表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/50

第41話 やり直しの果て(時人視点)

最初の一歩で、死んだ。


角を曲がった瞬間、見張りの男と目が合った。


「――侵入――」


叫ばれる。


その声に反応して、奥の弓が上がる。

放たれた矢が、真っ直ぐ腹に刺さった。


熱い。


次の瞬間、内臓が焼けるみたいな痛み。


膝が落ちる。


(……あ、これ無理だ)


視界が暗くなる、その直前。


〈時戻し〉三秒。


世界が跳ねた。



戻る。


角の手前。まだ踏み出していない位置。


腹の痛みは消えている。

でも、刺さった感覚だけは残っている。


嫌な汗が背中を伝う。


(正面はダメだ)


配置を変える。呼吸を殺す。


もう一度、踏み出す。



二回目。


今度は見張りを処理。うまくいった。


……が。


卓の男に椅子の音で気づかれる。


「誰だ!」


奥の魔術師が詠唱。


間に合わない。


足元が爆ぜる。


爆風。


身体が壁に叩きつけられる。


肺の空気が全部抜けた。


(くそ――)


〈時戻し〉四秒。



三回目。


見張り成功。卓も成功。


だが弓。


死角から撃たれる。


太腿貫通。


転倒。


追撃。


喉に刃。


終わり。


〈時戻し〉三秒。



四回目。

五回目。

六回目。


失敗。

失敗。

失敗。


矢が刺さる。

首を切られる。

魔術が爆ぜる。

背後から殴られる。


血の味。

骨の音。

息ができない。

視界が赤い。


そのたび。


戻る。

戻る。

戻る。



何回目か、もう分からない。


頭痛がひどい。こめかみが脈打つ。

めまい。吐き気。いつもの代償。


でも、まだ動ける。


(順番だ)


敵は十数人。


一気にやるから崩れる。


だから、一人ずつ。


確実に。


最短で。


頭の中で配置を組み替える。


見張り → 卓 → 弓 → 魔術 → 巡回 → 固まり。


パズルだ。


失敗するたび、正解が近づく。



十一回目。


見張り、成功。


倒れる音、出た。


失敗。


戻す。



十五回目。


卓、成功。


血が机に垂れて気づかれる。


失敗。


戻す。



十九回目。


弓の位置、ようやく把握。


木箱の影。


あそこだ。


先に潰す。


成功。



二十回目。


魔術師の詠唱は二文字目。


そこまでに投げれば間に合う。


成功。



二十三回目。


五人組の立ち上がり。


一人目を殺した瞬間、二人目に刺される。


順番を変える。


三人目からだ。


戻す。



二十七回目。


全部、繋がった。


見張り、音なし。

卓、音なし。

弓、凍結補助。

魔術、投擲。

巡回、背後。


五人組、三→一→二→四→五。


最短ルート。


無駄ゼロ。


(……これだ)



走る。


今度は、全部分かっている。


誰がどこに立つか。

誰がいつ振り向くか。


身体が勝手に動く。


一人目。喉。

二人目。首。

三人目。心臓。

四人目。沈黙。

五人目。懐。


全部、間に合う。


全部、避けられる。


まるで敵の動きが遅く見えるみたいだ。


違う。


ただ、何度も見ただけだ。


何度も死にかけただけだ。



最後の男が崩れる。


静寂。


血の匂い。


立っているのは、俺とリアだけ。


肩で息をする。


こめかみが、ずきずき痛む。


吐き気が上がる。


でも。


やっと。


やっと、正解に辿り着いた。



ふと、リアを見る。


驚いた顔で、俺を見ている。


きっと、俺が一瞬で全員倒したように見えているんだろう。


傷ひとつなく。

迷いもなく。

まるで最初から勝ち筋が分かってたみたいに。


……違う。


そんな綺麗なもんじゃない。


何十回も失敗した。

何十回も刺された。

何十回も死にかけた。


その積み重ねの、結果だ。



最後の男が崩れる。


静寂。血の匂い。


立っているのは、俺とリアだけ。


肩で息をする。

こめかみが、ずきずき痛む。

吐き気が上がる。

意識が朦朧とする。


でも、やっと、やっと正解に辿り着いた。


――そこで、ふと。


視線が、勝手に隣へ向いた。


胸の奥が、鈍く痛んだ。


リアがいる。


ちゃんと、立っている。


呼吸している。


それだけで、肺の奥に溜まっていた息が、少しだけ抜けた。


……なのに、怒りは消えない。


あいつらが口にした言葉が、まだ耳に残っている。


「猫耳メイド」「銀髪」「泣かせろ」


ふざけるな。


俺の知らないところで。

俺のいない場所で。

また、リアを奪う気だった。


一度失った未来を、もう一度繰り返す気だった。


拳に、力が入る。


自分でも驚くくらい、冷たい感情だった。


怖い、とか。迷い、とか。


そういうものが、どこかに消えている。


ただ。


「全部、壊す」


それだけが、はっきりしている。


……こんな顔、リアには見せたくないんだけどな。


少し心配そうな顔のリアが言った。


「……行きましょう、時人様」


「ああ」


灯りの向こうに、まだ気配がある。まだ、笑い声がする。


俺は歩き出す。


影みたいに。


音もなく。


怒りだけを胸に抱いたまま。


――もう二度と、リアを失わない。


そのためなら。


何だってやる。

最後までお読みいただきありがとうございます。

『面白かった』『続きが読みたい』と思っていただけましたら、下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします!


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直な感想で構いません。

また、ブックマークもしていただけると嬉しいです。


是非ともよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