表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/21

第9話 逃亡

冷たい石の感触が、背中に残っていた。


鉄格子の向こうで、松明が揺れている。

湿った空気。

鉄と汗の混じった匂い。


俺は、牢に放り込まれていた。


両手には手錠。

重く、冷たい。

金属の輪が、手首に食い込んでいる。


通路の先で、衛兵が一人、退屈そうに立っていた。

腰には鍵束。

歩くたび、金属が小さく鳴る。


(……あれだ)


考えるより先に、呼吸を整える。

焦るな。

今は――耐える時だ。



しばらくして、衛兵が近づいてきた。


「どうだ? 反省はしたかよ、冒険者」


嘲るような声。

檻の前で立ち止まり、俺を見下ろす。


俺は、わずかに身体を前に倒した。


「……水を、もらえませんか」


弱く。

できるだけ情けなく。


衛兵は鼻で笑った。


「はっ。さっきまで威勢よかったくせに」


鍵束が、視界に入る。


――今だ。


俺は、ゆっくりと手を伸ばした。


だが――


ガシッ。


伸ばしかけた腕が、途中で止まる。

次の瞬間、手首を強く掴まれた。


骨を押さえ込まれるような力。


「何だ、その手は」


衛兵の声が低くなる。


「こいつ! 何しやがる!!

 逃亡するつもりか!!」


通路に響く怒声。


失敗。


一瞬で判断する。


(まずい)


「《時戻し》……4秒」


◆◆ 時間が4秒巻き戻る ◆◆


世界が、軋む。

頭の奥が、鈍く痛む。


――戻った。


同じ位置。

同じ足音。

同じ距離。


衛兵は、また格子の前に立っていた。


「どうだ? 反省はしたかよ、冒険者」


同じ台詞。

同じ油断。


(……今度は)


俺は、わざと大きく声を張り上げた。


「俺は!!

 何もやってないんですよお!!」


突然の大声。


衛兵が、眉をひそめる。


「……あ?」


俺は、そのまま叫び続けた。


「助けただけだ!!

 爆発から人を助けただけで!!

 なんでこんな所に――!!」


「いい声で叫ぶじゃねぇか。

 ひゃっはっは!!」


衛兵は笑いながら、顔を近づけた。


その瞬間。


――鍵束が、視界の端に揺れた。


(……今だ)


そっと手を伸ばす。

触れる。

引っかける。


音を、立てるな。


金属が、手の中に滑り落ちる。


(……取った)


衛兵はまだ笑っている。


「どうせ明日には――」


俺は、静かに手を引いた。


鍵は、確かに俺の手の中にあった。


心臓が、うるさい。


(……行ける)


「せいぜい、明日を楽しみにしているんだな!」


衛兵が背を向ける。

その背中が遠ざかるのを、じっと待つ。


足音が、角を曲がって消えた。


地下に、静寂が戻る。


俺は、握りしめた鍵を見下ろした。


――ここから先は、戻れない。


捕まれば、次はない。

逃げ切れなければ、終わりだ。


それでも。


俺は、息を深く吸い込んだ。


(……逃げる)


それが、生き残るための選択だ。


――覚悟は、もうできていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直な感想で構いません。


また、ブックマークもしていただけると嬉しいです。

是非ともよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