二本目、脅迫
庶務雑務、聞いたことがある言葉である。会長、副会長、書記、会計、広報、庶務と連なる生徒会役員の中で雑用を担当するものの役職だったはずだ。そして僕が生徒会室に来る前に黒髪悪魔から任命されるとばかり思っていた役職である。
間違いなくこの話の陰には奴がいる。
「いえ、人違いじゃないでしょうか」
冷や汗をだらだら流しながら言葉を絞り出しつつ、肩をつかんでいる手を剥がす。
本人が出てきたらその時はその時だ、言い訳のしようはいくらでもある。それまでは否定をし続けるんだ。
「そうか」
茶髪の暫定生徒会長が頷き、机の引き出しの中から一枚の写真を取り出した。僕の肩から手を放した赤茶髪の少女はニヤニヤと笑っている。
「時に、足の調子はどうかな? 桐島要くん?」
ピラリとこちらに写真を向ける。
その写真には僕が写っていた。しかも僕が割と大きなマラソン大会に出場し、一位になったときの写真だった。僕の口からは言葉が出ない。
「さあ自己紹介をしよう、わたしは門脇咲良、生徒会長をやっている」
その茶髪の自称生徒会長、門脇咲良はニコリと言うよりニヤリと笑って、机の上に肘を肘を置き、顔の前で指を組む。見た目は少女と言うよりロリに近いが、その大人ぶった態度は似合っていた。
「私は三枝遥、一年生で書記と広報を兼任でやっています。諦めたほうがいいですよ、私が言えたことではありませんが生徒会メンバーは全員性格が悪いですから!」
赤茶髪の三枝春香が生徒会長に続いた。
この二人を見ただけでメンバー全員の性格が悪いのは十分にわかる。恐らくあの黒髪悪魔も生徒会役員だろう。副会長か会計のどちらかなのはほぼ間違いない。
「さあ、今度は君の番だ桐島要くん」
この性悪の総長、門脇咲良が僕の番を告げる。
「桐島要です……転校してきました、生徒会での役職は庶務雑務になるそうです……」
歯を食いしばりながら自己紹介をする。僕の事は知っているようだから自己紹介なんて必要ないだろう。つまりは形式を貴んだ結果の嫌がらせである
「ああ、知っているよ。桐島要くん、年齢は十七歳、誕生日は五月十六日。そして長距離中距離近距離とすべてをこなせるオールラウンダーの陸上選手、だった」
生徒会長がペラペラと僕の個人情報を話す。
「なんで知っているんですか」
年齢、誕生日なら転校してくる際の書類に書いたが、陸上をやっていたことは書いていない。まあ年齢誕生日を知れる時点でセキュリティがザルすぎるが。
「この程度は名前で検索すれば出てきますよ。年齢誕生日受賞記録、有名になればなるほど書き込む人は増えます。少し検索すれば自分の過去の黒歴史とかが出てくる時代ですからね」
僕自身世間一般からすればまだ若い部類だろうが、なんという時代だ。個人情報はどこへ行ったんだ。
「まあ御堂から聞いているだろうが、もう一度言おう、これはお願いではない。脅迫だ。生徒会に入ってわたし達に従え。後は言わなくてもわかるね?」
御堂、と言うのはあの黒髪悪魔の事だろうか、奴よりも逆に清々しいレベルでこのロリは言い切った。