第八話 打倒家康へ
「いったん、話をまとめましょう。石田殿を裏切ったのは誰でしたかな?」
「小早川と吉川、それに赤座、小川、朽木、脇坂でござる」
最後の四人は名字があってるかどうかさえ、覚えていないが……確かに裏切ったはずだ。
「ふむ……金吾殿と吉川殿以外のの四将は金吾殿に呼応して、裏切っただけでしたな?」
「ああ、確か……」
「では、金吾殿を石田殿の味方にすれば、必ずや、彼らも味方になるでしょう。つまり、金吾殿と吉川殿をいかにして参戦させるかによって、勝敗が決まるわけです」
「まったくもって、その通り」
「そして……吉川殿は毛利家の存続を第一に考えて、内府方に内通していたわけです。ですが結局、内府めはその約束を守らず、毛利家を取り潰そうとした。なんとか、それは防いだそうでしたが、結局、吉川殿のやったことは無駄だったということ。これを材料に説得するのがよいかと」
「なるほど……」
確かによく考えればその通りだ。吉川広家のやったことは結局、毛利家を改易の危機に追い込み、減封させてしまっただけである。あの時、西軍に加勢していらば、毛利家はさらに栄えていたことだろう。事実、毛利家当主の輝元が西軍の名目上の総大将だったわけだから、なおさらだ。
「金吾殿は……朝鮮出兵で武功を立てたものの、失礼ながら、優柔不断で暗愚な方です。内府の威嚇射撃に脅えて、裏切ったという話もなかなか信じがたいものですが、嘘とも言い切れません、強気で脅すべきですな。今の石田殿なら、未来のことを材料に使って思い切って、話すのもよいかと」
「なるほど、なるほど……『金吾殿……もし、我らを裏切るものなら、後世まで大悪人の卑怯者として、語り継がれることになるでしょうな……』などというふうにですかな?」
「そう! そうです。それなら、金吾殿の考えも変わるやもしれませぬ。ですが……結局、戦況しだいであることには相違ありませぬな」
結局のところ、吉川と小早川の両軍が動くまでの戦況が、勝敗を左右するということだ。うーん。兼続はさらに話を続ける。
「石田殿も考えているでしょうが、未来に伝わっているような状況で開戦しても、はっきりいって、勝ち目は薄いでしょう。本戦に参加させる軍勢を増やす必要がありますな。他に石田殿の方についた者、誰か思い出せませぬか?」
兼続に訊かれるたが、俺はそこまで関ヶ原のことについては知っていない。困ったな……あ! だけど一人だけ思い出した!
「立花宗茂殿が……確か。なぜかは思い出せないが、本戦に間に合わなかったようで」
「おお、あの西国無双といわれる立花殿がお味方に! 内府めは勝てぬ戦は起こさぬ男。関ヶ原でも、吉川、小早川の裏切りを確信したからこそ、戦いを始めたのでしょう。おそらく、石田殿に味方する軍の数が増えたとしても、関ヶ原で先端を切るはず。ならば……その隙をついて、内府の首を討ちとれるでしょう」
兼続の話は筋が通ってるし、正しい。俺の想像していた頭脳明晰な兼続像と完璧に合致している。俺は、そこまで話をすると、謀議を打ち切った。「ござる」とか武家言葉で話すのも疲れたし、早く帰らないと日が暮れて、危険になる。
俺たちが屋敷を出るとき、兼続はわざわざ門まで迎えに来てくれた。
「石田殿! 絶対に内府めを倒しましょうぞ!」
もう一度念を押される。当たり前だ、死ぬのは嫌だし、この手で歴史を変えてみたい。そう思うからだ。