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第十五話 挙兵

 それから、吉継は三度、俺を説得しに、佐和山城にやってきた。だが、俺は断固として引かなかった。俺は未来の知識を持っている、そして、それを使うのは今が好機だと。


 結局、吉継は四回目に城に来たとき、加勢を承知してくれた。そこまでいうなら、と。


 その次の日城内には、吉継のほか、毛利家臣の安国寺恵瓊、五奉行の一人、増田長盛が集まった。挙兵の詳細な計画を練るためである。


 その結果、総大将を毛利輝元にすること、俺の兄、つまり三成の兄の正澄を近江に派遣して、会津征伐に向かう軍を引き留め、こちら側に加勢させることが決定した。


 大坂城下にいる家康側の武将の家族を人質に取るべきだ、という意見も出た。俺も最初、それに賛同しかけた。だが、冷静に考えてみると、それはまずいことに気が付いた。確か、三成は人質作戦に失敗、細川ガラシャには自害されていたはず……そんなことになったら、反感を強めるだけだろう。そう考えた俺は、人質作戦の案を却下した。


 話がだいたいまとまると、安国寺恵瓊が切り出した。


「これで、挙兵の計画はよいとのことで。では、これを殿に伝えまして……」

「お待ちくだされ、安国寺殿。そちらのご家中には吉川という方がいますな?」

「はい、吉川民部という者が。小早川と並ぶ毛利の柱ともいえる人物ですが……」

「では、その吉川殿にこう、伝えてくだされ。『貴殿が内府に内通しようとしているのは分かっている。毛利家のことを考えてのことだと重々承知しているが、そのようなことを内府が守ると信じておるのか? 天下の簒奪を狙う内府にとって、毛利家は目の上のこぶ。必ずや、難癖をつけて改易しようとするだろう』とな」

「な!?」


 恵瓊は驚いている。当然だろう、まだ増田・安国寺の両名には俺が、この時代からすれば未来人だということを伝えていなかったのだから。


「安国寺殿、驚くのは無理もないことだが、ここにいる三成は一年と少し前から、心が異なっておるのです……」


 吉継がかわりに説明してくれた。増田・安国寺の結局どちらも驚きっぱなしであった。


 その四日後、西軍総大将になることを承諾してくれた輝元と共に俺は大坂城に入った。力強いことに有名な小西行長・宇喜多秀家の両大名も史実通り、加担してくれることになった。


 そして、その翌日の旧暦7月17日……俺は、長束正家・増田長盛・前田玄以ら、こちら側に加担する人たちと一緒に家康を弾劾し、挙兵を宣言する文書を出した。


 ついについに、関ヶ原へとむけた前哨戦が始まったのである。

 

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