二本目、脅迫
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あの後、僕はなんて返事をしたのか、覚えていない。どうやって家に帰ったのか、それすらも分からなかった。
確実に言えることと言ったら、家について鍵を閉めたあと布団の上で気絶したであろうという事だけだ。
少しだけ、外に出るのが怖くなった。一人暮らしなので最低限は外に出てはいたが、結局夏休みが終わる間近まで学校に近づきはしなかった。
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ついにこの日がやってきてしまった。夏休みが終わり、登校日がやってきたのだ。
登校日初日から学校を休むわけにはいかない。夏休み中に届いた新しい制服に袖を通す。
前の学校では学ランだったのだが、こっちの学校ではブレザータイプだった。サマーセーターとやらを生れてはじめて着る。セーターと言うのだから暑いのだろうか。
夏休み中殆ど外に出られなかった為、ついに杖無しでもゆっくりだったら歩けるようになった。まだ少し怖いから折りたたんで鞄の底に杖をしまってある。
時刻は七時十五分。初日はいろいろと話があるそうなのでちょっと早めに出発する。
正直気が重い。この前の黒髪悪魔と同級生だとは限らないが、もしも同じクラスだったら僕はどうなってしまうのだろう。いや、やめよう。これ以上はフラグになってしまう。
そうだ、僕は今日から新たな友人を作り、新しい生活を始めるんだ。
この学校では始業式では転校生の紹介をしないらしい。何故なら転校生は始業式に参加しないからだそうだ。
というかそもそもその日は教室へ向かうことはない。初日は先生方と話して終わりだからだそうだ。
正直登校する必要性はあるのか少し不思議なところだが、とりあえず一日はあの黒髪悪魔に会うと言う地獄を味合わなくてもいい、とポジティブに考えておこう。
永田先生の話が終わった頃には他の生徒達は帰宅を始めていた。
「じゃあ、失礼します」
先生に挨拶し、僕も帰ろうとした時、まだ話があるとばかりに肩をつかまれた。
「生徒会長が呼んでいるそうだ、生徒会室まで連れて行ってやろう」
嫌な予感がする。漫画やアニメ、映画、大体の媒体に置いてこれはフラグである。
「まあ軽く話をするだけらしいから行ってやってくれよ」
先生が後ろから肩をつかんだまま押してくる。
これはきっと、黒髪悪魔が生徒会長で僕を庶務雑務に任命して一週間後にはボロ雑巾になっている流れだろう。
正直行きたくない。生徒会室はどこのどんな話でも魔境だ。大体なんらかの超権限を持っている。君子危うきに近づかず。
「先生、亡くなった祖母の遺言で生徒会室に近づくなと」
「ご存命だろ」
「先生、生徒会長が僕と話しても正直時間の無駄だと思うのです。むしろ行かないほうが生徒会長の為なのでは」
「いきたくないだけだな。大丈夫だ、多分勧誘されるくらいだろうし、別に断ってもいいんだから」
残念ながら生徒会長があの黒髪悪魔だったら断れないのだ。部屋についた瞬間僕の学生生活は終わる。