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第28話 小さな依頼と、小さな拍手

洞窟を出た瞬間、肺いっぱいに外の空気が流れ込んだ。


土と湿気の匂い。

冷えた石の匂い。

それらが一気に遠のいて、代わりに草の匂いが鼻をくすぐる。


「……ふう」


俺が息を吐くと、隣でリアも小さく肩を落とした。


「お疲れさまでした、時人様」


「リアもな。ちゃんとできた」


「はい……でも、まだ胸がどきどきしています」


そう言って胸元に手を当てる姿が、妙に可笑しい。

戦闘中はあれだけ冷静だったのに、終わった途端に素が出る。


「それでいい。終わってから怖くなるのは、ちゃんと生きてる証拠だ」


リアは少しだけ目を丸くして――照れたように笑った。


王都へ戻る道は、来た時より短く感じた。


「さっきのフリーズ、狙いが良かった。転ばせるだけで充分だった」


「ありがとうございます。……あの、時人様」


「ん?」


「私、足を凍らせるとき……“痛くしない”ようにしていました」


「……できるのか?」


「できます。凍らせ方を薄くすれば、動けなくなるだけで……」


すごいな、と素直に思う。

俺は剣を振る時、相手を“倒す”以外の選択肢がほとんどない。

でも、リアは最初から“止める”という選択肢を持っている。


「……強いな」


「え?」


「やさしさのほう」


リアは一瞬言葉を失って、耳の先が少し赤くなった。


「そ、そんな……」


冒険者ギルドに入ると、いつもの喧騒が迎えてきた。


酒の匂い。

金属の擦れる音。

笑い声と怒号。


その中で、リアのメイド服はやっぱり目立つ。


「……メイド?」

「かわい……」


視線が集まる。

でも、もう昨日ほど居心地は悪くなかった。


むしろ――少しだけ誇らしい。


受付に向かうと、受付嬢が気づいて手を振った。


「時人さん、リアさん! 依頼の報告ですか?」


「はい。ゴブリン退治、完了しました」


「えっ、もう?」


俺は袋から討伐証明の耳を取り出し、台の上に置いた。


受付嬢の目が丸くなる。


「……こ、これ全部……?」


「洞窟の中にもいました。奇襲が怖いので、慎重に潰してきました」


リアが小さく頷く。


「二人で、協力して……」


その言い方が、少しだけ誇らしげで。

俺は思わず笑いそうになって、咳払いで誤魔化した。


「確認しました。依頼達成です」


報酬袋が差し出される。


「初仕事で洞窟制圧はすごいですよ。お二人とも」


周囲から、ひそひそ声が聞こえた。


「早くね?」

「ゴブリン巣穴で無事とか普通じゃないぞ」

「……あいつがXランクの時人か」


悪意はない。

純粋な興味と評価。


リアは報酬袋を両手で抱えて、小さく微笑んだ。


「……やりましたね、時人様」


「ああ」


それだけで、十分だった。


ギルドを出たとき、空はもう赤く染まり始めていた。


「今日は……もう帰ろうか」


「はい」


リアも素直に頷く。


さすがに初依頼で洞窟探索。

疲れていないわけがない。


並んで歩きながら、俺はふと思う。


――俺たち、ちゃんと前に進んでる。


昨日まで俺は一人だった。


今は違う。


後ろに守るべき存在がいて、

同時に――背中を預けられる相棒がいる。


「時人様」


「ん?」


「……私、“相棒”って言葉、好きです」


少し恥ずかしそうに、そう言った。


「……俺もだ」


短く返す。

それ以上言うと、なんだか照れる。


宿へ向かう石畳。


夕日が長い影を作る。


「今日は……疲れましたけど」


リアが、ふっと笑う。


「すごく、楽しかったです」


その言葉が、胸の奥にじんわり残った。


危険で、怖くて、血も見て。


それでも――楽しいと言える。


それが、きっと。


俺たちの“冒険”の始まりなんだと思う。


小さな依頼。

小さな成功。

小さな拍手。


でも――


この小さな積み重ねが、

きっと、俺たちの未来になる。


そう思えた。

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