二本目、脅迫
正直二度目ともなるとこの脅迫に少しは慣れる。まあ前もって予想していたからと言う理由はあるのだが、黒髪悪魔、もとい御堂某のような圧迫感はないし、何を命令してくるのかわからないという恐怖も無い。
そして生徒会活動を手伝う事は勉学以外の活動であり、僕の運動ができない分の単位はこれで補充されるだろう。デメリットもありはするがメリットもでかい。これは手伝わないという選択肢は恐らくないだろう。
まあ脅されていなかったらやってはいなかっただろうが。
「心配しなくても大丈夫ですよ、まあ軽い雑用はしてもらいますが本格的に動いてもらうのは十月にある学園祭準備期間になってからですから」
別に心配はしていないのだが、僕の思案顔を見て三枝が教えてくれた。
それにしてもいつまでも立っているのは辛い。半ば強制で生徒会役員にされたのだから椅子に座ってもいいだろう。生徒会長が未だに肘を置いている机の周りにある5つの椅子から手近なものに勝手に座る。
「君はそこに座るんだね桐島くん」
「席が役職順に並んでるんですか? そうなら移動しますが」
生徒会長が僕を見てまたニヤリと笑う。
「いや、別に役職で決まっているわけではないよ。ただもう一度聞かせてもらえるかい、君はそこの席でいいんだね?」
役員ごとに席が決まっているのだろうか。
「はい、別にいいですよ、というかどこでもいいです」
「そうかい、なら存分に苦労するといいよ」
どういう意味だろう。ここにいない副会長と会計のどちらかは御堂だろうが、もう一人がとてつもなく変わり者なのだろうか。
「わかりました、次からここに座ればいいですか」
「うん、そうしてくれ。とりあえず今日は自己紹介さえ済んでしまえば帰ってもよかったから椅子をわざわざ今日選ばなくてもよかったのにな」
心底ざまあみろと言った顔でニヤつかれた。この椅子の配置にどういう意味があるのかはわからないが、隣にいる人間を崇めろとか前にいる人間の下僕になれとかではないだろうから問題はないだろう。恐らく、多分、きっと。
「まあどんな意味が含まれているのかはわかりませんが僕は失礼します。今日は病院に行かなくてはいけないので」
二人に挨拶をして、生徒会室を去る。
本当に今日は病院に行かなくてはいけないのだ。やっと地元の担当医から書類が送られてきた。これを河ヶ華の新担当医に見せたら一発で理解してくれるらしい。元より担当医から紹介された病院な為直ぐに何とかなると思っていたのだが、ちょうど病院が忙しくなってしまったらしく、一月ほど遅くなってしまったのだ。
足が動くだけ奇跡で運動は無理だと言われた身だが、やはり少しは体を動かしたい。別に今すぐフルマラソンを走りたいだとか短距離の自己ベストを更新したいなどとは言わないが、小走り、いやせめて自転車に乗りたい。そのためには医者の協力が必要不可欠なのである。