魔法をかき消す魔法
やや駆け足ぎみでフィールド前へと移動する。
既にオレの前には、緑色の髪と目をした女子が立っていた。
「勝負…」
先生が右腕を上げ、フィールドの魔法が発動する。
あの右腕が下がったとき、それが……
「開始っ!!」
始まりの合図!!
勢いよくフィールド内へ入る。
すると、次の瞬間…
バチンッ!!
突如、フィールドに掛かっていた結界魔法が瞬時に破られた。
「…!?何だ、何が起こった!?」
先生も何が起きたか分からない様子で、顔をしかめている。
いや、実際オレにも何が起きたか分からない。
目の前の女子…リファーダも目を白黒させている。
ということは彼女の仕業でもない。
では、一体何が…
「おいクエスト!お前がフィールドに入っちゃダメだろ!」
「何やってるんだよ、自分の魔法くらい自覚しないと…」
ジャッジとロンが離れた所からオレに声を掛けてくる。
何言ってんだ、あいつら。オレはただ、『フィールドに入った』だけ…
あ…そういうことか…
「すいません先生…多分オレの魔法です…」
恐る恐る手を上げ、先生に自己申告をした。
すると先生の非常に鋭い目がオレを睨み付ける。
「お前の仕業だと…!?」
「は、はい…!名簿を見てもらえれば分かるかと…」
やべえ、怖すぎて声が震える。
ていうかやべえよこの人。確実に何人か殺してる目だよ…!
「何だと?お前の魔法は…!?」
名簿をペラペラ捲り、オレの魔法を確認した先生は、先ほどまで殺し屋のように細めていた目を大きく見開いた。
「そういうことか…クエスト・マジカント。これは本当か?」
「まあ、一応…」
先生はいまだに信じられないといった表情をしている。
その顔をみたジャッジとロン以外の生徒たちも困惑の表情を浮かべているようだ。
「仕方ない…この勝負、戦闘用フィールドが無い状態で行う。両者、あそこまで移動し、そこで戦え」
先生はオレ達から見て右方向にある広い、グラウンドを指した。
このまま、ここにいても埒があかない。オレとリファーダはそのグラウンドまで移動することにした。
* * * * *
「それでは両者、再び前へ!」
気を取り直し、再びオレとリファーダは向かい合う。
向こうも、オレの魔法が何か警戒しているようだ。
(まあ、すぐに嫌でも分かることになるだろうけどな)
「それでは、勝負開始!!」
先生の腕が降り下ろされると同時に、オレを中心とした竜巻が発生する。
「さあいくわよ、『風翔塔壁』!」
(なるほど、風属性の魔法か)
基本的に人は一つの属性の魔法しか使えないという訳ではない。
現にジャッジは雷だけでなく炎や氷を剣に纏わせることもできる。
しかし、このスピードでこんな魔力密度の高い魔法を発生させるなんて、十中八九、彼女は風魔法の専門だろう。
「からの~『風翔連刃』!」
リファーダから無数の風の刃が飛んでくる。
避けようにも、四方八方は彼女の風の結界で避けようがない。
「ほらほら、避けないと切り刻まれちゃうよ!」
リファーダは笑みを浮かべている。
確かに、避けも、隠れも出来ないこの状況は、非常に危険に見えるだろう。
しかし残念。オレにはこの風の結界も、今まさに、オレを切り刻もうとしているこの風の刃も、オレには何の意味も成さないのだから。
もうすでに、風の刃が目の前に迫っている。
そして、その刃がオレの体を切り刻もうとオレに触れた、その瞬間…
風の刃が、全てかき消えた。
「な…!何で!?」
リファーダが驚きの余り、声を上げる。
オレはそれを意に介さず、オレ達を囲む風の結界に手を伸ばす。
「無駄よ!その魔法は鉄すら一瞬でバラバラにする!」
「関係ねえよ、『魔法』だろ?」
オレが触れたその瞬間、今まで猛威を振るっていた風の結界は瞬時に消え去った。
「な、何で…」
「さて、そろそろいいかな?」
両の脚で地面を力強く蹴り、一気にリファーダとの距離を近づける。
オレがいた場所の地面には、ヒビが入っていた。
