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弐話:るっきんぐふぉー

真夏の夜、T県S区の公園、公園のシンボルである噴水の前で、少年は自分を『見上げる』少女を、『見上げていた』。

まさに空中に逆さに立っている少年は、少女の驚いた顔を、満面の笑顔で確認すると、

「お前、『アレ』…だろ?」

と少女に向かい質問をした。

「なんのことよ?」

少女は眉間にシワを寄せ、少年に答える。すると少年は、ただでさえボサボサの頭を右手でボリボリかくと、少女に向かい言った。

「やっと会えたのにさぁ、その態度はつれないんじゃない?」

少女の表情が、より険しくなる。

「だから、何言ってんのよって聞いてんの。ってか、そんなトコに立ってないで、降りて来て話したら?」

「ほら、やっぱりそうだ…俺が空に立っていても、驚きはしても逃げたりうろたえたりしない。」

そう言うと、少年は空中を軽く蹴った。次の瞬間には、カラン、という音と共に地面に降り立っていた。

「それにさっきの着うた…お前は間違いなく『アレ』だな………いや、少なくとも『アレ』候補か。」

少年はそうつぶやいた後、少女の前に立った。

「………意味分かんない」

そう言うと少女はその場を立ち去ろうとした。

「白山姫子…ねぇ」

少女はドキリとして少年の方を向く。すると、少年の右手には間違いなく自分の生徒手帳が握られていた。少女―…白山姫子の持ち物の中で唯一自身の証明となる物であり、鞄の一番奥に、たとえ『仕事』の最中でも決して落とすことがないようしまっていたハズなのに…

「なんかぐだぐだな名前だな」

と少年が言い、ケタケタ笑い始めると同時に、少女の顔から表情が消えた―…


―鞄には開けられた痕跡が無い…一体どうやって私の生徒手帳を?

―こいつは何者?私の『仕事』を知っていて近づいて来たの?

―いや、私の名前を知らなかった様子から…それは無い。

―それより、おそらくこいつは『ドライバ』…しかも、かなり強力な…

―なら、コイツが何者でも躊躇している余裕は無い………

姫子は一通り思考を廻らせると、一歩前に踏み出した。そこからの動作は正確であった。それこそ精密機械の様に、すばやく細かい動きで少年の右手と首筋をつかむと一気に最小限の力で地面に押し倒し、少年の上に馬乗りになった。

「―……っつ!」

少年は一瞬何が起きたか理解できなかった様子であったが、すぐに自分が押し倒された事を知ると、少女の顔を見つめながら、また、満面の笑みを浮かべた。姫子は自分を見上げる少年の右手からすばやく生徒手帳を引き抜くと、首から手を離し立ち上がった。そして、

「アンタが何者だか知らないけど、今後私に近づかないで。もし私の半径25m以内に近づいてみな、ひどい目にあわせるよ…」

と言うなり、少年の腹を思いっきり踏み付けた。「ぷげっ!」

少年は奇妙な声をあげると同時に、腹を押さえて地面を転げ回った。その様子を確認した姫子は、公園の出口へとむかい歩き始めた。

姫子がその場を去って5分くらいたっただろうか。少年は、相変わらず地面にうずくまっていた…が、突然、そのうずくまった状態のままノーモーションで空中へ飛び上がり、そして、夜の公園の静寂の中、カランっという音を響かせ地面に降り立った。

「ふひぃー…、何って女だよぉ」

少年は姫子が去って云った方向を見て呟いた。そして、ジーンズからケータイを取り出すし

「あー、よかったぁ…ケータイ、壊れてねぇや。」

と呟くと、あるところに電話をかけた。

『もしもーし』

電話の向こうから聞こえて来たのは、妙に甘ったるい男の声だった。

「お前さぁ、その悪趣味な変声器使うのやめろって何回言ったら分かるんだよ?」

少年は電話の向こうにいる相手にそう悪態をつくと、

「まぁいいよ、それより、『アレ』っぽいの見つけたぜ。」

そう言うと、

『えぇ〜、マジでぇ?すっげぇ!KO-MON様の着うたの女!?本当にいたんだぁ』

「な………お前なぁ、本当にいたんだって…確かかどーかも分かんない情報を俺に寄越してたっての!?」

『まーまー、しょーがねぇじゃん。最近俺の『ドライバ』調子悪いんだし…それに、いたんでしょ?確かにさ。』

その男の声に、少年の顔から笑顔が消えた。

「『S区の公園』、『KO-MON様の着うた』に、『ドライバ』…ま、ほぼ間違いなく『アレ』でしょ。やっと見つけたよ………」


少年は、いつの間にか空のてっぺんまで昇っていた月を見上げ、呟いた。

「この雨水鎖仁の為だけの『三戒相姫』を…」


『おめでとう、そして………………………』

電話の男が何かを言い終わると、少年・鎖仁は電話を切った。


―カランっ………


こうして、公園内のどこからも、鎖仁の姿は消えた………

ラジオと温度計は壊れなかったのかなぁ?なんて思う第弐話です…

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