炎熱を纏う絶対強者
龍化者とはなんなのか。龍化者が確認され、龍殺し発足当時から謎だった問題だ。それに答えを出すものが現れた。
簡単に言えば、龍化者とは『龍世界と呼ばれる別世界から呼び寄せられた龍の魂が人間に憑依し融合した、急激に間違った進化をし、その力に適応【してしまった】人類』なのである
本来ならば人の心は食われ、凶悪な龍の本能が暴走する。が、その道理に従わなかったものが龍化者として人間としての理性を取り戻すのである
「シッ!!」
「ガッ………!!」
龍化者の中でもトップクラスの硬度を誇る、竜生の金剛鱗に覆われた拳による渾身のボディーブローが教祖の腹部に突き刺さる。普通の人間なら腹部に穴どころでなく殴られた場所が揮発してもおかしくない一撃。
それでも耐えるあたり、教祖もそこそこにやるということなのだろうか。竜生は今龍化者としての高みに上りつつある。人の心を持ちながら龍の力を振るい事を成す、新たなる存在へと
「お前が壊した人生の数だけ叩き込んでやる。立て。立って踏ん張れ。あとたった数万発程度だ」
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「竜生が引き付けてくれてるお陰で潜入がラクラクだな」
ほぼ無人と化した教団の豪邸の廊下を悠々と歩くとある人物。彼は赤羽龍斗。若くして龍殺し実働部隊の第一部隊を率いる龍化者である。竜生が教会で暴れまわっている間に彼は任務を遂行する。
『お兄ちゃん、止まって! お兄ちゃんから見て右の壁、他の壁より薄いみたい、多分隠し通路があるよ!』
耳につけたイヤホンから幼女の声で指令が届く。すでにこの施設は地下まで包囲されており、脱出する道は一つもない。ちなみに先ほど竜生が逃がした教徒は全て施設外で拘束されている。彼の目的はこの施設にある重要なモノ
「おっと、はいよォ。せェ~のぉ、せっ!!」
チリッ、と龍斗の足から火花が散る。そして龍斗は指示された壁に思い切り回蹴りでブチ抜く。壁に足が直撃すると同時に爆発が起こり、地下へと続く階段が現れた。入口が作られた瞬間中から陰気な空気が外へと流れだし、そのあまりの陰鬱さに龍斗は顔をしかめる。奥から漂ってくる濃密な死と絶望の匂い
「臭ェな……は~ぁ……陰鬱だ……」
ぎり、と拳を握りしめ龍斗は階段を下りていく。龍斗が足を踏み入れると不思議なことに陰気な空気が龍斗をよけていく。その光景はまるで絶望を切り裂く希望のように
石造りの地下道は狭かった。人一人は通れるものの、二人通りすがるには少々狭いくらい。片腕を横に突き出せばそれで道が塞がれてしまう。どうやら一本道のようだ。奥へ行くほど吐き気を催す邪悪な空気は濃くなっていく
「こんなとこ、人間が長居出来るような場所じゃねぇな。僕ですら肺が腐っちまいそうだ」
龍斗は能力の一端である『熱源感知』を発動する。感知出来るだけで数百の熱源が地下道にぎっしりと存在しているようだ。予想だにしないその数に龍斗は思わず歯を食いしばる
「待ってろ、もうすぐ助ける」
そう呟くと龍斗は足を速めた
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目的の場所までは一本道だった。どうやらこの一本道から横方向へと地下空間は広がっているようだ。そして最奥に居たのは
「やぁ龍殺し君。思ったより早かったね」
その男は振り向きながらも突然の来訪者に応えた。こけた頬、丸眼鏡、薄い髪、そして目の下のはっきり浮かび上がった隈。痩せぎすで一見貧弱だが、どこか油断しては一瞬でやられてしまう力を持っているような、そんな気持ちの悪い気配を漂わせている
「おう、デートの待ち合わせ時間には早かったか? こっちは早くテメェらに会いたくて会いたくてね、震えてたとこだ。主に拳がな」
「それはそれは。だが私としては貴様らなどに時間をかけていられないのだがね」
妙に高く不快な声色で喋る男。心底面倒くさそうな意思がありありと浮かんでいる。龍斗の放つ龍のオーラにもまるで動じていない
「なーに、退屈なんて感じさせないさ。逆にもっと欲しくなるくらいにさせてやる」
龍斗の腕から深紅の炎が揺らぐ。それは下へと徐々に垂れ落ち、剣の形へと変化していく。その光景はまるで植物の成長を早回しで見ているかのような、どこか神秘的で美しいものだった。
数秒の後、龍斗の両腕には真っ白の刀身に金属をも揮発させるほどの熱が込められた剣が発生していた
「おっと、悪いが私は戦闘向きではないのでね。見ての通り、私は人間の器のままでは虚弱だ。替えのきかない大事なものは傷つけられない。ここは逃げに徹させてもらうよ」
「させるかよクズが」
龍斗がいつの間にか出していた尻尾を入り口に向かって振るうと、数枚の鱗が地面に刺さる。刺さった瞬間、それはごうごうと凄まじい音をたてて燃え始めた。同時に部屋の周囲全体が炎に囲まれる
「ふむ。素晴らしい火力だ。興味深いがさっきも言った通り私は戦闘向きではないし、ケイオス様も私を触手を長くしてお待ちだろうからね。また会おう、業火龍赤羽龍斗」
一瞬の閃光、龍斗が思わず腕を盾にして目を護る。次の瞬間には男は消え失せていた。がらんとした陰鬱な部屋の壁を龍斗が出した炎がちらちらと照らしている
「(ッチ、僕の炎の壁を突破できるということは龍祖クラス……それも炎をある程度無効化できるってことか。うーん、おそらく光の力を持ってるのか? 僕が出張って正解だったな、一般兵なら間違いなく皆殺しだったろうな。まぁいい、とりあえず事後処理しなきゃな……)」
自身の不覚を恥じつつも耳の通信機に向かって指示を出す龍斗。
「あーあーこちら赤羽。地下にはヤツの部下がいたが取り逃がした。おそらく龍祖クラスと思われる。んで、まだ息のある生き物もいるので突入準備ができ次第救護班と兵は突入せよ。オーバー」
ため息をつきつつ龍斗は炎と剣を消した。踵を返すと、両手を広げて地下道を堂々と歩いていく。その指先に触れた檻の棒を一つ残らず燃やし溶かしながら。その燃え盛る希望の炎に魅せられた者たちが檻からそろりとでてくる。
あるモノは跪き赦しを請うように祈る。あるモノは久しぶりのエモノだとよだれをたらす。
だが龍斗が地下から出るころにはよだれを垂らしていたモノは一匹も息をしていなかった。悲鳴を上げる暇もなく、炭化していたから
短くて申し訳ない、体調崩してサボってました