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魔法学生の非日常茶飯事  作者: 岩原和鳴
一年生・一学期編
7/110

清掃作業・最終日について

「おーいジャッジ、そこの雑巾とってくれない?」


離れた方でさっきまで箒をはいていたロンが今から拭き掃除にかかるらしく、俺に雑巾を求めてきた。

とりあえず、隣に余っていた雑巾を一枚、ひょいとロンに投げ渡し、あいつもそれを難なくキャッチする。


今日で清掃作業の罰の期限の最終日である。今日までのこの一週間はまるで今流行の「ブラック」といえるであろう労働に限りなく等しく思えた。


(ていうか、この学校広すぎるんだよな…)


あの時、先生から命じられたのは文字通り「学校全体」だったため日に分けて掃除をしなくてはいけないはめになってしまい、特に今掃除している四階が最も部屋数が多くこの階だけに三日間も費やしている。

他にも、他学年の教室の掃除まで任されたので、この一週間俺たち三人は慢性的な睡眠不足で今までなんとか受けられてきた授業もままならず、得意な魔法の授業にも身が入らない毎日だ。


そんなことを考えながら目の前に並んだ学校の備品を一つ一つ布巾でふいていると、突如ロンの「あれ?」という声が聞こえてきたので、一度作業を中断しロンの方にい向かう。

そこでは、ロンが片手に先程俺が渡した雑巾を持って、大きな扉のようなものの前に立っていた。


「なんだこの扉…なあロンこれってなんの部屋の扉なんだ?」


「いや、僕も知らない。もともとこの扉の前にはそこにある石像がおいてあったんだけど…」


そう言ってロンが指差した先には、ちょうど扉をギリギリ隠せるぐらいの大きさの像が威圧感を放って建っていた。


「おかしいな…先生にもらった校内地図にはこの先には何もないはずだけど…」


ロンは顔をしかめながら扉を力強く押す。しかしよほどの重量があるのか扉はピクともしない。

俺も気になったので、ロンに加勢するように横で力をいれて扉を押すも一向に開く様子がなかった。


「全く開く気配がねえな、、これ本当に扉なのか?」


横で少し息が上がっているロンに訪ねると少し肩を上下させながら「そうだと思うんだけど、、、」答える。

しかし、こうも開く気配がないと扉ではないと思えてしまう、見た目は完全に扉なのだが、、、


「おい、なにサボってんだよ二人とも」


そこに、箒を片手に持ったクエストが自分の持ち場が終わったのか呆れ顔をしながらこちらに来る。

すると、どうやらクエストもこの大きな扉に気づいたのか、「うおっ」と驚いて思わず箒を手放してしまった。


「なんだこれ…まさかまだ部屋あんのかよ?」


そう言ってクエストが扉に手を当てようとする。しかしロンがそれを遮るように口を開いた。


「無駄だよクエスト。どうやらこの扉開かないようになっているようなんだ」


「はあ?もしかしたらオレなら開くかもしれねえだろ」


そのままクエストが扉に両手を当てる。

無駄だ。いくらクエストの身体能力が高くても俺たち二人で開かなかったこの扉が開くわけが……




パシュン!!





ギイイイィィ…






あ、普通に開いた。




「なんだよ普通に開くじゃねえか。何やってたんだよ二人とも」


いともたやすく扉を開けたクエストは「あーあやっぱりまだ掃除する場所あんじゃねえか…」などとぼやきながら先程落とした箒を拾い上げ、なんの躊躇もなく扉の先にあった階段を下っていく。

それを見ていた俺たちは扉の先にあった階段を下っていくクエストをただただ呆然と見ていることしかできなかった。






  * * * * *







扉の先にあった階段の手すりやほこりなどを掃除しながらトコトコと下っていく。

この階段は意外と長く、ここを掃除するにもさらに時間が掛かりそうだった。


「長いな…やっぱり開けなきゃよかったなあの扉」


「いや普通開かねえだろあんなでけえ扉…どれだけお前力あんだよ…」


ぼやくクエストに返事を返すと、彼は「いや、普通に押しただけだけどなあ…」と言いめんどくさそうにほこりだらけの手すりをぞうきんでふいていく。

すると少し下のほうで箒をはいていたロンの「あ、ついた」という声が聞こえて来た。そうこうしているうちに階段を降りきってしまったらしい。


そこには、先程の大きな扉と同じ様な模様が描かれている普通の大きさの扉があった。

ロンが箒を一旦地面におき、扉に手をかける。しかしさっきと同じようにこの扉もまったく開かないようだ。


「うーん、ダメだ…さっきの扉よりもずっと小さいのに何で…?」


「何やってんだよ、別にこの扉もどうせ普通に開くだろ。」


そう言ってまたクエストが扉を片手で押す。

するとまた、パシュン!!と何かが弾けたような音がなったあと、何事もなかったように扉がギイッ…という音をたててゆっくりと開いた。


「ほら開いたじゃねえか。ていうかなんださっきのパシュンって音は?」


クエストが雑巾をもって扉の中の部屋に入ろうとする。

すると、急にロンが「待って!!」と部屋に入ろうとしているクエストを呼び止めた。


「何だよロン。そんなに焦って」


「やっぱりおかしいよ。何で僕たち二人でも開かなかった扉がクエスト一人で簡単に開くのさ?」


「そりゃオレの方が力が強いから…」


「いや違う。よく思い出してみてよ。扉を開けるときに必ず鳴った『パシュン』っていう音はどのタイミングで鳴ってた?」


そう言われ、少し考えたようなクエストがハッと何かに気づいたように顔を上げる。

俺もよく思い出してみるが何も分からない。あの音はただ『クエストが扉に触れたときに鳴った音』でそれの一体、何がそんなに重要なんだ…?








