第十二話 平和な生活
明くる日俺は結局、家臣たちの屋敷を回ることにした。しかたがない、まだまだ時間があるし、読書は諦め、奥さんとは家庭内別居状態。こんな時には、家臣たちと触れ合って、絆を深めるのが重要……なはず。
まずは、左近の屋敷からだ。これは小姓に教えてもらったことなのだが、家臣たちの屋敷は、もらっている給料が多い順から城の近くに配置しているらしい。つまり、重臣ほど城の近くに住んでいるということ。
「おお、殿。我が息子の友勝は役に立てましたかな?」
「護衛にしては十分すぎるほど役に立ってくれたよ」
屋敷に入ると左近が出迎えに来てくれて、声を掛けてきた。とりあえず屋敷の中に案内されて、座る。
「ところで、左近って……子供何人いるの?」
「五人でござる。そして殿のもとに派遣した友勝は嫡男でござる」
五人か……現代人の立場で考えると多いほうだよな。
「ときに、直江殿との話はどうでしたかな?」
「あ、ああ。直江殿と以前の俺というか三成が練っていた計画はな……上杉殿と直江殿が会津に戻ったあと、反乱の準備ととれることをする。そうするとおそらく、家康は申し開きを求めてくる。それを挑発的な言葉、あるいは書面ではねつける。すると、家康は討伐のための軍をおこす。その隙に我らが諸侯に檄文を飛ばして挙兵する。というものだ」
「なるほど……いい考えで」
左近も賛同しているようだ。その後は他愛もない話をして、屋敷を出た。夕暮れまで俺は屋敷をまわり続けた。
蒲生頼郷・舞野兵庫助・林半助・渡辺勘兵衛・小幡信世・高野越中・大場土佐・大山伯耆・森九兵衛・安藤直重・柏原彦右衛門・河瀬左馬助・八十島助左衛門・桑島治右衛門・磯野平三郎・河瀬織部・高野越中守・松田重太夫・山田上野介・山田隼人正・大橋掃部・杉江勘兵衛・平塚久賀・蒲生大膳・土田桃雲斎・樫原彦右衛門・水野庄二郎・荻野鹿之助・塩野清助・渡辺甚平……これだけの家臣の家をまわるのは疲れた。だが意味は絶対ある。
それ以上に意味があったことは、掃部のところの娘を侍女にできたことだ。思い切って、掃部にお願いしてみたら、すんなり了承してくれた。といっても、無理やりどうにかするつもりはない。俺はそこまで鬼畜な人間ではないよ。
こんな感じの平和な生活を俺はしばらく享受していた。だが、それは永遠ではなかった。家康は動き始めたのである。
次話から関ヶ原への動きが加速します。