今宵、夜空に墜ちる時
前略
孤独。
というものを
痛感したことは
あるだろうか
貴方は
私は、きっとある。
それは戦争だ。私と、それ以外の崇高なる賤戦。
人は一人で生きて、一人で死んでいく。だなんて格好良いことなんて言っていられない。必死だ。
みんなの言う”みんな”の中に入れないのは辛い。
歩いているだけで悪意が満ちるようで、呼吸するだけで敵意が刺さるようで、存在するだけで殺意が芽生えるようで。
狂いそうになる。どうして私が、私だけが。あんなに楽しそうで清々しそうで羨ましい青春から排除されるのか。
私はアスファルトに這い蹲って、石油の涙を身から流す。
剥き出しの湿気が「奴等」の眼から溶け出して、私の純粋を嬲っていく。きっと透明だった過去さえ悔やまれる。
何が悪いのかイケナいのか。今日も感じない。体温を。息づかいを。鼓動を。人間を。
私に与えられるのはいつだって何も無かった。
I am always given nothing.
冷たく凍った世界は、私をも固めていくのか。
一筋の光明もない灰色が網膜を焼き尽くして時間は止まる。
私は弱いから。
だから耐えられない。
きっと強い人なら、確固たる信念をもって害悪をはね除け斬りつけ打ち破るだろうに。私はできない。
弱いから。守るべき信念も何も無い。尊厳すら穢された私には何も残っていない。
正義なんて。そんなものを語れるほど、私は清くない。
他人はそんな私を蔑み嗤うんだろう。解っている。
解っているのに。
どうしてつよくなれない!!
どうして!!
そうして、私はまた残される。
班行動だって、昼食だって、休み時間だって、授業中だって登校中だって部活中だって休日だって修学旅行だって遠足だって何だってだ。
無視されて、取り残されて、置いて行かれて。粗雑な扱いを受ける私のヒエラルキーは誰よりも下で。
ともすれば、別の人間が私が入るはずだったポジションを奪っていく。
どうして私じゃダメなんですか。
吐きそうなほどに足掻いた。もがき苦しんだ。呼吸が出来ない。横隔膜の動かし方なんて、とっくの昔に忘れてしまったみたいだ。
でも、そうやって弱みを見せてしまったら負けだから。
私は。弱い私は。
仮面を被る。
いつもニヤニヤ笑って、ガラスの心臓を水晶製に見せかける。
自虐して、泣きそうな表情を作り笑いに置き換える。平静を装う。無理だけど。でもする。
勝てなくても、せめて負けないように。
詰られて嬲られていたぶられても。途切れ途切れに生きるような。
逃避する場所はいつも心の中でだけ。
モノローグしか綴れない私は、死体と変わらない。
腐っていないゾンビ。それが私の真実なのか。
どうしたら、この濁った湖から飛び出せるのか。
世間と隔絶されることが死だとしたら。私は既に死んでいるのか。
社会的に死んでいるのなら、肉体的に滅びてもなにも変わらないのだろう。
誰も私の死なんて悲しまないで、普段通りに私を無視するのだろう。有るモノを無視していたのが、無いコトを無視するようになるだけなのだから。ほら、簡単だろ。
こうして自分を自分で慰めることしかできないから嫌われるのか。
それとも逆か。
ゾンビが先か、死体が先か。
こうして考えることでしかストレスを発散できない癖に、こうして考える度に胃が悪魔に握りしめられて、背骨に槍が突き刺さる。
酷く歪んだ自意識が、醜い私を驚異的に退化させる。
已に満身創痍だ。
脆く壊れやすいゴミクズは原型なんか保っちゃいない。全身の回路が短絡した旧世代のロボットのような動き。
そうして夜を緩慢に歩く。
太陽を失った空は黒く死んでいて、綺麗だった。
見渡す限り一面の死。
どの家も明かりはなく、ヒトは眠っている。
安穏を抱きしめて。
今この場所で、生きているのは私だけ。
それはつまり私が死んでいることの証明なのだろうか。
満天の美しさでさえ、その裏には光を失った星の残骸が無数にあることを思えば、この不条理だってこの世界のルールのように思えてくる。
濁った湖すら、夜は星々を写して、幻想みたいだ。一時でも醜さを失えるだなんて。
柔らかな月光が肌を刺す。
だから。
今宵、私は、夜空に墜ちます。
草々不一