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月は隠れ魔女は微笑む  作者: 一六(阿国)
神の深慮と巫女の浅慮
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悪いことは重なる、例えば…

土と岩を上手く組み合わせて作ってある煙突から煮炊きをしているのであろう煙が立ち上っている。


森の半ば中心にある広場の中央には3本の巨大な大樹が生い茂っていた。その木々の根は複雑に絡み合い互いの根と根を絡み合わせその根本に大きな空間を作り上げていた。そこにヒトの手が加わったのであろうその根元の地中は掘り起こされ、階段を作り細い木々をあみこんであるのであろう扉が備え付けてあった。


また大樹からさして離れていない場所の土は見事に掘り起こされ、育てられている野菜は水を与えたばかりなのか瑞々しくも、日の光を反射し水滴がきらめいていた。


その周りでは鶏が地面をしきりにつつきながら賑やかに鳴いている。そんな中30羽程のそれの間を、籠を両手に持って必死に歩き回る小さな少女の姿があった。


「とりしゃんとりしゃん、たまごちょうだいぃ~。じいじにたべしゃせてあげたいの~」


舌足らずに鶏たちに声を掛けながらそんな少女の小さな手で、鶏達が産み落とした卵を一つひとつ丁寧に拾っては籠の中に入れてゆく。

ここの鶏達は有精卵を外では産み落とさず小屋の中で産みつけるため、外の卵を広い集めてヒトが利用している。もちろん鶏達も襲いかかったりはしない。ある意味共存がうまくいったといっていいだろう。


「いっこ、にぃこ、しゃんこ~よん…こ、えと…」


籠に入った卵を必死に数え、みんなの分があるか確認しようとするが、いかんせんまだ小さい彼女には難しかったようだった。


「よ、4…のつ、つぎは、ご…ごだ、よ?ネ、ネネ。」

「あ、しょっか、あいがと!じょんがおねえちゃん。」


畑の周りの杭を補強していた大柄な女が、どもりながらネネと呼ばれた少女に数を教えた。


「た、たた、卵、は、たく、たくさん、とれたら、ま、魔女さ、様がい、いいものつく…つくってくれる、て」

「うん!じょんがおねえちゃんも、いっしょにたべようね!」

「う、うん、た、たのし、み」


ネネは女のひどいドモリも気にならないのか、無邪気に笑顔を浮かべながら卵の入った籠を抱える。無邪気な少女の笑顔に、女は自分の仕事が終わったのか道具をひとまとめにして傍らに置くと少女の元へ歩いてゆく。


「じ、じ…じゃあ、いっしょに、の、のこ、りの卵、をあ、あつめ、よう?」


小さな少女には重く大きな籠を持ってやり、つかえながらも少女に卵を持ってくるように指示すれば、少女は一緒に仕事をするのが楽しくて仕方がないのか、コマネズミのように鶏達の間をかけ巡り卵を自分のエプロンの中に入れて持ってくる。

それを転ぶのでないかと心配しながら女は少女の後ろをゆったりと歩いてゆく。


「ほ、ほんとにここ、は、ふし…不思議なば、ばしょだ、ね。」


ゆぅるりと、あたりを見渡してから首をかしげる女、ゾンガ。年嵩の女に見えるが彼女はまだ12歳の子供だ。吃音障害を持っているせいか、頭の出来がよろしくないと思われがちだが、言葉にするのが凄く苦手なだけであって頭の回転は速く、手先も器用である。


ゾンガは生まれながらのウィガス人だった。生まれた時は小さかったらしいが、5歳を過ぎたあたりからぐんぐん体が大きくなりだした。身長はもちろんのこと、胸は腫れ上がり尻も大きくなり、10にも満たないうちから成人の男性よりも背が高くなってしまった。

ただ、人より体が大きいのはよくあったことなのだがゾンガの成長はそれに輪をかけるように異様であった。少女だというのに、その体は成熟したそれに近く何度も襲われかかったが、生まれ持った怪力がそれを救った。


