日から、さんざん暴力を受けている。

まあ半分は、自業自得と言えなくもないが。

「大体、いくつ違うんだっけ?」

「23」

「・・・大きい数字だねー・・・」

まだ20歳の3人からすれば、倍以上も生きていることになるのだ。

「でも好きなんだもん!」

「「はいはい」」

ぽんぽんと2人は、ニコの頭をなでる。

話題の人物、遼ちゃんこと岸本遼一きしもとりょういちは、ニコの父の従兄弟である。

ニコの祖母と遼一の父が兄妹なのだ。

ニコの父、小山内謙介おさないけんすけには姉と妹しかおらず、家が近くて親同士も仲が良かった遼一一家とよく遊んでいたらしい。

なんでも、遼一の父の奥さんは、ニコの祖母と昔からの友人とのこと。

つまりニコの祖母からすれば、実の兄が自分の友人と結婚したのだ。

遼一は一人っ子だったため、謙介を実の兄のように慕っていた。

その関係は現在になるまでも続いていて、遼一はよくニコの家に遊びに来ており、ニコや1つ下の弟の月夜つきやともよく遊んでいる。

と言っても、ニコと月夜は大学生になってそれぞれ忙しいし、遼一も謙介も仕事があるのでしょっちゅう、とはいかないのだが。

遼一はニコが生まれた頃から、よく遊びに来ていた。

小さい頃からずっと一緒にいてくれた『優しい憧れのお兄さん』は、いつの間にか『大好きな人』に変わっていた。

血統的には問題ないはずだ。

従兄弟同士は4親等で結婚できるんだから、それより離れているニコと遼一ならば何の問題もない。

そう、問題は---

「まったく、相手にされていないってことなんだよねー」

はーっと盛大にため息をついて、講義用の机に突っ伏す。

遼一には昔から、何度も何度も、しつこいくらいに気持ちを伝えてきた。

しかしその度に、「ニコが大人になったら考えてやるよ」と流されてしまうのだ。

「どうやったらおとななの?」

いつだったか、まだ小さかったニコは、直接聞いた。

「その質問が出るってことは、まだ大人じゃないな」

身長差が今よりだいぶあったから、遼一はかがんでニコの頭に手を置き、そう答えた。

「わかった。おとなになったらいいのね?やくそくだよ、りょうちゃん!」

その後も、自分なりに大人になったと思うタイミングに何度もアタックしてきた。


中学校を卒業して義務教育から抜け出したとき。


16歳になって法律的に結婚できるようになったとき。


初めてバイトをして初給料をもらったとき。


18歳になって運転免許を取ってきたとき。


希望大学に入学したとき。


そして、今・・・誕生日を迎え、20歳になったとき。


さすがにニコにだって分かっている。

「大人になったら」というのがその場で角を立てずに断るための手段だったことくらい。

しかし、遼一は言ったのだから、約束は守ってもらわなくては。

(ただねー・・・まだ自分で稼いで生活するまでには至ってないからなー・・・)

親元から自立してこそ大人、と考えると、ニコはまだ子供だ。

学費も出してもらっているし、実家から通学しているので家事も母に任せている部分が多い。

でももう我慢できない。

生まれてから20年間、遼一一筋でずっと頑張ってきた。

「大人になったら」がまだならばせめて、後半の文言を変えたい。

「大人になったら付き合う」・・・と。




講義が終わり、次は空き時間であるため、ニコは綾子と葵と食堂でのんびり過ごすことにする。

お昼時にはそれこそ満席になるくらいまで混むが、それ以外ではそれほどではない。

学生に開放されたスペースで持っていた飲み物を飲みながら、3人はいつものように授業の話やら大学の近くにできた店の話やら、今度遊びに行く場所の検討やらをする。

「そうそう、今日は2人に渡すものがあったんだー」

綾子がカバンをごそごそやって取り出してきたのは、封筒だった。

「こっちがニコで、こっちが葵ね」

「なんで大きさに差があるの?」

「見ればわかると思うー」

ふふ、と笑った綾子を可愛いなあと思いながら、ニコが封筒を開けると、つるっとした厚手の紙が出てきた。

「あ、写真!」

「そう。現像に時間かかっちゃってごめんね?でもそのかわり、かなり綺麗にできてるはずだから!」

「ああ、だから私のは小さいサイズだったわけね」

葵が納得しながら、自分の封筒を開けている。

葵の物はいわゆるL判というよくある写真サイズだ。

そしてニコはA4判。

「ね、ニコ。これ使って、例の作戦行っちゃおうか!」

「ご教授お願いします!」

どこかいたずらっぽくウインクする綾子はやっぱり可愛いなあと思いながら、そのありがたい教えを逃さないようにとメモ帳とペンで書き始めたニコを見て、葵はいつもの光景に小さくため息をつきながらも、どこか楽しそうに見ているのだった。

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