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第18章 王の裁定

重い扉が開かれた。


王の間――

あの日、異世界に召喚され、すべてが始まった場所。


赤い絨毯の奥、玉座へと続く一本道を歩きながら、胸の奥が重くなる。

思い出したくもない記憶が、勝手に浮かんでくる。


期待に満ちた視線。

並べられた勇者候補。

そして――俺だけに向けられた失望。


「一般人」

「役立たず」


切り捨てられ、追い出された。

ここは、俺が不要だと判断された場所だ。


(……戻ってくるとはな)


近衛兵が立ち止まり、杖の音が響く。


王が現れた。


玉座に腰掛けるその姿は、相変わらず威厳に満ちている。

だが、その目には温度がない。

人を見る目ではなく、物を見る目だ。


王は、俺を一瞥した。


記憶の中の「役立たず」と、今目の前にいる俺を、静かに比べている。


「……霧島時人」


名を呼ばれただけで、空気が張り詰める。


騎士団長セネガルが一歩前に出て、簡潔に告げた。


「陛下。

この者より、今回の件について説明があります」


王は、わずかに顎を動かした。


「話せ」


俺は一歩前に出る。


感情は殺す。

ここでは、事実だけが意味を持つ。


「バルネス男爵暗殺事件について」

「その真犯人を拘束しました」


玉座の上で、王の眉がわずかに動く。


「同時期に急増していた獣人の子どもの誘拐についても、調査しました」

「誘拐された子どもたちは、西門を通じて運ばれ、王都外れの倉庫で管理されていました」


淡々と続ける。


「昨夜、その倉庫で人身売買のオークションが開かれていました」

「現場を押さえ、主催者と護衛を制圧し、身柄を確保しています」


懐から書類を取り出し、差し出す。


「夜間通行許可証と帳簿です」

「誘拐と輸送に便宜を図った者の存在を示す証拠になります」


王は受け取らず、側近に視線を送る。

書類が回収され、素早く確認される。


短い沈黙。


やがて、王が口を開いた。


「……なるほど」


声には、感心よりも計算が滲んでいる。


「かつては、役立たずと思っていたが」


その言葉に、胸の奥が少しだけ冷える。


「これほどのことを、一人でやり遂げたというのなら……

あの時、判明しなかった何か特殊なスキルでもあるのか?」


探る目。


価値があるかどうかを量る視線だ。


俺は、首を横に振った。


「いいえ」


間を置かず、続ける。


「時を、数秒戻すだけのスキルです」

「使える場面は限られています」

「今回は……たまたま、運が良かっただけです」


王は、俺を見下ろしたまま、しばし考え込む。


やがて、小さく鼻を鳴らした。


「まあ、よかろう」


玉座に深く腰掛け、宣告する。


「獣人とはいえ、多数の誘拐された子どもを救い出した功績は認めよう」

「また、バルネス男爵殺害の容疑も、ここに撤回する」


一拍置いて、続ける。


「没収していた装備、荷物はすべて返却せよ」

「それをもって、今回の褒美とする」


――褒美。


胸の内で、乾いた笑いが浮かぶ。


(……元に戻っただけじゃないか)


失った時間も。

受けた扱いも。

背負わされた疑いも。


何一つ、補償されない。


だが、ここで本音を出すほど、俺はもう子どもじゃない。


膝をつき、頭を下げる。


「陛下の寛大なご配慮に、

大いに感謝致します」


自分でも驚くほど、綺麗な声だった。


王は、それ以上興味を示さなかった。

視線を外し、謁見は終わる。


「下がれ」


その一言で、すべてが終わった。


王の間を後にし、別室で装備と荷物を返却された。


革の装備。

小型の盾。

短剣。


一つずつ、身に着けていく。


重さ。

革の感触。

身体に吸い付くような馴染み。


(……やっぱり、これだ)


ようやく、自分の場所に戻った気がした。


これで、容疑は晴れた。

もう、隠れる必要はない。


王都の通りを、大手を振って歩ける。


だが――終わりじゃない。


頭に浮かぶのは、一人の名。


グリムフォード侯爵。


王は裁かなかった。

なら、自分が行く。


俺は、装備を整え、静かに歩き出した。


次は――

あの男だ。

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