「このっ…『風翔空閃』!!」
オレに向かって一直線に風の衝撃波を飛ばしてくる。
だが、無駄だ。オレに魔法は通じない。
衝撃波がオレに当たった瞬間に、まるで元々なかったように衝撃波が消え去った。
「何、何なの…?何なのアナタの魔法は!?」
リファーダが冷や汗を浮かべながら、後退りして叫ぶ。
しかし、オレは既に、彼女の背後に回っていた。
「こっちだよ」
オレの気配と声に気付いたのか、リファーダはサッと後ろを振りかえる。
しかし、遅い。常人の身体能力では、オレの速さにはかなわない。
もうリファーダの首には、オレの手刀が迫っていた。
オレは今、何も魔法を使っていない。
にもかかわらず、何故オレが常人を遥かに上回るスピードで動けるのか。
そして何故オレが、あらゆる魔法をかき消せるのか。
それは…
「オレが『無効魔導士』だから、かな?」
そのままオレは、何の躊躇もなく、彼女の首に手刀を落とした。
* * * * *
「無効魔導士か、、、だから私の魔法が効かなかったのね」
そりゃフィールドの結界も消えるはずだわ、と目を覚ましたリファーダが納得したように呟く。
周りの奴等もオレを目を丸くして見ている。
「無効化魔法、、それがオレの魔法だよ」
あらゆる魔法を無効にする魔法…
それがオレの無効化魔法という魔法だ。
「ていうか、無効魔導士ってあんなに身体能力高いの?てっきり身体強化の魔法かと思ったんだけど」
「まあね、それと治癒魔法が効かない代わりに、腕がふっとんでも10分位で再生する自己再生能力もあるよ」
それを聞いた生徒たちの顔が凍りつく。
ありゃ、ちょっと表現がグロかったか?
「やっぱり、クエストが勝ったかー、せっかく罰ゲーム考えてたのによー」
ジャッジがつまらなそうに頬を膨らます。
こいつ…人の不幸を願ってやがったのか。
その内、あの剣ドブに捨ててやろうか。
「だがお前が本当に世界に五人しかいない無効魔導士だったとは…名簿に書かれた所を見たときはとてもじゃないが俺も信じられなかったな」
先生が意外そうな目でオレを見る。
まあ、信じられないのも無理はない。
オレもいまだに自分以外の無効魔導士を見たことがないのだから。
「ところで先生、試験結果はどうでしたか?」
エーリが先生に問いかける。
オレ個人の主観だが、このクラスに弱い奴はやはりいなかった、
個人的には落第者がいないことを願うが…
「安心しろ。誰一人落第者はいない。むしろ予想以上だ」
その言葉の後に「特にこの三人組はな」とオレとロンとジャッジの頭を順番にポンと叩く。
やはり、オレ達は既に先生から問題視されていたようだ。
「なー先生!俺ら結構強えだろ!」
ジャッジが得意げに胸をはる。
すると先生は無言でジャッジの額にデコピンをかました。
「痛った!!なんだこれ痛ってえ!!」
「調子に乗るな。『ジャッジ・クルベス』明日からはビシバシ授業を行うからな、覚悟しておけ!」
そう言うと先生は「大人しく指定された寮に戻れよ」と言い残し、校舎へと戻っていった。
明日から、念願の授業が始まる。
そう、ここで魔法を学ぶためにオレ達はここに来たのだ。
ひとまず、体を休めるために、まずA組全員で、寮部屋の割り振りを見に行くことになった。
(さて、誰と一緒になるかな…)
結局、寮の部屋もいつもの三人組だと分かるのは、今からだいたい5分後位の話である。
リファーダの魔法:風翔魔法
風属性のなかでも上級クラスの魔法。
鉄すら容易く切り裂く程の風を起こす。
クエストの魔法:無効化魔法
あらゆる魔法を属性、魔力の高さなどに関係なく消し去る魔法。
クエストの体に触れた魔法は全て一瞬でかき消える。
なお、クエストの意思に関係なく発動するので不意討ちも効かない。
無効魔導士
無効化魔法の使い手を事で世界に五人しかいない特別な存在。
なお、無効魔導士は常人を越える身体能力、ちぎれた腕すら再生する程の自己再生能力を持つ。