賽銭どろぼう
小学生の間でカードゲームが流行っていた。
仲間たちはカードを売っている街のおもちゃ屋にたむろし、カードゲームに興じている。
ユウキもその一人で、毎月の小遣いを1袋5枚入りの150円で売られているカードにつぎ込んでいた。
当然、お金は底をつく、しかしまだまだカードを手に入れたい。
カードゲームで強くなるにはカードをたくさん集める必要があったからだ。
そんな中、ユウキの友人の一人であるタケシがこういう話を持ち込んできた。
「寺に行ってカネをパクってこねえか」
タケシとはいままで「悪い遊び」をしてきた友人であった。
学校の敷地内での秘密基地づくりはまだ良かったが万引きなども共にやってきた関係である。
文字通り火遊びもやった。カードゲームも。
そんなタケシの妙案にユウキは嬉々として承諾する。
お金が欲しい、ユウキの頭の中にはそれだけしかなかった。
決行は人目につかない、日が沈んでからの時間であった。
まず、決行を内緒にしている仲間たちが解散したあと、たむろしているおもちゃ屋から最寄りの寺に向かう、移動手段は自転車である。
寺に着くと自転車を寺の入り口に止め、住職がいないか様子を見る。
「坊さんはいねえな、今のうちだ」とタケシは言うと足取りも軽やかに賽銭箱へと近づく。
経験があるのか、タケシは賽銭箱の横に取り出し口があるのを知っていたようで、
もう取り出し口の金具の部分を握っていた。
ユウキがタケシの元へいくとタケシは金具を引っ張った。
賽銭箱の底があらわになり、やはりお金が入っていた。
タケシはさっそくお金を盗り、「山分けだ」と言って半分くらいユウキに残していた。
ユウキもすぐにお金を盗り、満足した面持ちであった。
しかし油断はできない、住職にいつ気づかれるかわからなかったからだ。
二人はすぐに自転車で逃げようと、足音を消しながら自転車の元へ行く。
ユウキは焦らずに自転車の向きを出口方向に向けたが、なんとタケシは寺に来た時すでに、
逃げやすいように自転車の向きを逃走方向に向けていたのだ。
以前も思っていたが、タケシは勉強はできないが悪知恵は働く奴だと改めて思った。
お互い500円程度のお金を手に入れたユウキはタケシとおもちゃ屋の前で別れ帰途についた。
また決行の日がきた、前に行った寺は賽銭を盗ったばかりなのでお金が貯まってないと思い、
今度はおもちゃ屋より少し遠い寺に行った。
広く荘厳な寺という雰囲気である、前の狭い寺とは一目瞭然であった。
自転車を寺の出口方向に向け、逃げる時の為の準備は整った。
前の寺にはなかった防犯用ライトが光る中、タケシは臆せず堂々と賽銭箱へと進む。
ユウキが焦る中、タケシはすぐに金具を引っ張り「札がある」
とタケシが言うとユウキが見たお金の中には1000円札二枚と500円玉と5円玉などの小銭があった。
取る時間もかかる上に取るにたらない小銭は捨ておくとして、ユウキは2500円をどう分け合うか考えた。
しかしタケシがどさくさに紛れて1000円札と500円玉を取ったのでユウキは仕方なく1000円札のみを取った。
タケシは場慣れしていて、ユウキは助かってるからと思い納得した。
その時寺の廊下から人影が見えた。住職と思われる人…いや住職であろう。
「だれだ」二人は住職の声に驚きすぐさま自転車の元へ足音を立て逃げる。
あらかじめ自転車の向きを変え準備しておいたので、ユウキもすぐに安全な場所まで逃げることができた。
ユウキが「今日はカネが多かったね」というと「またこよう」とタケシは言いその場で別れ帰途についた。
次の決行の日、盗ったお金でカードを買いカードゲームに興じていた。
カードゲームで強くなったのを実感したユウキは嬉しさはあれど、お金を盗った罪悪感など感じなかった。
決行を内緒にしている仲間が解散したあと、タケシともう一度荘厳な寺に行った。
しかし今度は以前の賽銭どろぼうを警戒したのだろう、賽銭箱の金具に鍵がかかっていた。
「また大金が入ると思ったのに」ユウキは残念がっていた。
一方タケシは「また向こうの寺いくか」と最初の寺の方向へ自転車をこぎ出した。
二人は警戒されていないこの狭い寺に着くとタケシはさっそく賽銭箱へ向かう。
金具を引っぱると、なんと中には1000円札二枚と5000円札があった。
「1000円札二枚あったぞ」とタケシがユウキに伝え、分け与えた。
手癖の悪いタケシは5000円札を懐に隠す。これをユウキは知る由もなかった。
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