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第38話 採石場へ

南門を抜けると、王都の喧騒が嘘みたいに遠のいた。


石畳が途切れ、土の道に変わる。


荷馬車の轍が残るだけの、踏み固められた道。


風が吹くたび、乾いた砂がさらさらと流れた。


「……静かですね」


リアが小さく呟く。


「ああ」


怒鳴り声も、笑い声も、屋台の匂いもない。


あるのは、風と草の擦れる音だけ。


王都の外は、こんなにも広くて、こんなにも冷たい。


俺たちは並んで歩く。


リアは半歩後ろ。


いつでも手が届く距離。


――絶対に離れない。


今朝、自分で言った言葉が胸に残っている。


(もう、二度と一人で行かせない)


右腕の刻印が、視界の端に入った。


黒い輪。


不気味な痕。


触れてみる。


……痛みはない。


ただ、そこにあるだけ。


それなのに、存在感だけが重い。


(危険ラインを越えたら、これが増える……か)


あの白い空間の記憶は曖昧だ。


夢みたいにぼやけている。


でも、「戻しすぎれば壊れる」という確信だけは、骨の奥に残っている。


まるで「忘れるな」と言われているみたいだった。


「時人様」


「ん?」


「……無理、してませんか?」


リアが心配そうにこちらを見る。


「顔色、あまり良くないです」


苦笑する。


「まあな。ちょっと無茶したから、反動が来てるだけだ」


「反動……?」


「頭痛とめまい。いつものやつ」


嘘は言ってない。


本当に、いつも通りの症状だ。


立てる。

歩ける。

戦える。


それで十分。


リアは少し黙ってから、小さく言った。


「……私、もっと強くなります」


「急にどうした」


「守られてばかりは、嫌です」


真っ直ぐな目だった。


「隣に立てるように。……時人様の足手まといにはなりたくない」


思わず足が止まる。


リアも止まる。


風が、二人の間を通り抜けた。


「……馬鹿」


「え?」


「足手まといだったことなんて、一回もねえよ」


即答だった。


「むしろ、いなかったら俺のほうが危なかった」


料理も、生活も、心も。


どれだけ救われてきたか、数え切れない。


リアは目を丸くして、それから少し照れたように笑った。


「……そう、ですか」


「ああ」


「……はい」


その返事が、やけに温かかった。



歩き続けて、約二時間。


王都の城壁は、もう点みたいに遠い。


代わりに見えてきたのは――


削られた岩山。


崩れた足場。


打ち捨てられた石材。


古い採石場。


「……あれ、ですね」


「ああ」


人の気配が、ない。


いや――


なさすぎる。


鳥も鳴かない。


虫の音もしない。


妙に、静かだ。


(隠れるには、最高の場所だな)


足を踏み入れた瞬間、空気がひやりと変わった。


湿った石の匂い。


地下から吹き上がる冷たい風。


自然じゃない。


どこか、澱んだ感じ。


「……嫌な感じですね」


リアが小声で言う。


「ああ。ここから先は戦闘区域だ」


「はい」


リアの指先に、淡い氷の魔力が集まる。


空気が白く曇る。


杖なんていらない。


この子は、素手で魔法を操る。


頼もしい。


俺は地面を見る。


足跡。


新しい。


複数。


……間違いない。


使われてる。


「こっちだ」


崩れた石壁の裏へ回る。


木の板で不自然に塞がれた場所。


ただの崩落跡に見える。


でも、隙間から風が流れている。


中に空間がある証拠だ。


「……入口」


リアが息を呑む。


俺は短剣を抜いた。


金属の擦れる音が、やけに大きく響く。


心臓が、ゆっくり早くなる。


恐怖じゃない。


集中。


戦闘前の静けさ。


「リア」


「はい」


「俺から離れるな」


「はい」


「何があっても、近くにいろ」


「……はい」


ぎゅっと。


コートの裾を掴む小さな手。


その感触が、やけに心強い。


(守る)


そのために来た。


話し合いも、情けも、いらない。


リアを狙った時点で、全員敵だ。


「……行くぞ」


板に手をかける。


ゆっくり外す。


暗闇が、口を開けた。


地下へ続く坑道。


冷たい空気が頬を撫でる。


まるで、獣の喉の奥みたいだった。


一歩、踏み込む。


後ろで、リアの足音が重なる。


光が細くなり、


闇が、深くなる。


もう、引き返せない。


俺は短剣を握り直した。


――ここで終わらせる。


絶対に。


その決意だけを胸に、


俺たちは、静かに闇の中へ進んだ。

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