二本目、脅迫
逃げたい気持ちしかないが、正直今から逃げても黒髪悪魔に出会っても正直どちらも大差ない。先生に歯向かっても印象が悪くなって進級し辛くなり後で大変な思いをするし、ここで反発したことを初登校のクラスで言われたらかなりの悪印象だ。腐ったミカン扱いされてはたまらない。
だったら従えばバラさないと約束していて大した権力も持っていない黒髪悪魔を選ぼう。
どちらも正直選びたくはない。究極の選択リストに入っていても僕からしたら違和感はゼロだ。
兎に角諦めよう。いくらなんでも靴を舐めろだとか土下座しろとかは言われたりしないだろう。
生徒会室についた。一階にある職員室を出て階段を上がり、三階について少し歩いたところにドアがあった。ご丁寧に生徒会室とプレートまで貼ってある。RPGだったらとりあえず三階にまでたどり着きさえすれば自然にわかる程の丁寧さだ。丁寧さ故に僕の心臓は二階を過ぎたあたりから動悸が激しく、体中に暑さだけではない汗をかいているが。
ノックをする。正直緊張でおなかが痛くなってきたので、二回ノックした時点で開ければトイレに繋がって逃げられるんじゃないかとか考えたが、そんな摩訶不思議空間が広がっているとは思えない。おとなしく更に二回ノックし「失礼します」と声をかけて返事が返ってきたのでドアを開ける。
ドアを開け、中を見るとあの黒髪悪魔はいなかった。まさかの展開だ。
部屋の中にいたのは、一番偉そうな椅子に深く腰掛けた超ロングのふわふわした茶色い髪を垂らしているぽわぽわしてて頭の弱そうな女の子と、その女の子の髪を右側は大きな三つ編みにしてみたり、左側はもともとふわふわの髪をアイロンか何かでまるでドリルのように丸めてみたりと好き勝手やっている少し赤茶色に近い髪の女の子がいた。
茶色い髪のほうは座っていても確実に中学生で通じそうだと思うくらいの身長に、くりっとした目、小さい顔、ほんの少し上を向いたへの字口。なんというのだろう、かわいいタイプのバカとでも言おうか。要するに間の抜けてそうな顔である。
赤茶髪の方は茶色髪に比べてまだ少し大人らしく、制服の改造も今風だ。目はカラコンでも入れているのか、うっすらと青い。頬が赤らんでいて、そのおかげで元気そうなかわいい笑顔になっていた。ただ童顔な為か、少し悪戯っ子のようにも見える。
「桐島要です、呼ばれたようなので来ました」
「よく来たね、でも私は呼んでいないよ」
椅子に座った茶髪の少女がふんぞり返りながら言う。
どういう事だろう。ノックした時点で帰って行った先生は僕の事を生徒会長が呼んだ、と言っていたのだが。
「じゃあ僕帰りますね」
呼ばれていないのなら帰るべきだ。どうやら黒髪悪魔もいないようだし、問題はないだろう。
回れ右し、そのまま歩き出す。が、後ろから僕の肩をつかんでくる人間がいる。今日はよく肩をつかまれる日だ。僕が仮に元高校球児だったら二度目の大乱闘が起きているだろう。
後ろを振り向く。赤茶髪が僕の両肩を笑顔のままがっしり掴んでいる。どう考えても逃げるなという事だろう。
「私は呼んでないが、どうやら君は庶務雑務に立候補したのだろう?」
生徒会室が静寂に包まれ、おそらく生徒会長であるこの舌っ足らずな茶髪少女の言葉が響いた。