そんなおり、ゾンガの両親は聖都の騎士につれられ、沼へ討伐へ行かされてしまった。

騎士につれて行かれる、それはすなわちウィガス人である奴隷を肉壁としてつかうのか、もしくはおびき出すための餌にするかのどちらかであり、どちらにせよ行く末は死しかない。


そんな中ウィガス人の集落の一つである、ゾンガたちの暮らしていたゾゾル村では、身寄りのないゾンガを追い出そうとする動きがあった。ゾンガの身体目当てに襲いかかって返り討ちにあった男達が、腹いせにゾンガを追い出そうとしたのだ。その時に出会ったのがジイジとネネだった。

ジイジは本名は知らないが、聖都で要職に就いていたのだが、片足を無くしたために都から追放されたらしい。小さなロバに荷物を乗せて少女と歩いているところに出くわした。


そして少女は、騎士同士の私闘に巻き込まれその顔に傷を被ってしまったという。傷が癒えないまま、荷物だけを持たされて追い出された二人に、ゾンガは己の家へと連れていった。

両親はもう戻ってこないと言うことも判っていたのでできることだった。

ゾンガは己のどもり癖がひどいのを判っているので、ほとんど会話もせず身振りで案内をした。ここでゾンガに出会った二人が、ゾンガにとって掛け替えのない新たな家族と成るのには時間はさしてかからなかった。


幼いネネは大人の男よりも、大きくても女性であるゾンガに懐いた。無条件で差し出されるネネからの純粋な好意は、ゾンガにとって心地よく、いつしかなによりも守るべきものとして認識されていた。


そして足が不自由なジイジに、ゾンガは代わりにと杖を作ったり力仕事を前にもまして積極的にこなすようになっていた。

そんな折り、ジイジの容態が急変した。

慣れない場所での生活に無理が祟ったのであろう。ただの風邪と侮ったのが悪かったのか高熱で動けなくなってしまった。ゾンガが必死に働き看病しても、なかなか良くはならない。そうこうしてるうちに、ネネまで熱を出して倒れてしまった。


そこへ聖都の騎士達がゾンガ達の住む家へやってきた。


「団長、…こんな状況で申し訳ないですが、直ぐに逃げてください。聖女王の勅命で団長を捕縛せよと。命令が下ったんです。俺達は先行部隊ということできています。少しでも時間を稼ぎますから、速く!」


詳しいことはわからなかったが、ジイジの一族のことで捕縛命令が出されたということで、動けないジイジの代わりに荷物を纏め、ロバに簡単な荷車を付けるとそこへネネを寝かせた。ジイジを載せるとロバに負担になるためゾンガがしっかりと背負い、30分後には村から逃げ出したのだった。


騎士達の説明によると、この村から半日歩いたところに小さな洞窟があるらしい。どこにつながっているのかはわからないが、だいぶ入り組んでいるので見つかりにくいであろうと。


病人を抱えての移動は大変ではあったが、それでも出来る限りの速度で移動するゾンガは自分のこの怪力をこれほど頼もしく思ったことはなかった。

時折、ネネとジイジの容態を確認し、方向を確認し後方からの追手が来ないかを警戒しながら進むのは、流石に齢12の少女であるゾンガに多大なる負担となった。しかし、今二人を助けられるのは己しかいないのだと思えば、疲労でふらつき始めた両足を叱咤してでも先へ進まねばならない。


連れ歩いていたロバが疲労でこれ以上動くのを嫌がったため、近くの木のウロに荷物を隠し荷台を近くのの流れる川に落とすと、そのままロバを解放したゾンガは、再び二人を抱えて、洞窟の方向へと足を進めていった。

谷の途中に、幌代わりにつけていたカーテンが引っかかっていたから、もしかしたら谷に落ちたと追手が勘違いをして、時間が稼げるかもしれない。そんなことを考えながら…。



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