第二話 憑依?
それからしばらく大騒ぎになり、ようやく分かった。俺はどうやら、石田三成らしい。しかも生まれたての赤ん坊ではなく、成人の。
この状況って、どういう単語で言い表せればいいんだろう? 俺はテンプレの如く、トラック事故で死んだわけでもない、だから転生・転移という言葉は違うだろう。ここは、間違ってもファンタジー世界じゃないから魔王を倒すために召喚された勇者ってわけでもないから、召喚でもない。一番的確な表現は……憑依だろう。
最初は悪ふざけと思われたようだが、俺は三成ではなく、大学一年生の島清太郎なんだから嘘じゃない。そして、家臣や家族一同、会議の末……記憶喪失扱いになった。奥さんの皎月院さんには、「本当に何も覚えていらっしゃらないんですか?」なんて、涙ぐまれて言われたが……仕方がない、本当に何も覚えていないというか分からないんだから。
今は、慶長4年3月12日らしい。慶長と最初言われて、は? と最初なった。俺は歴史はそれなりに好きだが、さすがに戦国時代の元号まではわからない。誰か西暦で教えてくれというと、今度は家臣一同には? という表情をされた。だが、西洋事情に通じている一人の家臣から教えてもらった。どうやら……1599年らしい。
坊主頭のおじいさん風の父親の石田正継さんによると、敵対する、加藤清正・福島正則・黒田長政・池田輝政・細川忠興・加藤嘉明・浅野幸長の七将に襲撃され、殺されかかったが徳川家康に仲裁してもらい、奉行を退いてこの佐和山城に引退したらしい。この城に着いたのはおとといのことだとか。
しかし……冷静に考えると1599年というと、関ヶ原の合戦の一年前じゃないか!? 史実通りに事が進んでしまったら……小早川秀秋の裏切りで決戦で敗北、死亡エンドだ。それは絶対に困る。首を斬られるなんて絶対痛いし、死にたくはない。
記憶喪失ということになっているので、小姓に城内を案内してもらった。城主が城内のこともさっぱり分からないなんて笑えないからだろう。城の中なんて見たことがないから、とても新鮮だった。確か……この城は、関ヶ原で西軍が負けた後、東軍に攻撃されて落城したはず。そのときにさっき説明された正継さんも一緒に……それは心が痛い。なんとしてでも、勝利せねば!
といっても、どうすればいいのかは分からない。関ヶ原の戦いを舞台にしたシミュレーションゲームをやったことだある。戦前の根回しから実際の戦場の指揮までを扱ったゲームだ。そのゲームでは……俺はたいがい負けていた。初めて勝ったときは、とても嬉しかった記憶がある。
一通り、城を見て回ると目覚めた部屋へと帰された。どうやら、話を聞いた島左近が駆けつけてきたらしい。左近といえば、勇猛な忠臣で有名。どんな人物なんだろう。
襖を開けて、中に入る。
「殿、いったいどうしたので!?」
そこに座って心配そうな顔をしていたの武将は、猛将という単語がピッタリあう人間だった。