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魔法学生の非日常茶飯事  作者: 岩原和鳴
一年生・一学期編
9/110

賢者の石

「う~ん、ないなぁ~」


一度手に取った本をもとにあった場所に戻す。

もう何度この作業をしているだろうか。

かれこれ四時間はここにいるが一向に目的は進行しない。


なんだかんだでもうこの学校に入学して一ヶ月が経った。

今日は一週間に一度の休日ということで、朝からこの学校の図書館にいる。

しかし、世界トップレベルの国立高校というだけのことはありその蔵書量も半端ではない。

自分が昔、暮らしていた田舎にあった図書館の三十倍はあるだろう広さだ。


(いくらなんでも多すぎるだろ…)


今、僕が探しているのは『結界魔法』についての本だ。

昨日、マソート先生に直接聞いたらしいクエストが言っていたのだがあの『紫色の石』はどうやらこの学校の敷地内全てを守る結界の役割をしているらしい。


しかし、本当にそれだけなのか?

ただの結界の魔法石一つを何故あんなに厳重に保管しておくのだろうか。

それに、もしあの石がただの結界や魔法石だとしたら、先生達があんなに決死の表情を浮かべて守るほどの価値はないはずだ。

何よりもあの石にはおそらく人間数千人分の魔力が秘められている。

あの程度のサイズの魔法石が、あんな膨大な魔力を抑えられる訳がない。


クエストも、僕と同じ考えだろう。

一昨日、彼にあの石について他に何か知っているのではないかと聞いたが、その時彼の目が一瞬泳いでいた。

あくまで予想だが、クエストは僕たちが知らない『何か』について知っているか、考えがあるかのどちらかだろう。


「コレでもないな…どこにあるんだろ?」


「結界魔法に興味があるのかい?」


突然、僕に向けられたであろう声に驚く。

横を見ると、そこにはクラスメイトである『ツェペリ・テクノート』がいくつか本を持って立っていた。


「なんだツェペリか…驚かさないでくれよ」


「ごめんごめん、そういうつもりじゃなかったんだけどさ」


そう言いながら彼は照れくさそうに頭に巻かれた包帯をポリポリとかく。

彼はいつも頭にグルグルに包帯を巻いていると言う特徴がある。

正直、今もその異様な見た目に驚きを隠せない。


「結界魔法について調べているのかい?だったらこの本がおすすめかな!」


彼は隣の本棚に手を呼ばし、そこから一冊の本を手に取る。

その本には『結界魔法・入門編』と書かれていた。


「この本にはとても分かりやすい解説が載っていてね、初心者には最適なんだ!」


キラキラと子供のように目を輝かせながら本を頭上に掲げる。

そういえば、入学初日の試験でツェペリが結界魔法を使っていたことを思い出す。

あれは今までで見たことがないほど高度で正確な結界魔法だった。


よほど自分の魔法が好きなのだろう。

いつのまにか僕の前には大量の結界魔法の魔導書が積まれていた。


「これだけ読めば君でもかなりの結界魔法が使えるようになるよ、じゃあ頑張ってね!」


ツェペリは僕にとても爽やかな笑顔をむけて、図書館の出口のほうへと歩いていく。

だが生憎、僕が知りたいのは結界魔法ではなくあの『紫色の石』なのだ。

ツェペリには悪いが、僕は目の前に積まれた大量の本を一冊一冊、本棚になおしていく。

すると、ふとある質問が頭をよぎった。


「ツェペリ!ちょっと待って!」


ここが図書館であることを忘れて僕はつい大声を出してしまう。

すると唇に人差し指をあてるジェスチャーをしながらツェペリがこちらへと戻ってきた。


「ダメだよロン、図書館で大声は厳禁じゃないか…」


「ごめんごめん、ちょっと聞きたいことがあってさ」


そう言うと彼は嬉しそうに「何?何?」と聞いてくる。

そこまで期待されると逆に聞きづらいのだが…


「結界魔法ってさ、他の魔法より暴発しにくいの?」


「え?どういうこと?」


「例えば…結界魔法の魔法石は他の属性の魔法石よりも大量の魔力が溜められる、とかさ」


僕の質問を聞いたツェペリが顎に手を当て考える。

しばらくその素振りをしていたが、やがてゆっくりと首を横に振った。


「確かに結界魔法は他の魔法と比べて特殊な属性だけど、基本的な魔法の制約はかわらないよ」


「う~ん、やっぱりそうか…」


やはり、いかに結界魔法といえど基本的には普通の魔法とかわりないようだ。

ならば、あの『紫色の石』は一体どうやってあれほどの魔力を…


「ていうか、なんでそんなことボクに聞くの?」


「いや、なんとなく気になっただけで…」


先生達から他言無用と言われている以上、口をもらすわけにはいかない。

もしも、うっかり余計なことを言ってまた一週間校舎掃除なんて命じられたら…考えただけで寒気がする。


「あ、でも『賢者の石』なら…」


「…賢者の石?」


ツェペリの口から不可解なワードがでる。

確か『賢者の石』というのは僕たち錬金術士のなかで知らないものはいない伝説の魔法道具のことだ。


「賢者の石って…確か錬金術の魔法道具じゃなかったっけ?」


「いや、正確には賢者の石は錬金術だけじゃなく色んな魔法の効力や威力を増強させる力があるんだよ」


「例えば治癒魔法とか結界魔法とか色々ね」とツェペリはいい加える。

確かに、あの紫色の石が賢者の石だとしたら…


「でも、あれはあくまで空想上の物質だからね、賢者の石の見た目を記した写真や絵なんて存在しないし」


ツェペリが賢者の石について情報を加える。

彼の言う通り、賢者の石は一般的には空想上の物質であると言われている。

賢者の石を記した絵や写真も存在せず、記述のみでしか語られていないのだ。


「そうだね…相談にのってくれてありがとうツェペリ」


「どういたしまして、ていうかロンは結局賢者の石について聞きたかったの?」


「結界魔法にじゃないのか…」そう言ってツェペリは少し落ち込む素振りを見せる。

本当は紫色の石について調べていたのだが、そのことは言えないためとりあえずこの場は賢者の石について聞きたかったということにしておこう。


「ごめんね、錬金術士としてはやっぱり賢者の石について知りたくてさ」


「まあ分からなくもないけどね、傷が一瞬で癒えたり、だれでも簡単に大規模な錬金術が使えるようになるなんて夢のような話だし」


「まあ、ボクは紫色はあんまり好きじゃないけどね」とツェペリがつけ加える。

確かにそれほどのものならば誰でも欲しいと思うだろう。

僕も中学生の時に、賢者の石について調べたことがあった。

まあ、結局その時は賢者の石があったと仮定した場合、錬金術に及ぼす影響くらいしか分からなかったが。


「じゃあねロン、もし結界魔法に興味がわいたらいつでもボクに相談してくれよ!」


ツェペリはそう言って早足に数冊の本を抱えて図書館を出ていった。

もう少し、『賢者の石』について調べるか。

そう思い、僕はまた別の本を手に取った。


ツェペリの魔法:超強硬防壁(プロテクトガード)

ツェペリが自ら編み出した結界属性の魔法。

自分を中心とした半径100メートル内ではどこにでも瞬時に超強硬な防壁を発生させることができる。

発生させた防壁を瞬時に破壊し、その破片で敵を攻撃できるなど応用性も高い。

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