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月は隠れ魔女は微笑む  作者: 一六(阿国)
神の深慮と巫女の浅慮
13/29

鶏とハーブの成長速度と文字

やっと更新ですー。今回は2,500文字程度です。もう少し増やしたいけど切りがよかったので。

「あーっ!おかえりなしゃーい!!」


自宅の菜園の付近まで歩いてきた二人の姿が、居間の窓から見えたのか家からネネが飛び出して二人に駆け寄ってくる。ゾンガお手製のエプロンをしてるあたり、おそらくジイジと食事の準備をしていたのだろう。


ゾンガと桜子は顔を見合わせると、示し合わせたかのように小さく笑いあって、荷物をその場に一旦降ろした。そうして駆け寄ってきたネネが二人に抱きついてくるのを優しく抱きとめた。

抱きとめたネネの髪から、柔らかいバターの香りがほのかに香る。エプロンだけでなく頬や服のあちこちに小さなシミが付いていることから小さいながらも夕飯のために頑張っていたのだと良く分かる。



「ただいま、ネネ。いい子にしてた?」

「うん!いいこ、してたよ!じょんがおねえちゃん、しゃうらおねえちゃん、おけが、してない?だいじょーぶ?」


抱きついたまま二人に怪我はないか尋ねるネネに、ゾンガは何も言わずに頬に付いた汚れを指で拭ってやってから、片腕でネネを抱き上げ肩へ乗せて微笑んだ。

急に抱き上げられて、ネネも目を見開き驚くものの「きゃーあ!」と歓声を上げてゾンガの少しだけ硬い髪質の頭に抱きついてから、子供特有の高い声で楽しげに笑った。


「たかーい!たかーい!」


「おお、魔女殿、ゾンガ。おかえり。夕食なら出来ているよ、ネネが奮闘してくれた卵たっぷりのスープだ。」


3人で仲良く自宅の扉から入れば、オーブンから丸々と太った鶏の丸焼きを皿に載せていたジイジが、微笑みながら声をかけてきた。さすがにジイジはパンとスープだけでは子供達も物足りなかろうと考えたのだろう。肉が好物のゾンガの顔に笑みが浮かび、ネネも知っていたのだろうに目の前の丸焼きに目を輝かせた。


「ただいま帰りました。留守中、なにかありましたか?」


ジイジにそう、尋ねながら桜子は採取したものの仕分けは明日に済ますと決めたのか、玄関のすぐ脇にあるスペースに荷物を纏めて置いた。蜘蛛だけは別途布を張る場所を設けてやらねばならないのだが、こちらはゾンガが担当すると決まっているので、彼女が虫駕籠を引き取った。

そんなゾンガを眺めながら、ジイジはふと思い出したように桜子へ顔を向ける。


「いいや、とくには…。ああ、そうだ。魔女殿のおっしゃる“モジ”なんだが、とても便利だと分かった。これならば過去の事柄をも上手く使えることが出来るだろう。…普及すれば、だが。」


そう言いながら料理の載った皿をテーブルに置いて、彼自身の顎鬚を撫でつけながら一つ頷いた。

この世界には“文字”の概念がなく全て口伝くでんか、もしくは精霊を媒体にした記憶の移行でしか過去の知識を受け継ぐ方法がなかった。もちろん例外もある。

ジイジの一族の記憶は、全てが一族に“共有される”。血縁だけではない、外部からの嫁や婿、養子にいたるまでそれは適応される。一度一族と神に認識されたら最後、その記憶の呪縛からは逃れることは出来ない。

そして悪用しようとすれば、一族と共にある神からの制裁として加担した者の記憶を焼いてしまうのだ。


過去に一度だけ記憶を悪用しようとした外部の人間に、ジイジが幼い頃に誘拐されるということがあったのだが、その時記憶を無理矢理転写しようとした人間だけでなく、その場にいた加担したのであろう人間が一様に耳や目から血を噴出し昏倒してしまった。その為加担していた何人かの一族の者も、逃れられることなく寧ろ昏倒したもの達よりも罪が重いとばかりに命を落とした。通常ならば、生きてゆく上で必要最低限の常識の記憶以外を消されるだけだというのに。


この世界は神によって全てが管理される世界であり、当然人が神を超えることなどできないし、欺くことも出来ない。一度神に仕えると決まった以上、裏切りはあってはならないことなのだ。




「そんなに気に入りましたか。なら、良い機会ですから、ネネやゾンガも交えて本格的に“ひらがな”から覚えましょうね。」


「ぜひともお願いしたいものだ。」


「ネネも、おべんきょ?」


「う、うん、み、みん、みんなで。」


皆で一緒に何かを出来ると喜ぶ子供たちに微笑みながら、テーブルに着いた桜子とジイジがこれからの“勉強”について話し合いをしつつ夕食の準備を整えてゆく。


桜子の積荷の中に入っていた発泡酒とハーブやじゃが芋を腹にたっぷりと詰め込まれた鶏肉は、ナイフで切り開けば香ばしい香りが湯気と共にあたりを漂い、肉汁が細かく刻まれたハーブと一緒に溢れ出てくる。

旨みたっぷりの肉汁でじっくり蒸された芋はほっくりとしながらも、ハーブのさわやかな香りと旨み、そして芋そのものの甘みを味わうことが出来る。



こちらへ飛ばされたときに、桜子が植え替えをしたローズマリーやタイム等のハーブはこの世界の大地にしっかりと根付き、むしろあちらの世界ではあり得ないほどの成長速度で増殖をしていた。まだこちらに来て数週間だというのに、それらのハーブはゾンガの胸辺りまで枝を伸ばし繁っていた。お陰で毎日の生活に彩が添えられているのだが。


もちろんハーブだけではない、一緒にいたヒヨコ達も成長が早く、何羽かは大型犬のグレートピレニーズと同じくらいは大きくなっている。(彼女がしいれたのはプリマスロックという品種なのだが、これは精々成長しても3キロ程度の重量。しかしこの大型鶏はすくなくとも50キロ以上はあるようにみえた。)

とはいえ、ここは異世界で通常の成長と異なってもしかたないのかなと桜子は楽観視しているし、ジイジは事情を知っているのだがネネ達は魔女様が連れてきた生き物はそういうものなのだろうと思っている。ここでも知らない間に双方で誤解をしているようだったが、これは後にジイジに説明され誤解を解くこととなる。


「……ジイジさんって何をさせてもお上手なんですね。」


各自の皿に切り分けられた肉と芋に舌鼓を打ちつつ、そんなことを思わずといった体でつぶやいた桜子。それに同調するように子供たちは食べ物を詰め込んで頬をリスのように膨らませながら笑顔で頷く。


「そ、そうだろうか。しかし、今回はネネが手伝いを頑張ってくれたからね。」


褒められると思ってもいなかったジイジは、わずかに頬を緩めてネネの頭を撫で付けた。


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