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第40話 静かな怒り(リア視点)

灯りの向こうに、男たちがいた。


広い空間に、粗末な机と酒瓶と木箱。笑い声が反響している。

ざっと見ただけで十人以上。通路の角、荷物の陰、奥の卓。配置がばらけている。


普通なら、どう考えても正面からどうにかできる人数じゃない。


……なのに。


隣にいる時人様は、迷わなかった。


「……気をつけろ」


短い声。それだけ言って、時人様は前を向く。


「はい」


次の瞬間、時人様の姿がふっと薄れた気がした。



最初の一人。角の見張り。壁にもたれて、眠そうに欠伸をしている。


その背後に――いつの間にか、時人様がいる。本当に、いつの間に。


男が気配に気づいて振り向く。


でも。


振り向ききる前に、喉元に銀が走った。


声が出ない。崩れる。


倒れるはずの身体を、時人様が肩で受け止める。そっと床へ寝かせる。


……音が、しない。


(え……?)


速すぎて、理解が追いつかない。



二人目。卓でカードをいじっていた男。


椅子を引く、ぎ、と小さな音。その瞬間、時人様が机の陰を滑る。低く、影みたいに。


次の瞬間には、男の首が不自然に揺れていた。


血。でも椅子は倒れない。身体はゆっくり横に置かれる。まるで眠ったみたいに。


(今、何を……)


見えない。動きが、見えない。



三人目。弓を持った男がこちらを見る。


目が合う。


「あ――」


叫ぶ、はずだった。


私は反射的に魔力を走らせる。足元だけ。


ぱきん。氷。


膝下が凍る。体勢が崩れる。


その瞬間、時人様の短剣が、す、と胸へ。


動きが止まる。


一瞬。本当に一瞬。



止まらない。


四人。五人。六人。もう数えられない。


時人様は止まらない。


木箱の陰から出てきた男の背後を取り、口を塞ぎ、そのまま沈める。


逃げた男の進路を、なぜか先回りして待っている。角を曲がった瞬間、刃が喉元。


魔術師が詠唱を始める。長い言葉。


でも、二文字目で終わっている。


投げたナイフが喉に刺さり、声が途切れる。


(……なんで)


どうして、そこに立てるの。どうして、その瞬間に動けるの。


全部、無駄がない。



広間の中央。五人が固まって立ち上がる。


「おい、見張りが――」

「誰か来て――」


遅い。


一歩。時人様が踏み込む。


一人目、喉。

二人目、心臓。

三人目、腕を掴んで引き倒し、首。

四人目、背後から口を塞いで沈黙。


五人目が剣を抜く。


間に合う、はずだった。


なのに。


刃が振り下ろされる前に、時人様が懐に入り込んでいる。


近すぎる距離。


男の目が、恐怖で見開かれる。


次の瞬間には、崩れていた。


全部、一撃。全部、無駄がない。



気づけば、広間に立っているのは私と時人様だけだった。


さっきまで笑っていたはずの男たちが、誰一人、立っていない。


なのに、大きな物音がひとつもなかった。


私は、自分の呼吸だけがうるさく感じた。


(……強い)


違う。それだけじゃない。


これは、怖い。人の戦い方じゃない。


未来が見えているわけじゃない。


でも――全部、紙一重で避けて、全部、無駄のない最短で届いている。


迷いが、まるでない。


敵がどこに立つか、どこから振ってくるか。それを身体が最初から知っているみたいに。


積み重ねた経験と勘が、限界まで研ぎ澄まされた結果。


そうとしか、思えなかった。



時人様が振り返る。


血が付いているのに、表情はいつもと同じ。


「……次だ」


その声が、あまりに静かで。


胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。


この人は。


私が狙われた、それだけで。


ここまで怒れるんだ。ここまで容赦なくなれるんだ。


怖い。


でも。


どうしようもなく、思ってしまう。


(……この人を、支えたい)


一人で、こんな闇に立たせちゃいけない。


私は裾を強く握った。


「……行きましょう、時人様」


「ああ」


短い返事。


私たちは、さらに奥へ進む。


灯りの向こう。まだ、気配がある。


男たちは、まだ笑っている。自分たちの最期が、すぐそこまで来ていることも知らずに。


時人様が、また歩き出す。


影みたいに。音もなく。怒りだけを胸に抱いて。


私は、その背中を追った。


――この人の隣に、ずっといたい。


そう、強く思いながら。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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