金髪の錬金術師と赤髪の炎龍
「勝負あり!勝者『ウィリア・コーポレス』!」
だいたいこれでもう13回目の戦いだろうか。
ずっと戦いを見ているが、今のところ誰一人として弱いものはいない。
先ほど初めて見た魔法や戦い方もあるくらいだ。
例えば、今勝利したウィリアというお金持ちそうな男子は気付かない位の風魔法を常に放っており、最後はその風の勢いを利用した炎魔法を使うという戦法をしていた。
そろそろオレの番かもしれない。
さて、ちょっと準備体操でも…
「次は『ロン・マグナカルト』と『サラム・グルニル』!両者、フィールドの前に来い!」
はい、分かってました。分かってましたとも。ええ。
どうせオレじゃないんだろうなーと思ってましたよ。はい。
……ていうかこれってオレまた最後じゃね?もう、ほとんど残ってなくね?
「僕の番だね、じゃあ行ってくるよ」
「負けるなよロン、もし負けたら罰ゲームな!」
「大丈夫だよ…ってどうしたのクエスト?」
「イヤ別に…頑張れよ…」
「う、うん…」
早く行けロン。あと出来れば負けろ。別にお前に恨みは無いが何となく腹立つから負けろ。
オレのその思いを感じ取ったのか、ロンはフィールドに小走りで駆けていった。
* * * * *
フィールドの前に立つ。
目の前の赤い髪をした男子の表情は、どこか嬉しそうにしているようにも見える。
どこかジャッジと似た雰囲気だ。
「それでは…」
先生が合図の腕を上げる。あの腕が降りおろされた時に勝負は始まる。
負けるつもりは、毛頭ない。
それは別に罰ゲームが嫌だからという理由だけではない。ただ…
「始めっ!!」
(負けるなんて死ぬほど嫌いなんだよ、僕は。)
始まってすぐに僕は地面の土に手を触れる。
そしてそのまま手に魔力を集めて…
「『壁錬成』!」
地面からいくつもの壁をサラムの足元に発生させる。
さらに、その横からも壁を発生させ退路を塞いだ。
「この…オラァッ!!」
するとサラムは腕に炎をまとい、壁を破壊し、こちらに突っ込んできた。
どうやら彼は自分に炎を纏う魔法を使うようだ。
接近戦も、悪くない。
「『武器錬成』!」
砂の強度を瞬時に高め、剣の形に錬成する。
その剣で、ひとまず僕はサラムの攻撃を防いだ。が…
ガキイィィン!!
「なっ…!」
サラムの炎の拳を受けた僕の砂の剣は、いとも簡単に破壊されてしまった。
少し焦った僕は距離を取る。しかし、目の前には既にサラムの炎を纏った脚が迫っていた。
「『炎龍脚』!」
ドゴッッ!!
「ぐ…!」
すんでのところで防御は取れたが、思った以上のダメージが僕の体にかかる。
先ほど錬成した剣も決して脆くはなかったはずだ。なのにいとも簡単に壊された。
よって分かる事はひとつ。サラムの魔法の攻撃力はまともに受けると勝ち目はない。
(だったらやっぱり遠距離戦に持ち込む…!)
僕は自分の足元の地面に触れ、一回戦でエーリが起こしたような砂煙を発生させた。
「うおっ!砂煙!?」
その隙に僕はすかさずサラムの後ろにまわる。
そしてこの距離から…
「『棘錬成』!」
「ぐおっ!!」
無数の棘をサラムの至近距離に発生させ、ダメージを与える。
そして再び地面に手をつけた。
「『壁錬成』!」
今度は硬度が高い壁を発生させサラムを遠くに飛ばす。
やはり、遠距離ならこっちに分があるようだ。
「このっ…」
体制を建てなおしたサラムは炎を纏った脚を一蹴させ、砂煙を取っ払う。
そして、再び距離を詰めてきた。
「『炎龍拳』!」
あっという間に距離を詰められたが、顔をそらしてギリギリでかわす。
もう少し遅ければ、この時点で僕の負けになっていただろう。
すぐさま、僕はバックステップで距離をとり、今度は地面から、短い双剣を錬成し、サラムへと降り下ろす。
それを後ろによけたサラムは口を大きく膨らませた。まさか…
(ウソだろ、、!?)