待てよ、『クエストが扉に触れた時』?








「まさか、あの扉が開かなかったのって…!」


「そうだよジャッジ、あの扉にはおそらく絶対開かないようにするための魔法がかかってたんだ!」


確かにそう考えればなぜ俺たちには開かなかったのに、クエストに開けられたのか説明がつく。

クエストは触れただけで自分の意思に関係なく魔法をうち消す。

クエストが扉に触れた時、扉にかかっていた開かないようにするための魔法がうち消されたと考えるのが妥当だろう。

あれ?もし本当にそうだとしたら…


「なあ、ロン。じゃあここって本当は…」


「うん、たぶんここは、、、」


その事に気づいた俺たちはサッと顔を青ざめる。

わざわざ扉に魔法を使ってまで鍵をかける理由、それは……


「たぶんここは…『絶対に入っちゃいけない場所』だ」


俺たちの中でもダントツに頭の回転が早いロンがそう言いきったということは、おそらく本当にここは…


「やっべえ!!どうすんだよオイ!!オレらもうがっつり入っちまったぞ!!」


「最悪だ…通りで地図に扉の先がかかれてないわけだ…」


クエストとロンが絶望の表情を浮かべる。

仕方ない、もうここまで来たんなら…


「なあ、二人とも。いっそこの扉の先入らねえ?」


そう言って俺は目の前の開きかけの扉を指差す。

「なに言ってるんだよ」とロンが反論してきたがそれを遮るようにクエストが口を開いた。


「確かに…もうここまで入っちまったんなら…」


振り返って扉を数秒間見つめたクエストが再び扉に手をかける。

すると、ロンが慌てた様子でクエストに制止の声をかけようとするも、あいつも同じ結論にいたったのか途中で制止の声もひっこんでいった。


「まあ確かにここまで来ちゃったしね…もうどうせならこの先も行こうか」


「ああ、どうせ怒られるなら見た方がいいだろ」


「じゃ、開けるぜ」


扉がギイィと音をたてて開く。

その先はひんやりとした冷たい空気が充満していた。


「なんだここ…寒いな」


クエストが肩を震わせながら部屋の奥に進んでいく。

すると何かを見つけたのかクエストの「うおっ!?」という声が聞こえてきた。

気になったので俺とロンがクエストの方に向かう。するとそこには紫色の光を放つ手のひらサイズの石が宙に浮きながらくるくると回転していた。


「なんだこれ…魔法石の一種か?」


「いや、それにしてはひめられた魔力が大きすぎる…なんだこれ、まるで人間数百人分…いや、数千人分の魔力はあるぞ…」


目を丸くしながらロンがその魔法石を手に取ろうと腕を伸ばす。その時…




「おいそこのお前ら!!何をしている!!」


後ろを振り向いた瞬間、無数の様々な属性の魔法が飛んでくる。

すかさず、クエストが俺たちの前にたち、魔法をすべてかき消した。


「な…魔法が消滅した!?」


部屋に入ってきた人物たちがクエストの魔法に驚きを隠せないようだ。

俺も剣に手をかけ、ロンも床に手をつき、臨戦態勢に入る。

すると向こうが再び魔法を放つ準備をする。

そうはさせまいと俺たちが先に攻撃を仕掛けようとした瞬間、俺たちと向こうのやつらとの間を中心にとてつもない風が突如発生した。


「うおっ…危ねえ!!」


クエストがすかさずその突風に触れ瞬時にかき消す。

すると、いつのまにか、そこにはマソート先生が立っていた。


「マ、マソート先生!?なんでここに…」


「それはこちらの台詞だ。どうやって…といいたいところだがよく考えればクエストならばここまで来ることが可能だな」


「どうせ間違って入ってしまったんだろう」とやや呆れた表情を浮かべた先生がため息をつく。

そしてそのまま最初に俺たちを攻撃してきたやつらの方に振り向いた。


「申し訳ありません『先生方』こいつらは俺のクラスの生徒達で誤ってはいっただけのようです」


マソート先生からでた『先生方』という言葉に驚く。

つまり、俺たちを攻撃してきたおの人たちはどうやらこの学校の先生たちらしい。

おそらくクエストが扉の魔法を解除してしまったことに気づき俺たちの事を侵入者とでも勘違いして来たのだろう。


「なに言ってるんですかマソート先生、いくらA組の生徒といってもあの扉にかかっていた魔法を簡単に解除なんて、出来るわけが…」


俺たちを疑っている様な眼鏡をかけた初老の先生が杖をつきながら言う。するとマソート先生がその先生に何かを耳元でささやく。すると初老の先生は目を見開き俺たち、いや正確にはクエストのほうを見た。


「な…そうか…この生徒が…!!」


他の先生もそれぞれクエストの方も見る。

何を言われたのかは分からないがどうやら全員納得したようだ。

マソート先生がこちらに近づいてくる。どうやら、表情を見るに怒ってはいないようだ。


「今回はこの事は不問にしといてやる。だがここでみた事は絶対に他言無用。そして二度とこの部屋には入るんじゃない」


「わかったな」と言うと先生たちはぞろぞろと来た道を戻っていく。

一体あの莫大な魔力を秘めた紫色の石はなんだったのだろうか。

俺たちは疑問に思いながらも怒られずにすんだことにただただ安堵して先生たちのあとに続いた。




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