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第十六話 伏見城攻略戦(上)

 今日は、7月18日、俺は伏見城を包囲する軍の中にいた。そしてなぜ、伏見城を包囲しているか? それは、家康の譜代の重臣、鳥居元忠が引き渡しの勧告を無視して、籠城しているからである。


 家康と対峙する以上、畿内にある伏見城を放置しておくわけにもいかない。だが、無駄な血は流したくない。そう考えた俺は、総大将の毛利輝元に開城を命令してもらった。


 伏見城の留守を任されていた武将の一人、木下勝俊は命令に従い、早々に城から退去した。だが、元忠は頑として退去を拒否した。なので今、こういう状態なのである。


 伏見城守備部隊の兵は二千にも満たない。それに対し、こちらの攻囲軍は四万にも達する大軍。どう考えても圧倒的である。、鳥居元忠は奮戦したという話は聞いたことがあった。だが……どう考えても、この戦力差じゃ、すぐに落城するだろう。


 落城するまでに俺はやるべきことがあった。小早川秀秋、金吾中納言に会うことである。本戦までに秀秋と話をしないままだと……もう一度、歴史を繰り返すことになるかもしれない。


 結局、丸一日、城を囲んで猛攻を仕掛けたが、落ちなかった。本当に奮戦している。敵ながら素晴らしい。


 戦いも夕暮れになって、いったん、城攻めも中断したころ、俺は、秀秋の陣へ向かった。


 もし、俺がこの伏見城攻略戦の大将だったら、軍議などを開かなければいけなかったかもしれない。だが、この戦いの大将は、備前の宇喜多秀家さんに任せている。関ヶ原でも西軍としては最大兵力で、奮戦していたはず。力強い。


 陣の前に立っていた歩哨に三成だと伝え、中に入る。


「お、おお。石田殿ではないか」


 篝火(かがりび)に照らされ、秀秋の顔が見える。以前、肖像画をみたが、どう考えても誇張し過ぎだろ、と思っていた。


 だが、実際に本人を見ると、色白、軟弱そうな目、垂れた眉……公卿のような顔つきである。肖像画そのままといっても過言ではない。


「して……今日はどのような?」

「ああ、金吾殿……お主、この石田治部の味方でござるな?」

「と、当然のこと。であるから、この伏見城攻めに参加しているのではないか」


 そう、秀秋は答えたが、どことなく落ち着きがないように思える。


「なら、よいのですが……金吾殿が、内府に内通しているという噂を誰かが流しておるようでしてな……」

「な……」

「まあ、今は亡き、太閤様の一門。そんな噂などありえぬと否定しましたが……賢明な金吾殿なら分かることでしょうが……家康は豊臣家に忠義の心など持ち合わせていないことは明らか。しかも万一、裏切るようなことがあれば……400年後まで、卑怯者として名を残すことになるでしょうな……」

「そ、そうでしょうな。裏切るなんて……とんでもない……」


 秀秋の顔を見る。必死に平静を装おうとしていたが、狼狽の色がうかがえた。だが、話はここで終わりではない。一度、脅迫した後、今度は恩賞をちらつかせるのだ。


「金吾殿」

「な、なんですかな。石田殿」

「我らの勝利の暁には、豊臣家一門の代表として、活躍してもらいたいと思っております。加増、恩賞も思うがまま。どうぞ楽しみにしていてくだされ」

「さ、左様か」


 俺はここまで言うと、秀秋の陣から出た。これで、秀秋がどう動くか? 伏見城もまだ落ちない。戦いはまだまだこれからだ。


 

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