「『炎龍の息吹』!!」
サラムは口から炎の息を吐き出す。
さすがにこれは予想していない、が…
「この距離なら余裕!『壁錬成』!!」
炎の息を錬成した壁で防ぎきる。
「何っ!!」
サラムが驚いている隙に、今度はその壁に手を当てて魔力を集中させる。
何もボコボコ壁や棘を飛び出させるのだけが錬金術ではない。
錬金術とは、物質を理解し、それを新たな物質へと昇華させる魔法だ。
そしてその過程で生じるのが…
(物質の『分解』…!!)
錬成した壁を今度は粉々の砂の粒に分解。そしてすかさず今度は風そのものに魔力を集中させる。
風とは熱により、大気が動くことにより生じるモノ。
つまり、錬金術で空気中の僅かな水分の温度を上げ熱を発生させれば…
「こんな風に、ね!!」
先ほど発生させた砂が風に乗り、サラムへと襲いかかる。
大したダメージにならないのは知っている。
しかし、目眩ましとしての効果は十分すぎる程に発揮されるのだ。
「ぐおっ!め、目がっ!目が痛え!!」
すぐに僕は錬金術でサラムの脚を強度を上げた土で固定する。
ほんの数秒しか動きを封じられないだろうがそれでいい。むしろそれでもう十分だ。
「し、しまった!だが、こんな罠、俺の炎で燃やし尽くせば…!」
「燃やせるだろうね、ただし…」
僕は今錬金した巨大なハンマーを力いっぱい振り上げる。
そして、目を塞ぎ、もがくサラムに目掛けて……
「『僕がこの一撃でキミを倒さなかったら』の話だけどねっ!!!」
ズガアアアアアン!!!
強烈な音が僕の耳にこだまする。
振り上げたハンマーの勢いよろしく、サラムはそのままフィールドの隅に吹っ飛んでいった。
「く…そ…」
バタン、とサラムの手が力なく地面に落ちる。
どうやら、吹っ飛んでいった衝撃で意識を失ったようだ。
つまりこれで…
「そこまで!!勝者『ロン・マグナカルト』!!」
先生による判定がくだされ、フィールドを囲んでいた障壁が一旦フッと消える。
僕も、さすがに魔力を使いすぎたのと、サラムからのダメージが残っているからか、ガクンと膝を折ってしまった。
「おいおい、大丈夫かよロン?」
「魔力の使いすぎか?今回、錬成しすぎだぞ」
僕を心配して駆け寄ってきたジャッジとクエストに肩を貸される。
「うーん、ほんのちょっとだけヤバかった、かな?」
そう言うと、二人から息ピッタリに「「嘘つけ」」と一蹴された。
全く、何でこんな時だけ息がピッタリなんだ君たちは。
そう思い、ふと前を見るとあのお金持ちそうなウィリアに肩を貸されたサラムがこちらに近付いてきた。
「やあ、ごめんね、気絶させちゃったりして」
「大丈夫だよ、頑丈さには自信があるからな、」
やはり、どこかジャッジに似た受け答えをする。
クエストも同じことを考えているのか、少しクスクス笑っているようだ。
「にしても負けるとは思って無かったぜ、だが今度は絶対俺が勝つからな!」
「はは、その時はもう少しお互いお手柔らかにいこう」
そう言い交わし僕らは肩を貸されながら、皆のところへ戻っていく。
そこではマソート先生が名簿を持って待っていた。
「次で最後の戦闘になる、『クエスト・マジカント』と『リファーダ・ジャニス』はフィールド前へ!」
遂にクエストの名前が呼ばれた。
クエストとジャッジは僕をゆっくりと地面に座らせると、ジャッジは僕の横に座り、クエストは前に歩き出した。
「なあ、ロン、どっちが勝つとおもう?」
ジャッジが質問を投げ掛けてきた。しかしこの質問は僕に、いや僕らにとって意味を成さない。
その事はジャッジも分かっている。
「どうせ、わかってるんだろう?ジャッジ」
「まあな、何となくきいてみたくてさ」
そう、僕らは確信している。
例えあのリファーダという女子がとてつもない魔導士だろうと、もしくはとてつもない武鬪家だろうと。
もうすでに、勝者は決まっている。
何故なら……
「勝負開始!!!」
クエストに魔法なんて、『関係ない』のだから。
ロンの魔法:錬金術
錬成したい物質に手を当て、そこに魔力を集中させて物質の形や質を自分の思い通りに変化させる魔法。
サラムの魔法:炎龍魔法
その名の通り、自身の体を炎龍の体質に変化させる魔法。
実は古代魔法の一つ。